第27話・おまえは何も分かってない
「レオナルド。失礼なひとね」
テントの入り口から勇者が顔を覗かせていた。
「この森は魔族の力が働いてる。俺たちにこの先に進んでもらいたくないようだな。おんなじ所をぐるぐる歩かされてるぜ」
「魔族たちの仕業? ならマーカサイトはこの先のデルウィーク国にいるのね」
志織たちは神官達が外交で使う聖魔転移装置でデルウィーク国に来たが、デルウィーク国は限られた国としか交流を持ってない為、他国に移動する際に使う転移装置が国内には置かれていないらしい。
唯一、国の外を取り巻く森のなかに転移装置があり、その森を抜ければデルウィーク国だと説明されていたのになかなか森の先に行けないでいた。
志織の発言を無視し、レオナルドはイエセに言った。
「もう分かっただろう? これはあいつらの警告なんだ。この先立ち入るなってことさ。無駄に労力を消耗させたくなかったら引き返せ。ここにいる必要はない」
本来ならこの森は一日で抜け出せたはずだからな。あんたもそれは知ってただろう? と、レオナルドがイエセを見る。
「聖女さまを甘やかすのもほどほどにするんだな。あいつらが本気を出したら、俺たち人間なんか相手にならない。きっと森のなかをさ迷っている俺たちをどこかで観察してる。あいつらが様子見状態でいてくれるうちに引き返すことを俺は勧めるぜ」
「勇者王さま」
「レオナルド」
「聖女、おまえは黙ってろ。そもそも魔王を助けるってな、簡単に言うけど、デルウィーク国というのは得体の知れない国なんだ。おまえのような生ぬるい正義を振りかざしてどうなるってんだ。
いまのところ何も起きてないから護衛兵も神官たちも和気あいあいとしてるが、あいつらは人間と同じ生きものではないということを忘れてないか?
おまえは魔族はマーカサイトとしか接してないから、奴が言った事を鵜呑みにしてるんだろうけど、奴は特殊なだけだ。皆魔族が人間に好意的とは言えないからな。それはイエセお前だって良く分かってることだろう? なんでこいつを諌めないんだ? 俺たちは聖女さまのお遊びに付き合ってる場合ではないんだよ」
交渉で上手く行くくらいの相手なら魔王を攫ったりしないだろうよ。と、レオナルドは言う。志織も自分の考えが甘い事はとうに気が付いていた。
だけどここまで来て引き返すのは彼女のなかで納得がいかなかった。
「分かってる」
「おまえは何も分かってない」
レオナルドは志織に歩みより、両肩を掴んだ。
「そんなにマーカサイトのことが気になるなら俺が連れ出してやる。だからおまえは皆を連れて帰れ」
「レオナルド」
志織と目が合うと、彼は目線を外した。
「おまえはただ……、命じれば良かったんだ。おまえがわざわざ出張ってここまで来る必要はなかったんだよ」
言いたい事だけ言うと、レオナルドは志織の肩から手を放しテントの中から出て行った。その彼を見送ってからイエセが謝って来る。
「申しわけありません。聖女さま。私の説明が足りませんでした」
「イエセのせいじゃないわ。わたしが行けなかったのよ。レオナルドの言う通りよ。魔王救出なんて簡単なことじゃないもの」
「いいえ。私はあなたさまにきちんと話をしておりませんでした。この旅に聖女さまを同行させたのは私の意思です。勇者王さまは初めから反対しておられました」
「レオナルドが?」
「はい。あなたさまは御自覚がないのか、ご自身には何も力がないと思われている様ですが、実は皆の力を増幅させる力をお持ちなのです。それをあてにして私があなたさまを同行させたのが勇者王さまにはお気に召さなかった様です。特にこの森に入られてからはあなたさまの体調を気遣われてました」
「まさかこの森に入ってからわたしが疲労を覚える様になったのは……?」
「何者かがこの森に干渉し、あなたさまの力を吸収してるようです。レオナルドさまはその事に気が付き、早くあなたさまを連れ帰るようにと言われました」
申しわけありません。イエセは謝罪した。
「明日、この森の外にある転移装置まで戻りましょう。あなたさまに何かあってからでは遅いですから」
「そんな、魔王……、マーカサイトのことは?」
「レオナルドさまが何とかして下さいます。あなたさまに何かあってからでは……」
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