第22話・魔族は絶対悪なの?
ユミルの話では、その魔王がデルウィーク国にいると言う。魔王がそこにいると言う事はその国の者が魔王を攫ったのだろうか? そうなると考えられることとしては嫌な予感しかない。
(魔王を攫ったのは使役する為? だとしたら大変なことになる)
魔王は魔族や魔物の長で、その彼を使役することにでもなれば、魔王国を掌握することになる。良い事に使われればいいが、魔王を使役すると考えた時点で恐らくいい方向には転ばないだろう。
「魔王が攫われるだなんて。こんな事って今までにあったの?」
「今までそんなことはなかった。魔族たちは忠義に厚い。マーカサイトを強く慕ってるはずで、まず裏切ることは無いはずなんだ。もしかしたら魔族の国で何か異変が起きてるのかもしれない」
「魔族も一枚岩ではないということ? 魔王を攫った側近というのは何を考えてるの? 下剋上?」
早くマーカサイトを救出しないと。志織は胸騒ぎがして来た。ユミルも察したのだろう。志織の手を取って懇願して来る。
「お願いだ、志織。マーカサイトを助けて」
「もちろんよ。ユミル。マーカサイトのことなら任せて。勇者と救出に行くから」
「ありがとう。志織。ぼくに出来る事は何かないかな?」
「それならひとつだけお願いがあるの」
志織は両手を合わせておねだりした。志織の願いを聞いたユミルは目をぱちくりさせて聞き直した。
「そんな願いでいいの? もっとすごい力が欲しいとか、強力な武器が欲しいとかじゃなくていいの?」
「いいの。これで」
「欲が無いね。志織は」
ユミルは納得の言ってない様な顔をしていたが、志織は言い切った。
「でもこれはこれで、平和的解決にはなりそうな気がするんだけどどう?」
誰も傷つけない方法で。と、志織が言った事でユミルは志織らしいね。と、呟いた。
「志織は魔族を嫌わないの?」
「どうして? そりゃあ、魔族は異形の姿で人間が驚くような容姿をしてはいても、別にあの人達が望んで人間の国を襲おうとしてた訳じゃないんでしょう?
それなら人間達と話しあって境界線を作って、上手く共存していけるようにしたらどうなのかしら?
魔族って絶対悪なの? 例え本人が望んでないとしても? 納得が出来ないわ」
「ありがとう。志織。今まで召喚されてきた聖女たちはそのような事を考えてはくれなかった。みな異形の魔族は滅ぼしてしまえという考えの持ち主ばかりだった。それに魔王が攫われて助けに行こうだなんて、言ったのはきみぐらいだよ」
「人間色々だしね。わたしが特殊な考えの持ち主なのかも知れない。でもマーカサイトがあなたの兄弟と知ってしまったら尚更のこと、放っておけないもの」
「志織、きみには感謝してる。きみが当代聖女で良かった。兄としてあいつのことよろしく頼むよ」
「任せておいて」
志織が胸元を拳で叩くと、少年神は頷いて姿を消した。
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