いつも塩対応で氷の女王という怖い異名を持っている美人な後輩がいるんだけど、友達になったら氷の女王では全く無かったし、思いのほかチョロインだった話

tama

第1話

高校二年生の春。


その日は俺(岡田和樹)が通っている高校の入学式で、俺は学級委員として入学式の案内作業を手伝っていた。

その案内作業の途中で、俺はとある新入生に目を奪われた。 それはとても可愛い女の子だった。


(か、かわいい……!)


その子の容姿は金髪ロングのさらさらヘアで、顔はハーフのような整った顔立ちをしていた。 後から聞いた話だけど、その子は日本と欧州系のハーフだそうだ。 その顔立ちはまるでアートの世界というか、素直に見惚れてしまうような美しさを持つ可憐な女子だった。 俺はその女子に一目惚れをしてしまった。


「俺は君に惚れた! 好きです付き合って下さい!」


入学式が終わってすぐに俺はその女子に声をかけて校舎裏に連れ出した。 そして俺はそのまま勢い任せに告白した。


「は? 無理です」


俺の唐突過ぎる告白はキッパリと断られたし、その女子には終始訝しんだ目で睨まれた事は言うまでもない。


「もう用が無いのなら帰ります、それでは」


その女子はすたすたと校舎裏から出て行った。 こうして俺の青春は終わった。


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俺が一目ぼれした女子の名前は佐伯ミア。 今年入学してきた新入生で、日本と欧州系のハーフらしい。 その綺麗な金髪ロングヘアと、白くて綺麗な顔立ちに俺は一瞬で心を奪われ、速攻で告白して秒で振られた。


でも俺は……佐伯に秒で振られはしたけど、でもたった一度の失敗で止まるような男じゃない。 俺はそれ以降も諦めずに、佐伯を何度も校舎裏に呼び出して告白した。


『好きだ、付き合ってくれ!』

『無理です』


『やっぱり好きなんです!』

『私は好きではありません』


『どうしても諦めきれない! 好きだ!』

『諦めてください』


『嫌な所は全部治す! だから付き合ってくれ!』

『存在そのものが嫌なので、それが治ったらもう一度来てください』


『この数週間良く考えたんだけどさ……俺はやっぱりお前の事が好きだ! つきあ』

『あもういいです無理です帰りますさようなら』


……以上、ここ数週間の告白ダイジェストでした。 難攻不落すぎて泣きそうになった。 こうして今度こそ俺の青春は終わりを告げた。


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「なぁ知ってるか佐伯、駅前にさぁ」

「……なんで私のクラスにいるんですか?」


今は授業終わりの休み時間。 俺は佐伯のクラスに行って彼女に話しかけていた。 といっても彼女はずっと勉強に集中していて、俺の方を全く見ようともしてこない。 だから俺が一方的に喋ってるだけなのだが。


何度も何度も佐伯に告白して振られ続ける……という悪夢の日々からは既に一ヶ月以上が経過していた。 このまま佐伯に告白し続けても成功する事は無いと悟り、俺は告白し続けるのを一旦中止にした。


佐伯に振られ続ける理由はわかってる。 そんなの佐伯の俺に対する好感度が圧倒的に低いからだ。 好きでも無い奴に幾ら告白された所で、OKを出すわけが無い。 それを悟るのに一ヶ月以上かかった時点で色々とおかしい気もするけどそれは気にするな。


「駅前に新しく出来た店なんだけどさ……」

「……」


ということで俺の好感度を少しでも上げるべく、俺は佐伯に話しかけて、何か好感度を上げれるような情報を引き出そうとした。 でも今のところ手応えとなるようなものは一切無かった。


「……でさ、その授業中にさ」

「……」


そもそも佐伯は俺の話を全てスルーして勉強を続けている。 情報を引き出すなんて到底無理な話だった。

カリカリと、佐伯がノートに書き込むシャープペンの音は全く止まる事は無かった。 俺はなんとなく気になって、勉強している佐伯のノートをチラっと見てみた。


「……へぇ」

「……」


そのノートはとても見やすかった。 重点をわかりやすくまとめていて、公式の解き方も1文1文丁寧に計算されていた。 そして何より、達筆で美しい文字だった。


「わかりやすくまとめてて凄いな、字も凄い綺麗だし。 これは素直に尊敬するよ」

「……っ」


初めて佐伯のシャープペンを動かす手が止まった。 佐伯はほんの少しだけビックリした様子だった。


「ど、どうした、佐伯?」

「いえ何も?」

「そうか? でも本当に凄いノートだな。 公式も暗記するんじゃなくて、公式自体の解き方を解説してるし……いや本当に凄いよ」

「い、いえ? こんなの普通ですけど?」

「……?」


ほんの少しだけど挙動不審な態度を取っている佐伯に俺は違和感を覚えた。 ……あれ? もしかして佐伯って……?


「そんなことないだろ、こんな凄い事が出来るのは佐伯だけだって! もしかして他の教科のノートもまとめてるのか?」

「え、えぇまぁ……」

「そうなんだ! 佐伯の他のノートも見てみたいな! 俺も自分のノート作りの参考にしたいしさ! だから頼む!」

「ま、まぁ、そこまで言うなら。 はいどうぞ、他の教科のやつです」

「ありがとう! わぁ、どれも凄い綺麗にまとめてて凄いな!」

「……ふ、普通です」


佐伯は素っ気ない態度をしていたが、俺は見逃さなかった……佐伯の口角がほんの僅かに引きあがったのを。 つまり彼女は今……笑っている!


(ふっ……見つけたぜぇ……佐伯さんよぉ!)


佐伯の好感度を上げる方法を俺は見つけた。 どうやら佐伯は褒められる事に耐性が無いらしい。 そして佐伯は褒められる事に不快感は無いようだ。 むしろ褒められて喜んでいるようにも見えた。 これは大きな情報となり得そうだ……!


そして1ヶ月以上も佐伯の近くにいてわかった事がもう1つあった。 それは佐伯自身の評判についてだ。

佐伯ミアという人物はその見た目の可愛さや、ハーフ顔の珍しさもあり、周りの生徒からの評判も上々……というわけでも無かった。


その理由は2つある。

1つ目は佐伯があまりにも寡黙かつ塩対応な性格をしているのため、周りの生徒は佐伯に声をかけるのが辛いらしい。 実際に俺は佐伯のクラスに何度もお邪魔しているけど、佐伯が俺以外の生徒と話している姿を一度も見た事が無かった。


そして2つ目は、佐伯自身の目だ。 佐伯に喋りかけると、いつも睨みつけるような目でこちらを見てくる。 それは俺相手だけじゃなく、他の誰を相手にしてもそうだった。


この佐伯自身の寡黙さと、眼光の怖さが相まって、次第に佐伯に声をかける生徒はいなくなっていったようだ。


そしてそんな彼女には、いつしか“氷の女王”という渾名が付けられていた。 寡黙な性格かつ、金髪&ハーフ顔で睨みつけられる怖さも相まって、佐伯は異国の女王様的なポジションをこの学園内で得ていた。


(これも使える情報になるはずだ)


今回俺が得た情報は2つ。

1つ目は佐伯には友達がおそらくいない。

2つ目は佐伯は褒められる事に耐性がなく、褒められると多少は喜んでくれる。


ここから俺の好感度をマイナスからプラスに引き上げるためには……


(……これだ! これしかない!)


俺は今思いついた事を早速明日実行する事に決めた。


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次の日。

俺は久々に佐伯を校舎裏に呼び出した。


「……またですか? 先輩」


佐伯は腕を組みながらキレそうな目つきで睨んできたけど俺は動じない。 たった数回振られた程度で俺が止まるなんて思うなよ!


「来てくれてありがとう、佐伯さん」

「“さん”付けなんて気持ち悪いですね。 まぁ年上ですし、目上の人に呼び出されたら従いますよ」


いつも思うけど、律儀に毎回校舎裏まで来てくれるよなこの子。 俺だったら入学して早々に何度も何度も告白してくるようなヤバイ奴からの呼び出しなんて無視する。 もしかしたら実は優しい子なのかもしれない。 いやめっちゃ毒づいた事ばかり言うし、ずっと俺の事睨みつけてきてるんだけどさ……


「それで? 今日は何の用なんですか?」

「あぁ、今日呼び出したのは他でもない。 入学式の件についてなんだが」

「入学式……あぁ……」


佐伯は入学式に俺に告白された事を思い出したようだ。 目を閉じながら頭を手で抑えている。 そんなに忌々しい記憶になっているのか……?


「はぁ……全く。 本当にいい迷惑です。 私は勉学に励むためにこの学校に進学したんです。 だから恋愛などに現を抜かすつもりはありませんので」

「あぁ、そうだったんだな……」

「はい、だから……ってあれ、先輩、なんだかいつもと違くないですか?」


佐伯は俺の雰囲気がいつもと違うと感じたようだ。 いつもなら佐伯の話なんか気にせず速攻で告白していたからな。 でも今日の俺は一味違う。


「佐伯さん!」

「は、はい?」

「あの時は突然告白してしまってすまなかった! 佐伯さんの気持ちを考えずに本当にすまなかった! あの時は気が動転していたんだ。 どうか許して欲しい……!」

「……え?」


俺は佐伯に向かって深々と頭を下げて謝罪した。 佐伯はまさか謝られるとは思ってなかったようでビックリしたような表情をしていた。


「い、いや別に……そこまで頭を下げて頂く事でもないんですけど……」

「いやそんなことはない! 佐伯さんに迷惑をかけたと反省している。 だから、どうか許して欲しい!」

「わ、わかりましたから、本当にもういいですから、頭を上げてください!」


俺は佐伯に言われて頭を上げた。


「ありがとう、そして今回は本当にすまなかった。 もう軽々しく告白なんてしない事を誓う。 だから、その代わりに……俺は佐伯さんと友達になりたいんだ」

「は、はぁ? と、友達……ですか?」


ここからが俺が昨日考えた新しい作戦だ。


「あぁそうだ、友達だ。 今まで散々と佐伯さんに無茶な事を言って付きまとってきて今更何言ってるんだって思うかもしれない。 だから今までの行いに関しては深く反省してる! ……でも佐伯さんと友達になりたいのは本当なんだ! だから頼む、友達になってほしい!」

「……」


佐伯は目を閉じて少しの間黙った。 そして数秒後に目を開けてまた喋り出した。


「……先輩? 今度はどんな狙いがあるんですか?」

「うぐっ! な、なにもナイデスケド?」


まずい、俺は佐伯にちっとも信用されてなかった。 佐伯にギロリと睨まれたけど、俺は目を反らすことで精一杯だった。


「……はぁ、わかりました。 いいですよ、友達になるだけなら」

「あ、ありがとう! 本当にありがとう佐伯さん! 俺、メチャクチャ嬉しいよ!」


入学式からすでに1月以上が経過したが、今日ようやく、俺は佐伯と友達になる事が出来たのであった。


(計算通り!)


ここまでは俺の思惑通りだった。 昨日俺が思いついた作戦はこうだ。


佐伯は友達と呼べるような親しい人は周りにいない。 それは“氷の女王”という渾名によって、周りから敬遠される存在になっているからだろう。 だから俺はまずは率先して佐伯の友達になる事から始める。


そして友達ポジションを得ることが出来たら、そこからは友達として佐伯の事を褒めて褒めて褒めまくって……徹底的に甘やかす! という作戦だ。


……いやわかってる、こんなしょぼい作戦で好感度が簡単に上げるわけないだろうってさ。 だからこの作戦は長期戦だ。 長い時間をかけてゆっくりと好感度を上げるんだ。

一ヶ月や二ヵ月程度で佐伯と付き合えるなんて俺はもう思わない。 これは一年……いやもしかしたら、俺が卒業する直前までかかるかもしれない長期的な作戦だ。


だって俺の相手は“氷の女王”なのだから。 きっとこんな事では簡単に好感度が上がらない。 それはわかってる。 わかっているけど……!


(それでも、好きになっちまったもんはしょうがないだろ!)


「いやぁ本当にありがとう! 俺、佐伯さんと友達になれて嬉しいよ!」

「私は嬉しく無いですけど」

「まぁまぁいいじゃないか! あ、ちなみになんだけど、佐伯さんってこの学校の友達は何人くらいいるの?」

「本当にデリカシーの無い人ですね。 はぁ……アナタだけですよ」

「へ、へぇ、そうなんだ(やっぱりそうだよな)」


よし、まずは想像した通りだ。 これでしばらくの間は佐伯の友達枠は俺一人だけなはず。 佐伯に新しい友達が出来るまでの間に、少しでも好感度を稼いでおきたい所だ。


「そもそも学生の本分は勉強ですから。 私は友達を作るために学校に来ているわけではありませんし。 だから先輩と友達になったからと言って、私のプライベートの時間までは割くつもりはありませんから」


佐伯は冷ややかな目で俺の事を睨んでいた。 俺と親しくするつもりは全く無いという意思表示だ。 でも大丈夫、これも想定内だ。 たったの数か月で佐伯とは付き合える程仲が良くなるなんて思ってない。


「あぁ、それはもちろんわかってる。 佐伯の負担になるつもりは無いさ」

「ふん、どうですかね? どうせ先輩の事だから、私に友達がいないという所につけこんで、上手く取り入ろうっていう魂胆なんじゃないですか?」

「うぐ……い、いや? そんな事はないぞ?」


やばい、普通に図星なんだが!


「はんっ! どうですかねぇ。 言っときますけど、彼氏はもちろんですが、友達が欲しいなんて思った事は今まで一度もありませんから」

「え? そ、そうなのか?」

「えぇ、私の人生には全くもって不必要な存在です。 私は勉学に励み、良い成績を納めて、志望する大学へと進学する事が望みです。 それを叶えるために友達は要りますか? 要りませんよね?」


前々からわかってはいたけど、佐伯はかなり尖った性格をしているな。


「でも友達がいたら息抜きとか、一緒に遊んだりとか……あとはほら! 趣味を共有したりして、なんか出来る事を色々と増やせるんじゃないか?」

「ふん、お生憎様ですけど、私は息抜きも自身の趣味も全て私1人で完結できますから。 他人と一緒に行動しないと出来ないなんて、それはただの弱者です」


や、やばい……佐伯に論戦で勝てる気がしない……というか本当に佐伯を攻略出来る自信も無くなってきた。


「そ、そんな事は無いと思うが……あ、じゃあ昼ご飯とかはどうだ? 友達と話しながら食べたら楽しいし、それにほら! 皆でワイワイと食べた方が美味しさも倍増したりするもんだろ」

「はっ! 先輩は本当に馬鹿なんですか? ご飯なんてそれこそ群れて食べようが一人で食べようが味なんて一切変わらないでしょう? そんな非科学的な事言わないでくださいよ、先輩は一体何歳なんですか? くすくす」


佐伯は心底馬鹿にしたような目つきで俺の事を笑ってきた。 そんな目つき友達相手にしちゃダメだろ!


「だから先輩と友達になったからと言って、私は先輩のために使う時間なんてありませんから。 まぁ先輩が何を考えているかわかりませんけど、頑張った所で無駄ですので」

「ぐぎぎっ、あ、あぁそれでも頑張るさ……!」

「ふん、諦めの悪い人は嫌われますよ」

「ふ、ふん。 お生憎様だけど、俺の好かれたい相手からはこれ以上無いってくらいに嫌われてるんでね」

「あらあら……それは可哀そうに……くすくす」


佐伯は口に手を当てながらまた意地悪そうに笑いだした。


「ふん……やってやるさ……!」


やはり“氷の女王”という異名は伊達じゃない、佐伯は一筋縄では絶対にいかない相手だ。 しかし対戦相手として不足は無い、それでこそ俺の惚れた女だというもんさ……! それに俺が学校を卒業するまでの時間はまだまだある。 だからゆっくり焦らず行こう!


そしてついに、今日ここから俺と佐伯の恋の駆け引きがいよいよ始まるのであった!


…………

…………

…………


『おはよう佐伯! 今日も朝から勉強偉いな! 俺も一緒に勉強してもいいか? ほら、佐伯のノートが凄い見やすかったからさ、俺も参考にしたいと思って一緒に勉強したいんだ』


『ノート貸してくれてありがとう! 凄い見やすかったし、去年の復習をするために凄い役だったよ! いつも本当に助けてくれたありがとうな!』


『学園3位!? 佐伯は本当に優秀だな、尊敬するよ。 あ、俺数学だけは得意だから、もしわからない事あったらいつでも聞いてくれ!』


『貸してくれた小説返すな、凄く面白かった! 佐伯は読む本のセンスいいよな! 次もまたオススメの本が合ったら貸してな。 あぁ、うん楽しみにしてる!』


『佐伯に教えて貰ったドラマ見たよ! 凄い面白かった! やっぱり佐伯のセンスは抜群だよ! 佐伯のオススメにハズレは無いもんな! あ、そういえばあのドラマって海外版もあるらしいな、今度はそっちも見てみようかな。 佐伯も見たらまた一緒に感想とか語り合おうぜ!』


『あ、今日の髪型凄い似合ってるな! 佐伯はさらさらなロングヘアだし、色々なヘアアレンジが試せていいな! いつものヘアスタイルも好きだけど、今日のも好きだな』


『へぇ、佐伯って音ゲーもやるんだな、って何このスコア!? 凄すぎだろ! 俺なんて全然下手だからさぁ……え!? 佐伯のプレイしてる所見してくれるの! 見たい見たい! 参考にさせてくれ!』


『え? このお弁当佐伯が作ったの? 凄いなぁ、自分で料理が出来るのは本当に尊敬するよ! あ、じゃあさ、良かったら今度一緒に昼ご飯食べないか?』


『佐伯は甘い物が好きなんだ、実は俺も好きなんだ。 あ、じゃあさ、今度一緒にスイーツ屋さんにでも行かないか? ほら、男1人だと恥ずかしくていけないからさ。 佐伯と一緒なら心強いから頼む! あ、実は前に調べたんだけどこのお店が美味しらしいぞ』


…………

…………

…………


佐伯と友達になってから2ヵ月が過ぎた。 俺と佐伯との恋の駆け引きはまだ始まったばかり……のはずだったんだけど……


「おはようございます、先輩!」

「お、おはよう佐伯」

「先輩、どうですかこれ!」

「あ、あぁ、今日のヘアスタイルも可愛いな」

「ふふん、気が付きましたか? 新しいカチューシャを買ったんで、それに合わせてみたんです。 くすくす、先輩みたいなデリカシーの欠片も無いお馬鹿さんでもちゃんとわかるもんなんですね」

「一言余計だっての……」


「それと、今日はお昼ご飯は何処で食べましょうか? 最近は暑くなってきましたし図書館でも行きますか?」

「すまん、昼休みは学級委員の仕事があるから、今日は一人で食べるわ」

「な、何言ってるんですか先輩は! 先輩が一人でご飯を食べるなんてそんなの寂しいじゃないですか。 それにほら、ご飯は一緒に食べた方が美味しいんですよ!」

「え? あ、あぁ……それはそうだけど」

「お昼は先輩の仕事が終わるまで私待ってますから。 だから早く教室に来てくださいね!」

「あ、あぁわかった」


「あ、そういえば何で昨日LIME既読スルーしたんですか? 私返事来るの待ってたんですけど?」

「え? あ、すまん。 返信ボタン押せてなかったみたいだ」

「何やってるんですか先輩は! ちゃんと二回以上は画面を確認してください。 返事を待ってる相手がいるんですから、ちゃんとしてください先輩! はぁ全く……先輩はいつまで経っても本当にダメダメですね」

「あ、あぁごめん」

「じゃあ罰として今日の放課後はクレープ屋さん一緒にいきましょう。 駅前に新しいお店が出来たんです!」

「そ、そうなんだ……」


おかしい……何かが絶対におかしい……


(お、おいどうした! 氷の女王! アンタ、2ヵ月前に俺に向かって言ってた事と全然違うじゃねぇか!!)


な、何だこれは? 俺の思ってた展開と違うんだけど? 俺はもっと長い時間をかけて、佐伯との恋の駆け引きを繰り広げていくつもりだったんだけど……あ、あれ、本当になんだこの状況は?


(やばい……もしかしたら甘やかしすぎたのかもしれん)


佐伯と友達になったあの日から、俺は佐伯の事を可能な限り褒めまくり、そして可能な限り甘やかす日々が始まった。


流石に作戦が露骨すぎて佐伯も引くんじゃ……? って当初は思ったりしたのだけど、そんな事は無かった。 確かに最初は「うるさい」って佐伯は言ってたけど、今じゃニヤニヤと笑いながら「もっと私を褒めろ」と自分から要求するようになりました。


まぁつまりは速攻でデレたんですこの子……チョロすぎてお兄さんちょっと心配だよ……


「……それで、今日はここに行きたいんですけど良いですか? って先輩、聞いてますか?」

「え? あ、あぁうん聞いてるって。 何処に行きたいんだ?」

「ここです、ここ!」


そう言って佐伯は自分のスマホを俺に差し出してきた。 画面にはクレープ屋さんのHPが開かれていた。


「さっき言ったクレープ屋さんです。 果物に拘ってるらしいんですよ」

「へぇ、こりゃ確かに美味しそうだな」

「それにこのクレープ屋さん、ワンコインらしいので、万年金欠な先輩にも優しいですね、くすくす」

「うるせぃ、余計なお世話だ」


2ヵ月前と比べると、佐伯はだいぶ表情豊かになったし、良く喋るようにもなった。 尖っていた性格もだいぶ丸くなった。

でも俺の扱い方だけは昔と変わらず雑な扱い方をされてる気はする……まぁ佐伯が楽しそうに笑ってるからそれでもいいけどさ。


「あ、私苺のクレープにするんで、先輩はバナナにしてくださいね。 そしたらそれ半分こにしましょう! どっちの味も食べてみたいですし。 ね、いいですよね、先輩?」

「え? あ、あぁうんそれはもちろん……」


あとなんというかさ……この子、“氷の女王”っていう異名で呼ばれてるんじゃなかったっけ? なんかだいぶ俗っぽい感じになってしまったというか。


「う、うーん……?」

「どうしたんですか先輩? 何か考え事ですか? ふふ、いつも以上に面白い顔になってますよ、くすくす。 もっとキリっとした方が女性からモテるんじゃないですかね?」

「よ、余計なお世話だ!」


ニヤっと笑う佐伯の顔は小悪魔的な憎たらしい笑顔だった。 おい、本当に誰だよ“氷の女王”なんて言い始めた奴は! 正反対な性格してるぞコイツ!


しかも質が悪い事に、コイツは俺以外の生徒に対しては今も変わらず寡黙な塩対応をしているので、他の生徒からは今も変わらず“氷の女王”としての佐伯しか認識していない。


だから今でも佐伯の友達枠は俺1人だけだった。 つまりこの“氷の女王”もとい、ただの“毒舌小悪魔”に対応出来るのは、未だに俺1人だけなのであった。


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放課後。 俺は佐伯と約束したクレープ屋さんに来ていた。 約束通り、苺とバナナのクレープを購入して半分こをして食べた。 その後はいつも通りダラダラと喋りながら帰宅していく。


「なぁ、佐伯?」

「なんですか、先輩」

「友達は作らないのか?」

「何ですかそのデリカシーの無い直球な質問は。 いや、友達なら目の前にいるじゃないですか」


そういって佐伯は俺の顔に向けてピシっと指を差してきた。


「いや、俺以外にって意味でだ」

「先輩以外で? いませんよ?」

「そんなキッパリと言わんでも……何で他に友達を作らないんだ? 俺と一緒にいて多少は楽しいんだろ?」

「……えぇ、まぁほんの少しくらいは楽しいですよ」

「じゃあさ、もっと沢山友達を作った方がもっと楽しくなるんじゃないか?」

「……」


そう言うと佐伯は一瞬黙ったが、すぐに俺の方を見て喋りだした。


「はぁ、友達が欲しい欲しくないは別として……あのですね、私に友達が出来ない大きな理由は、どう考えても先輩のせいなんですけど?」

「……は?」

「だってそうじゃないですか。 私の自由時間の全ては先輩と過ごしてるんですよ?」

「あ……た、確かにそうだけど……」


確かに俺は佐伯と友達関係を結んでから、ほぼ毎日佐伯と行動を共にしていた。


「あーあ、どうしてくれるんですか先輩? 私……先輩のせいで誰とも仲良くできてないんですよ? くすくす、この責任、取ってくれるんですよね……?」

「せ、責任って!? な、何だその怖い単語は!?」


くすくすと笑う佐伯に恐怖を覚えた。 同じ笑い方でも、昔の尖ってた性格の頃の方がまだ安心出来た気がする。


「くすくす。 というか先輩だって、私以外と話す相手なんていないでしょう? いつもいつも私の所にすぐ来るじゃないですか。 ぷぷぷっ、先輩こそ友達作りをした方がいいんじゃないですか? くすくす」

「いや、まぁそれを言われたら確かに俺友達少ない方だけどさ。 でも多少だけど俺にだって友達はいるぞ」


「……え?」


一瞬佐伯が固まった。 そのまま少しの静寂が訪れた後、ようやく佐伯が口を開いた。


「……ま、まぁそうですよね、普通男友達の1人や2人くらいいて当然ですよね。 でも流石に女子の友達はいませんよね? くすくす、本当に可哀そうな先輩ですね。 高校2年にもなって私以外の女子と話せないようじゃこの先心配ですよ、あぁ本当に可哀そうで」

「え? 佐伯以外の女子とも普通に話してるけど?」


「……え?」


また佐伯は固まった。 本日二度目の静寂である。 そしてまた少ししてから佐伯は口を開いた。


「……え? せ、先輩? わ、私以外の女子とも話してるんですか?」

「うん」

「え、えーっと……確認なんですけど、先輩は私の事が好きなんですよね?」

「うん」

「それなのに私以外の女子とも話してるんですか?」

「うん」

「そ、それはその……私に対して失礼だとは思わないんですか?」

「うーん……ううん」

「ううん!?」


佐伯は声を荒げながら体をのけ反らした。 そしてすぐに俺に詰め寄ってきた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 先輩は私の事が好きで好きでたまらないんですよね?」

「そ、そこまで大っぴらに言っては無いけど、ま、まぁそうだよ?」

「じゃ、じゃあ! なんで私以外の女子と話すんですか? それは浮気的なアレじゃないんですか!?」

「……え? だって俺達付き合ってないよね?」


「え?」

「え?」


本日三度目の静寂が訪れた。 ……あれ、今俺何か変な事言ったのか? 言ってないと思う。


「いやでも、さっきの佐伯の言った事はもしかしたら合ってるのかもしれないな……」

「え!? は? え? ど、どれのことですか!?」

「いや、俺と四六時中一緒にいるせいで、佐伯に友達が出来ないってやつさ」

「い、いやそんなのは言葉のあやというか、そもそも私友達欲しいとかそういうタイプじゃないというか、先輩さえ入ればいいというかなんというか、私に友達が出来てしまったら先輩と会う時間が減ってしまうのに先輩はそれでいいのかというか」

「うーん……良し決めた!」

「は、はい!?」


確かに俺のせいで佐伯に友達が今も作れてないというのはあり得る話だった。 それは流石に申し訳ない事をしたと思う。 ……決して“責任を取れ”という恐ろしい言葉にビビったわけではない。 いや本当に。


終始佐伯は早口で何か喋っていたようだが、早口すぎて聞き取れなかったので、俺はその言葉には気にせず佐伯に向かって喋り出した。


「ということで俺はこの数日間は佐伯に付きまとわないようにする! 大丈夫、今の佐伯は昔の尖がってた頃よりだいぶ丸い性格になってるから! だからすぐに友達なんて作れるはずさ!」

「え!? は!? え、ちょ……私そんなことお願いしてな」

「ということでしばらくは俺のいない自由な時間を過ごしてくれよ! じゃあな!」

「え!? いやちょっと待ってって!!」


佐伯との帰り道はここから違うので、俺は佐伯に別れの挨拶をして自宅へと帰って行った。 佐伯は俺の事を呼び止めようとしていたけど、今回ばかりは心を鬼にして無視をした。 俺のせいで友達が出来ないってのは、流石に悲しすぎるしな。 それに今の佐伯の性格なら友達の1人や2人くらいすぐに作れるだろう、今の佐伯は結構面白い奴だし。


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そして次の日の昼休み。


いつも昼ごはんは佐伯と食べていたが、今日はアイツとの約束通り付きまとわないようにする。 今日はまだ一度も佐伯に会いに行ってないけど、まぁアイツならきっと大丈夫だろう。


「あれ? 岡田君が教室でご飯食べてるの、なんだか珍しいね」

「あ、本当だ。 お昼休みはいつも何処かに行ってたのに」


久々に教室で昼ごはんを食べていると、右隣の席に座っている女子の七草千紗子と、その前方に座っている神田沙也の2人が俺に声をかけてきた。


「なに、どうしたの? いつも一緒にいる後輩ちゃんと喧嘩でもしたの?」

「え、そうなの? 岡田君が喧嘩とは意外だね。 相談ならいつでも乗るよ」

「あぁいや、別にそういう訳じゃないんだ」


俺は首を横に振った。


唐突だけど、俺の通っているこの高校には綺麗な女子が多い。 今喋っている七草と神田も凄い綺麗な女子生徒だ。 特にこの高校で一番の美人だと言われているのは、今隣の席に座っている七草千紗子だ。 彼女は先月の体育祭で開催された余興のミスコンでぶっちぎりの1位を取っていた。


それに七草は見た目の綺麗さだけでなく、品行方正、頭脳明晰、誰よりも優しく、とても明るい美人な女子。 男子からの人気は勿論だが、同性の女子からの信頼度も高くて、後輩にもかなり慕われている。 まさに完璧な女子だった。


そんな彼女の事を下級生達は尊敬の念を込めて、『立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は千紗子様』 なんて仰々しく呼ばれているらしい。 『氷の女王』と畏敬の念を込めて呼ばれてる俺の惚れてる女子とは全く違うな。


「はは、苗字の七草呼びだったら元の百合の花に負けてたな」


なんて昔に軽口を叩いたけど、七草は「後輩から慕われるだけで私はすっごく嬉しいんだよ」と笑顔で応えてた。 本人的には仰々しい異名でも付けて貰った事にかなり満足しているらしい。 もしかしたら意外と承認欲求がある子なのかもしれないな。


「おーい、岡田ー」

「ん? どした?」


昼ごはんを食べ終えて、俺は七草と神田の2人と雑談しながらまったりと昼休みを過ごしていたら、突然クラスメイトに呼ばれた。


「一年生の子がお前を呼んでってさ。 廊下で待ってるぞ」

「ん、誰だろう? 了解、今行く」


クラスメイトに呼ばれたので、俺は席を立って廊下に出て行った。 するとそこにいたのは佐伯だった。


「あ、あれ? さえき……」

「先輩ちょっと!」

「え? ってちょっとまっ!」


佐伯に呼ばれたと思ったら一瞬で俺の腕を掴み取って、そのまま校舎裏まで連れ出された。


ドンッ!


そして着いた瞬間、佐伯に壁ドンされた。 俺は普通に驚いてビクっとしてしまった。


「先輩? 私に何か言う事はありませんか?」

「え!? えーっと……な、何がでございましょうか……?」

「な、何が……? じゃないでしょうがあああああああ!」


何も思いつかず俺がそう呟くと、佐伯は俺の胸倉を掴んでそのままぐわんぐわんと振り回してきた。


「せ、せ、せせ先輩! なんでアナタみたいな一般人が七草先輩と喋ってるんですかああああ!?」

「ぐえっ!? ぐ、ぐるじっ……!」

「あ、あ、ああ、あんな化物級の美人相手じゃ……! わ、わわ、私に勝ち目なんて無いじゃないですかああああ!」

「ぐが……! ぎ、ぎぶ……ぎぶぎぶ!」


俺は佐伯の腕を何度も叩いた。 佐伯は俺の首が閉まっている事に気が付き、「ご、ごめんなさい……」と言って俺の胸倉から手を離した。


「し、失礼取り乱しました。 ……でも教えてください、なんで先輩如きただの一般人があの七草先輩と一緒に話していたんですか?」

「た、ただの一般人って……それを言うなら七草も一般人……」

「な、何言ってるんですかこのバカチンはああああ!!!」


佐伯は前のめりになって怒りだした。


「だ、だってあの人! 先月の体育祭で開催されたミスコンで2位に大差を付けて圧倒的1位を取った超美人じゃないですか!! そんな化物級の超美人を岡田先輩のような有象無象と一緒にしないでください!」

「お、おう……」


俺は佐伯の気迫に押されてしまった。


「そ、それで! ど、どうして七草先輩と親しげに話してたんですか!? や、やっぱり……そういう事だったんですか!」

「す、すいません、そういう事とは……一体なんの事でしょうか?」


俺は恐る恐る聞いた。 そしたら佐伯は鬼人の如く怒りだした。


「昨日! 私を先輩から遠ざけた理由ですよ! わ、私には先輩しか友達がいないって言ったのに……! それなのに先輩は私から離れようとしたじゃないですか! わ、私の事が嫌いになったから距離を取ろうとしたんですよね……!」

「は、はいい?」


俺はきょとんとした顔をしてしまった。 ちょっと待ってもらいたかったけど、佐伯の怒号は止まらない。


「でももしかしたら私の勘違いかもしれないって……! そう思ったから……だから今日のお昼休みに先輩の教室に行ったのに……そ、そしたら! そしたら先輩……さ、七草先輩と仲良さそうにご飯食べてて……!」

「い、いやそれは偶然というか」

「も、もう私の事なんかどうでもよくて……本当は七草先輩とお付き合いしたいって事なんですよね……! せ、先輩は……私じゃなくて七草先輩の事が好きになった事なんですよね……!」

「え? え? ちょ、ちょっとごめん、少し冷静になって」


「だって少し前までは! 先輩は私に“好きだ”って、何度も告白してくれたじゃないですか! そ、それなのに! ここ数か月は一度も言ってくれてないじゃないですか! こ、こんなの……こんなのもう……私の事を嫌いになったって……事じゃないですか……」

「え、え? いや確かに言ってたけど、それって一番最初期の話じゃ」

「ぐすっ……ぐすっ……」

「……え?」


俺は弁明しようとあれこれ考えていたのだけど……その時、佐伯が涙を流している事に気が付いた。


「ぐ、ぐすっ……お、お願いします先輩、目を覚まして下さい……せ、先輩みたいな凡人に七草先輩には釣り合いません、月とすっぽんなんです……ひっぐ。 じ、自分の顔を鏡でちゃんとよく見てください……先輩の顔はミジンコ級なんです、もっど自覚じでくだざいよ……ぐずっ」

「さ、佐伯……」


ど、どうしよう……今、目の前で俺の好きな女の子が大号泣しながら俺の事を壮絶にディスってきてるんだけど、俺は一体どんな顔をして聞けば良いのだろうか。 いや俺も普通に泣きそうになる。


「ぐすっ……凡人で顔も良くないしデリカシーのかけらも無い先輩には……ひっく……私くらいがちょうどいいんですよ。 だから帰ってきてくださいよ、七草先輩の事は諦めて……私の所に帰ってきてくださいよ……うぅ……」

「っ!?」


佐伯のその叫びにも似た魂の言葉に……俺は不覚にもドキッとしてしまった。 何だか今この状況で告白してしまえば、全てに決着が付きそうな気はしたけど、でも俺はそんな事はせずに、一度だけ軽く深呼吸をしてから佐伯に喋りかけた。


「……なぁ、佐伯。 とりあえず今の佐伯の話を聞いてさ、3つほど言いたい事があるんだけど、それ言ってもいいか?」

「ぐすっ……なんでしょうか先輩、ひっぐ……」


泣いている佐伯に発言する許可を貰い、今の会話で訂正したい部分を俺は喋りだした。


「まず一つ目だけど、俺は別に七草と付き合いたい! ……という男女のアレ的な気持ちは一切無い」

「う、うそだ! 七草先輩に告白されたらどんな男子でも付き合うに決まってます! 私だってもし男子だったらそうします!」

「いやまぁそりゃそうだけど。 でも確か七草って、付き合ってる奴がいるだか、好きな奴がいるって話だからな。 だから七草は今まで何人もの告白を受けてるけど、それは全員断ってるからな」

「……え? そ、そうなんですか?」

「あぁ、本当だ」

「そ、そうなんですか……それなら良かったです……」


まず一つ目の勘違いを訂正した。


「そして二つ目だけど、好きとか告白しなくなった、とかいうアレコレの件についてだけどな」

「っ! そ、それです! な、なんでなんですか先輩!」

「い、いやこれは前に佐伯に言ったじゃないか。 佐伯に迷惑をかけたから、もう軽々しく告白なんてしないってさ。 だから言わなくなっただけだ」

「……じゃあいつになったら言うんですか」

「……は?」

「軽々しく告白なんてしないってのは聞きました。でもそれから一切告白してこないじゃないですか! しかも先輩はその期間も他の女子と仲良く喋っていたんでしょ! そんなの、もう私の事が好きじゃないっていう証拠じゃないですか!」

「いやそんな事はないし、今日のだって偶然だったんだけどな……あ、忘れてた。 これに付随してるんだけど最後の三つ目だけどな」

「ぐすっ……なんですか……」


涙を流しながら佐伯は俺の事をじっと見てきた。


「最後に三つ目だけど、俺は別にカッコいい見た目とかしてないし、モテたりしないのも本当だ。 だけどな……」

「ふぇ……せ、せんぱい……?」


俺は涙を流している佐伯に近づいていった。 そしてそのまま……


「だけどな、俺の好きな女の悪口を言うんじゃねぇ」

「あいたっ!」


俺は佐伯のオデコ目掛けてデコピンを食らわした。 佐伯は痛そうにオデコを抑えた。


「俺の好きな女はな、俺にとっては他の誰よりも一番可愛いんだよ。 それこそ七草よりもな。 それなのに、自分自身の事をスッポン扱いしてんじゃねぇぞ、佐伯」

「せ、先輩……そ、それってつまり……?」

「……恥ずかしいからこれ以上は言わん」


佐伯は顔を赤らめながら俺の方を見てきた。 そんな俺は自分で言ってて恥ずかしなり、佐伯の事は見ないようにして、そのままそっぽを向いた。


----


その日の放課後。 今日も俺は佐伯と一緒に下校をしていた。


佐伯にしばらくの間は付きまとわないと昨日言ったばかりだけど、佐伯を1人にすると暴走する可能性が出てきたので、その約束は今日のお昼で破棄された。


「それで、先輩はいつになったら告白してくれるんでか?」


帰宅途中に佐伯は俺に聞いてきた。


「……まぁ頃合いを見計らってする予定だ」

「今日はしてくれないんですか?」

「……やだよ。 昼休みに色々合って気恥ずかしいじゃねぇか。 それに気軽に告白はしないって約束しちゃったしな」

「はぁ……全く先輩はいつまで経ってもどうしようも無いですね」


佐伯は俺の隣ではぁ……っと大きなため息をついた。 今更だけど本当に佐伯は俺の事多少は好意を持ってくれてるのか? だいぶ疑問でしかないんだが。


「……あのさ、佐伯は俺の事が本当に好きなのか?」

「ご想像に任せます、このヘタレが」

「へ、ヘタレじゃないし!」

「まぁいいです、いつでも良いので先輩は頑張って頃合いを見計らってください。 頃合い見計らいすぎて、その好きな女の子に振られても知りませんけどね、クスクス」

「ぐぎぎ……こ、この後輩は……」

「あ、ちなみにですけど」

「……あ?」


佐伯は立ち止まって真顔で俺の事を見つめてきたと思ったら、すぐにニコっと満面の笑みを浮かべながらこう喋りだした。


「いつして頂いても成功率は100%だと思いますので、いつでも気軽にどうぞ」

「……はは、なんだそりゃ」


本当に誰だよ、この後輩に“氷の女王”なんて異名を付けた奴は。 メチャクチャ可愛い普通の女の子じゃねぇか。


俺と佐伯は笑いあいながら今日も一緒に帰宅するのであった。

(終)

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いつも塩対応で氷の女王という怖い異名を持っている美人な後輩がいるんだけど、友達になったら氷の女王では全く無かったし、思いのほかチョロインだった話 tama @siratamak

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