第11話 建国王
「どう言うつもりだ。ケイノリサ。お前はアーマンディの味方だと思っていた」
「味方だ。そこに関しては間違っていない」
王公会議の後、カイゼルはケイノリサを連れて、公王城にあるウンディーネ公爵家の控室に移った。ここであれば、何を話しても秘密が漏れる心配はないからだ。魔塔に選ばれたメイリーンに寄って完璧な防音対策がされている。
空気を読んだルーベンスが、自分から図書室で時間を潰すと言ってくれたのも助かった。思ったよりも優秀な彼には感謝しかない。
「では、なぜ⁉︎」
詰め寄るカイゼルを片手で制し、ケイノリサは着座を促した。「冷静にならねば話はできない」と告げられ、カイゼルはソファに腰掛ける。
「カイゼル、君は男でも聖女と認められる様に法を改定しようと考えている。シルヴェストル公爵家としては、それは認めないと言っていたはずだ。グノーム公爵家の女の子が聖属性の力の持ち主であるのならば、早急に聖女としての教育を始め、アーマンディと交代させるべきだ」
「それではいつまでも変わらないと言っているはずだ。今後も男の聖属性の力の持ち主が現れた時にどうする気だ!聖属性の力の女の子が絶対に産まれる保証はないだろう」
「建国以来、聖女は女性である事が絶対条件だ。いきなり変えれる物ではない!」
「では今後はグノーム公爵家のやり方を真似ると言うのか。側室を設け、聖女を存在させる為に、女性に子供を産ませ続ける事を肯定するのか。女神スピカは一夫多妻制を認めていないのに」
「もし、グノーム公爵家の女の子が聖属性の力の持ち主だとすれば、スピカ様がそれを認めた事になる。そうなれば、グノーム公爵家のやり方を否定できない。あり得ない未来ではない!」
「・・・・!」
黙り込むカイゼルを見て、ケイノリサは立ち上がる。
「アーマンディには申し訳ないと思っている。彼の人生を台無しにしている自覚は私にもアジタート様にもある。今後の彼の人生においては、出来うる限りは協力しよう。だが、男を聖女とはしない。これだけは決定事項だ」
「私は諦めるつもりはない」
絞り出す様に、カイゼルは告げる。まるで自分に言い聞かせる様に。
その言葉には答えず、ケイノリサは部屋を出て行った。決意を込めた目をしたカイゼルを残し。
◇◇◇◇◇◇
(中々の蔵書だが、まぁこの程度かな?)
ルーベンスは公王城内にある図書室にて、本を物色していた。
カイゼルとケイノリサが話し合いの為に二人きりになるのは、ある意味都合が良かった。自分には調べたい事があるから。
ルーベンスは建国王とその子供達の事が書かれた蔵書を捲る。誰でも知っている内容ではあるが、その詳細が書かれた書物は少ない。
例えば、建国王の容姿。絵姿を見た事もなければ、歴史書にも記載は無い。建国王の妻に関しても謎だ。妻が一人だったとすれば、不自然な程、子供達の髪色も目の色も違う。
ヴルカン公爵家の次男は、黒髪赤眼。
ウンディーネ公爵家の長女は、銀髪青眼。
シルヴェストル公爵の次女は、金髪緑眼。
グノーム公爵家の3女は、茶髪紫眼。
真実は闇だ。どれほど調べても出てこない。ヴルカン公爵家の蔵書では見つけられなかった。ウンディーネ公爵家も探してみたが得られる物はなく、最後の綱の大公王城にもないらしい。秘蔵書としてどこかに隠しているのか、だとすれば怪しいのは大聖堂もしくは、聖女の館。
「ルーベンス君、申し訳ない。待たせた」
カイゼルの声で、ルーベンスは振り返る。カイゼルの顔色、所要時間の早さが物語っている。
(交渉は失敗か・・)
「何か良い本があったかな?」
覗き込むカイゼルに本を見せる。
「今一ですね。ここに来れば建国王の事が詳しく書かれた本があると思ったんですけど、対してなかったです」
「あぁ、建国王の事は大聖堂の奥に詳しく書かれた本があるね。そこ以外にはないんじゃないかな?」
驚くルーベンスを見て、カイゼルは秘密でもなんでもない様に話す。
「大聖堂に見に行くかい?肖像画があるよ。蔵書の貸し出しも、公爵印があれば可能だよ?」
ルーベンスはカイゼルが指差す先を見る。そこにあるのは、光る指輪。公爵代理として、父から預かった物だ。
つまんない役目だと思ったけど、良い事もある。と同時にヴルカン公爵家の知識の無さに歯噛みする。
(ヴルカン公爵家は脳筋ばかりだからな。本読むなんて考えもしなかったんだな)
ぜひ!と返事をして、王公城を後にした。
大聖堂に向かう馬車の中、カイゼルがルーベンスに改めて向き合う。
「ルーベンス君、今日は申し訳なかった。私の見通しが甘かった様だ」
カイゼル公爵がルーベンスに頭を下げる。
ヴルカン公爵代理とは言ってもまだ13歳の子供だ。でもカイゼル公爵はそんなのは関係ない様に、いつも話してくれる。無礼な態度である自覚もあるが、嫌な顔をされた事もない。こういう人を嫌うのは難しいな、とルーベンスは思う。だから、笑う。少し子供らしい態度で。
「良いっすよ。俺もとりあえず護衛として一緒に行きますから。ただ、シェリル姉がこれ幸いってアーマンディ様を落としにかかると思いますよ。やばくないですか?」
「メイリーンを呼ぼうと思っている」
「アーマンディ様の妹でしたっけ?確か魔塔に入ってるんですよね?15歳でそこに入るって天才だ」
「君と同じだね」
彼等が言うと皮肉とならない、本心から言っていると分かってしまう。このウンディーネ公爵家の性質を好ましく思ってしまう。
ずるいな、とルーベンスは思う。だから、アーマンディの事も気付いていない振りをする。
「じゃあ、会うの楽しみにしてますよ」
「あぁ、仲良くしてやってくれ・・・」
馬車が止まり、大聖堂に到着した事が告げられた。
カイゼルの導きにより、ルーベンスは大聖堂の奥の厳重に閉じられた図書室へ案内された。部屋の前には聖騎士が立ち、図書室に入る際にも立ち会いとして高位神官が2人もいる。
カイゼルが言うほど、気楽ではないな、とルーベンスは冷や汗ものだ。
室内に入ると正面には大きな肖像画が飾られている。雪の様な白い髪、闇の様な黒い目、頑健な体付き、鋭い顔つきで睨む様に描かれた絵の下には、建国王ザヴィヤヴァの名が刻まれている。
その右横には、同じく白髪黒目の美しい女性。少し冷めた表情で穏やかに微笑んでいる。ゆったりした白いドレスは見た事がない形だ。1000年前の衣装。絵の下に刻まれた名前は、ザヴィヤヴァの妻ヴィンデミア。建国王の妻にしては、装飾も付けていない飾り気のないほっそりとた女性。
建国王の左側の絵は、2人の間の子シュルマ。白い髪黒い目。一目で2人の子供と分かる。それぞれの特徴を受け継いだ綺麗な顔。
「女性?」
呟いたルーベンスの言葉に、カイゼルが返す。
「シュルマは男性だと言われてるよ」
そう言いつつ本を3冊ルーベンスに渡す。
「この3冊が詳しく書かれているよ。私もカエンも読んだ。あとはメイリーンも。メイリーンはこの本を読んで魔法使いの塔に入ったんだ」
本を軽く捲る。捲った先の文字が目に入る。
「『ザヴィヤヴァは5属性使用できた・・』は⁉︎どう言う事⁉︎5属性って」
「風水火土に聖で5属性。メイリーンはね。実は人は5属性全部使えるんじゃないかって研究しているんだよ」
「へぇ、マジ天才なんっすね。考えた事もなかった」
「あの子も変わり者だからね」
「研究は進んでるんですかね?」
「聞いてみれば良いよ。ちょっと人との距離感が変だけど、良い子だよ」
カイゼルの言葉に頷き、本を借りる手順を踏む。少し重い本を持ち、飾られた肖像画を、もう一度見る。
まるでこの3人以外に家族はいない様に飾られた肖像画に気味悪さを感じながら、部屋を後にした。
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