第23話・あいつに胃袋つかまれたな

「はああ。なんだって俺がこんなことしなくちゃいけないんだ」


「文句あるならしなくていいわよ」


 数日後、森林のなかで志織はレオナルドとふたり、小枝を拾い集めていた。今夜で野宿五日目となる。野営するのに手慣れた仲間はさっそくテントの用意はイエセと二人の神官が、食事の用意はロベルトがしてくれていて、護衛の者達は釣りに行き、残った志織とレオナルドのふたりで鍋に火を付ける為の小枝拾いに出ていたのだ。


「嫌だったら、あんたも釣りのチームに加われば良かったじゃないの?」


「そしたらお前が一人になっちまうだろう。俺はお前が淋しくないように付き合ってやってるんだ」


「そりゃあ。どうも」


 もくもくと小枝を拾い集める志織に、レオナルドが恨めしい目を向けて来る。


「お前さ、なんで俺にだけ冷たいの?」


(そりゃあ、あんだけのことしてくれればねぇ)


「そうかな?」


 と、だけ言って惚(とぼ)けた志織に対し、レオナルドが苛立ちをぶつけて来る。


「イエセや護衛の者にも笑顔で話しをするくせに。それに何て言ったっけ? ローなんとか? 料理人として付いて来た奴。あいつ、お前に馴れ馴れしくないか?」


「べっつに。普通だと思うけど?」


 志織は彼にロベルトのことを話題にされたくはなかった。


「普通じゃないだろう? 皆がお前が聖女だから一線を引いて接してるというのに。あいつは接近しすぎだろ」


「煩い男ね。ロベルトはわたし達の為にわざわざ同行してくれているのよ。彼がいなかったら食事どうするつもりだったの? 彼がいるからなんとかなってるんでしょうが?」


 志織としてはロベルトが志願してこのチームに付いて来てくれたのは心強かった。魔王救出隊としてチームを編成した時に、勇者やイエセの他に志願者を募ったらロベルトも参加表明してくれたのだ。

 自分は戦えない代わりに、食事の点でバックアップしたいと言って。志織も戦い慣れてる立場ではないので、このなかでは戦力外だ。


 途中、襲って来る魔族に行きあたって対処するのはレオナルドや、護衛兵やイエセに任せているのでその間、志織はロベルトと待機してる事が多くなる。

 それがなぜかレオナルドにとって面白くないらしい。だからといってこのようにレオナルドに文句を言われる筋合いはない。と、志織は思っていた。


「胃袋掴まれたな。お前」


「はい? 悪い? ロベルトの食事は美味しいもの」


「だからってあんな男のどこがいいんだ? ただの料理人だぞ? 俺なんか勇者で王だ。金も地位もある。何が不満だ?」


 自分の大事な友人を貶められて、志織はいらっと来た。レオナルドの言い分を聞いてるとなんだかロベルトに嫉妬してるようだ。


「やだ。あんた嫉妬してるの?」


 子供じみたレオナルドの態度が可笑しくて、志織が茶化す様に言えば反論すると思われたレオナルドは顔を真っ赤にして肯定した。


「悪いか」


「へっ?」


 志織と目が合うと罰が悪そうに目を背けて、タッタと足早に先に歩き出してしまう。


「レオナルド?」


「先に言ってるわ。俺」


 レオナルドはその場に志織を残し、そそくさと言ってしまった。


「なんなの。あいつ」

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