第28話・獣人に襲われて
嫌よ。と、志織が拒もうとしたとき、テントの外にいたレオナルドが戻って来た。
「イエセ。聖女を連れて逃げろっ。あいつらが来る」
「はっ。陛下」
必死の形相の彼に、ただならぬ事が起きてる事が知れた。イエセに連れられて外に出ると、ドッドッドッドという地鳴りのような音と共に、土埃のようなものをあげて黒い集団がこちらに向かって駆けて来るのが見えた。
「あれは?」
「獣人だ。あいつらも目当てはおそらくおまえだ。ここは俺が急き止める。おまえはイエセと共に転移装置まで逃げろ」
何が来るのかと訊ねた志織は、レオナルドに獣人が迫っているから早く非難しろと急かされた。
ウオオオオオオオオオオン!
遠吠えのような鳴き声が上がり、テントのすぐそばまで彼らはやって来た。レオナルドは護衛兵達を連れて剣を抜き、今にもかかって来そうな獣達と向かいあう。
レオナルドは獣人と言ったが、目の前のそれはどうみても人の形態はとっておらず、地に四本足で立つ野獣にしか思えなかった。鳥の獣人たちは人間の姿にコウモリの羽を持っていたが、目の前の彼らはどうみても野獣の豹にしか見えない。
「おまえらっ、なんとしてもここから先に奴らを行かせるなっ。聖女を守れっ」
「はっ」
レオナルドは護衛たちに発破をかけ、神官長に志織を託した。
「イエセ。聖女の事は頼んだぞ」
「御意」
志織は一度レオナルドを振り返った。
「レオナルド」
「聖女さま。勇者王さまは大丈夫です。神の御加護がありますから。さあ、行きましょう」
イエセに促され、とんでもない事になってしまったと脅える志織の手をイエセが握った。
「この森の外の転移装置まで走りますよ」
いいですね。と、イエセに促され、志織は頷いた。ふたりで駆けだして間もなく他の神官たちも後に付いて来る。
「神官長さま」
「転移装置に向かいます。聖女さまを守るのです」
神官たちが殿(しんがり)を務めてくれて、ようやく目と鼻の先に森の切れ目が見えて来た。この森を出ればデルウィーク国に付けると聞きつけて入った森はなかなか目的地には到着出来なかったが、道を戻ればすぐそこに自分達が入って来た場所があったらしい。
森を抜けてその先にある洞窟のなかに転移装置がある。あともう少しと思われたところで、気が緩んでいたのだろう。
一番最後に付き添っていた神官のあっ。と、いう声が聞こえたかと思えば、志織の周囲を守るように取り囲んでいた神官たちの輪が乱れた。
「がるるるるるるるるるるるるる……」
神官たちは、豹に飛びかかられ地に次々伏してゆく。なかでもそのなかでリーダー格と思われる一回り大きな豹は仲間を引率し、残った志織とイエセの後を追って来た。
「聖女さま。しっかり……!」
「もう。だめ……」
走るふたりをあざ笑うかのように、豹たちが走行してついて来る。
「聖女さまっ」
志織を気遣うイエセがとうとう襲われて、地に倒れた時、志織の視界が揺らいだ。
「聖女さまあああああああ」
イエセの悲鳴に近い声を聞いた時に、自分の肩に豹の前足がくい込んだ気がした。
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