瓦礫の古城
@konohahlovlj
第1話 古城に棲む者
岡山駅からバスで15分、少し山を登ったところに山井市という町がある。自然豊かで歴史的な建造物が多いそこは、夏や冬になると全国でも人気なレジャースポットとなる。毎年、多くの家族、カップル、大学生グループが訪れていて、それが市で1番の産業になっていた。
そんな中でも、一番の名物は市の守り神、地明赤士の仏像だ。高台に設置されているそれは、市中のどこからでも眺めることができ、市民は皆揃って朝起きると、仏像に向かって感謝の言葉を並べる。地、天候の安定は全て、この地明赤士のお陰だと言い伝えられているからだ。
そもそも地明赤士は、その土地に綺麗な水、栄養価の高い土、そして元気的な動物、魚などの恵みを人間にもたらす神だ。
古くから言い伝えられているため、起源についての話は色々あり、信憑性が低い。しかし、どの話にも共通の逸話がある。それは、地明赤士が空の女神と恋をしているということだ。さらに2人の恋を謳う唄が、市の童謡となって言い伝えられている。
空の女神の詳細を知る者はいない。ふと空を見上げたら女の陰が見えたと話す者もいたそうだが、大抵は偶然に雲の形がそう見えただけだろうなどと解釈されて一蹴された。
ハカレは、バスに乗って、山井市に向かっていた。
彼は、夏休みを利用して突如破壊された山井市の復興ボランティア活動をしに、この市を訪れようとしていた。
16歳の彼は、好きな女の子を親友に奪われ、激しく落ち込んでいた。彼は親友を信じていたし、彼女のことも信じていた。それなのに裏切られたわけだ。
彼の夏休みは、憂鬱でつまらないものだった。そんな彼に彼の母が薦めたのがこの山井市の復興ボランティアだ。
ボランティアなら、新しい出会いがあるだろうし、自然豊かなところなので気分もスッキリするだろうというのが母の言い分だった。ハカレは、渋々その提案になることにした。
あまり気乗りしないまま岡山まで行き、バスに乗ったのだが、車窓から見える綺麗な景色にハカレは感動をおぼえつつあった。この景色が見れただけでも来た甲斐があったと彼は内心喜んだ。
しかし、バスが進むにつれて、自然が枯れていくのが分かった。生き生きしていた木々、草が黒っぽくなり腐ったように萎れている。
ハカレは、山井市の記事を読み直した。
7月の終わり、昼頃に何の前触れもなく山井市に地震と謎の強風が襲い、市の殆どの建物が崩壊した。多くの死者を出し、生き残った者も住む場所を求めて、その土地を追い出される。不思議なことに、この自然災害は山井市以外の土地にはまったく起こらなかった。
そのうちネット上では、これは地明赤士の祟りだと噂されるようになった。山井市の住民達がきっと神様を怒らせるようなことをしたのだろうといわれた。勿論のこと、住民達はそれに反発した。しかし、そんな彼らの声をかき消すように、噂は大きく膨れ上がってしまった。
ハカレが山井市に着いた時には、自然とは程遠い、まるで地獄のような別世界が待ち受けていた。
灰色がずーっと続く中をバスは、瓦礫が処理された車道を進む。しばらく行くと、複数の赤いテントが並んだところにバスは停車した。
運転手がアナウンスを流す。
「到着〜。到着〜」
ハカレは、人の流れにのっかり、車外に出ると、外で待ち構えていた案内人の指示に従った。
丁度、昼時だったため支給されたパンと豚汁を口に含むと、午後から早速作業に取り掛かった。
作業といっても、初日は説明が大半だった。上の空だったハカレは、瓦礫の処理は1人ではやらないこと、作業中は指定された作業着を着ること、などの説明以外をほとんど聞いていなかった。彼は、ずっと外の景色を眺めて、自身の傷口が治らないと予感していた。
曇った心持ちのまま夕食をとり、まだぎこちない雰囲気の布団を並べた大広場で就寝した。
2日目の昼食をとった後の休憩時間、ハカレは赤テント近くの崩れずに残った黒っぽい建物を訪れた。そこに着くと、テント側からは見えなかったが、テントの反対側の壁は全て破壊落ちていることが分かった。
玄関によくある階段の上に、大きな穴が開いていて、穴の向こうにはボロボロの車が突っ込んだ状態で放置されていた。
車が作ってくれた穴を通り過ぎると、右手に弧を描く階段が見える。ハカレは、好奇心だけでそれを上ることにした。
2階に上り切った時、ハカレは少し後悔した。床には一階まで突き抜けている穴が至る所にあった。向かいの廊下の奥の方に赤い血のようなものも見える。ハカレは、怖くなり、すぐに引き返したい気分になった。
ハカレが階段に向き直るその瞬間、動いている何かが目に映った。一瞬ではあったが、それは人の背中のようなものに感じた。
指定された作業着とは違う色であったため、ハカレは山井市民の生き残りなのではないかと思った。
ハカレは、また向きを直し、背中の見えた方に歩みを進めた。決して好奇心だけでない。人が入れるところなのだという安心感が彼を動かした。
生活感のある部屋が見えてきた。
ハカレは、慎重になりながらその一室に脚から入れて、中の様子をキョロキョロした。
ハカレの右真横に、女性か子供かくらいの身長で、肌を服で完全に隠している、目だけ出した人間が無言で立っていた。
「わっ!」とハカレは驚き、腰を抜かす。
それを見た謎の人間は、女の声で「誰だ!」と怒鳴った。
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