第24話・きみに会えて良かった

 一人残された志織はガサガサと側の繁みが揺れているのに気が付いた。警戒しているとロベルトが姿を現わした。


「ロベルト」


「なにかあったのかい? 勇者さまと」


 繁みから現れた相手が馴染みの彼で良かったと志織は胸を撫で下ろした。


「あいつとは何もないわよ。でもどうしてここに?」


「きみの戻りが遅いから気になって様子を見に来た。そしたら足早に去ってゆく勇者さまとすれ違ったんだけどね」


「レオナルドは気分屋だから。気にしないで」


「気にするよ。勇者さまは聖女のきみにゾッコンのようだから」


「ゾッコンなんかじゃないわ。いつも彼は苛々しててその度にわたしは八つ当たりされて困ってるのよ」


「そうは見えないけどな」


 ロベルトはレオナルドが立ち去った方角を見た。ロベルトには、彼がこの救助隊に参加した時から、志織が聖女だということはばれていた。

 

 志織は自分の素性がロベルトにばれた時、顔面蒼白になったが、彼はだからと言って態度を変える様なことはしなかった。

 人前では一応、空気を読んでか志織を「聖女さま」と、呼び皆と同じように一線を引いた態度で接してくれているが、二人きりとなるといつものように親しみを込めてリーと呼んで気さくに話してくれる。


「難しいお年頃なのかしら? レオナルドって」


「もう成人してるのに?」


 腕を組んで唸る志織に、ロベルトが合いの手を入れる。


「じゃあ、性格異常者?」


「それはないと思うよ。ただ俺さまなだけで」


 なかなかロベルトも辛辣な物言いである。


「じゃあ、あの日?」


「男子にはそんなものないよ」


「じゃあ、どうしてわたしにだけああやって突っ掛かって来るのかしら?」


 本当に何が何だか分からない。と、志織がロベルトに目をやれば、彼は呆れたように言った。


「きみがそれをぼくに聞くの?」


「どういう意味?」


「いや……、いい。なんでもない」


「なに? なに? 教えて?」


「それはいくらぼくでも教えてあげれないよ。そろそろ皆のところへ戻ろうか? ああ、リー。それ持ってあげるよ」


「ありがとう。さすがはロベルトね」


 志織は拾い集めた小枝を入れた籠を持とうとしたのを、ロベルトが持ちあげた。


「麗しの聖女さまにはそんなことさせられないからね」


「まあ。ロベルトったら、口が上手いんだから」


 眩しいほどの笑顔を見せられて、志織は胸がドキドキした。まるで少女のようだ。とうに忘れかけていた甘酸っぱいような想いを抱えて、歩き出したロベルトの後に続けば彼はポツリと言った。


「でも、ぼくはきみに会えて心から良かった。と、思ってる。きみの笑顔にいつも助けられているんだ」


「笑顔にさせてるのはあなたよ」


「……」

 志織の言葉にロベルトは口を閉ざした。

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