第12話・・イケメンってあなたのことよ

「そんな。皆口には出さないだけでそう思ってると思うわ」


「そうかな? だといいけど。この国の女性は気位が高いらしくてね、ぼくのような料理人は相手にされないからきみのような子と話せて嬉しいんだ」


「そうなの? 勿体ないわね。ロベルトはこんなにもイケメンなのに?」


「イケメン?」


 ロベルトがそれは何? と、言うように聞きかえしてくる。志織は慌てて言い返した。


「あ。あなたのように容姿がとても優れてる男性のことを言うのよ。わたしのいた国ではそう言ってたの」


 あは。わたしこの国に来てまだ日が浅いものだから。と、志織が誤魔化すように言えば、


「初めて聞いたよ。イケメンなんて。面白い言葉だね。きみはこの神殿に来たばかりなのかな?」


 ロベルトは志織をここの神殿の見習い女性神官だと思い込んだらしい。彼の間違いをいいことに志織は嘘をついた。


「そうよ。神官見習いなの。先輩たちから今日は色々教えてもらったはいいけど、寝付かれなくて外に出て来た所で‥」


「そうだと思ったよ。他の女性神官たちは早寝早起きがモットーだからね。きみのような子は大変珍しい」


 だから声をかけてみたんだけどね。と、ロベルトが言ったことには志織は気がつかなかった。


「あははは。勝手を知らなくてね。そうだ。ロベルトはここのお努めは長いの?」


 自分の話題からそらせようと、志織は反対に聞き返した。見目もぱっとしない自分がまさか聖女と発覚する確率は低いと思われたが、言動しだいでは相手にばれないとも限らないのだ。


「ああ。僕は十年くらいになるかな。おかげで責任者としての大役を頂いてしまって辞めるに辞めれない状況さ」


「えっ。十年? ロベルトって何歳なの? お仕事辞めちゃうの?」


 志織は非常に残念に思った。せっかく知りあえたというのに。


「ぼくは三十二歳でね。この国で言えば行き遅れ男子ってやつさ。仕事は止めようかと思ったけど‥気が変わった」


 この国では早婚の人が多いのだろう。ロベルトが自分はまだ結婚もしてない。と、告げて意味ありげな視線を向けて来たが、まったく志織はそれに気が付いてなかった。

 それよりも彼が仕事を辞めない。と、言ってくれた方に関心が向いた。彼はなんと志織とタメだったのだ。同い年の彼が仕事を続けてくれると言ってくれたことが嬉しかった。


「じゃあ、良かった。ロベルト。わたしと友達になってくれない?」


「きみはここに来たばかりだと言ってたね。僕で良かったらいいよ。なんでも相談して」


「本当? ロベルト。わたし嬉しい」


 志織がこの神殿に来たばかりの新米女性神官で、誰も知り合いがいなくて心細いと思ってくれたのだろう。彼は自分で良かったら友達になってくれると約束してくれたので志織は上機嫌になった。


「ありがとう。ロベルト」


「仕事頑張って。初めは慣れないことばかりで戸惑うかもしれないけど、ここの人達は皆、気の良い仲間たちばかりだから大丈夫だよ。何も心配いらない‥」

 

 ふとふたりの間を風が遮ったような気がすれば、ロベルトが遠くを見つめていた。


「ごめん。そろそろ持ち場に戻らないといけないな。きみを部屋まで送っていきたかったけど、今夜は無理みたいだ。大丈夫かい?」


「心配しないで平気よ。わたしの部屋はすぐそこだから。あとこれありがとう」


 志織はそわそわした。彼が部屋まで送ろうとしてくれてたのを知り彼の気持ちは嬉しいけれど、そんなことをされたなら素性がばれる。

 志織はひとりで帰れるからと大丈夫と、彼から借りた上着を押し返した。


「じゃあ、またね。ロベルト」


「あ。ちょっと待って。リー」


 急いで部屋に戻ろうと踵を返しかけた志織をロベルトが呼びとめた。


「なに? ロベルト」


「いや、その。リー。また明日も会えるかな? この時間に?」


「‥もちろんよ」


 志織の返事を聞いてじゃ、また明日。と、彼が中庭から去ってゆく。自分よりも落ち着いてるように思われた彼がアタフタしてる姿を晒してくれたことが、志織には滑稽に思われて口許を緩めた。

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