第6話 ギャル、画策する
「ど-する!」
ローザが言うとすぐさまマゴットが「そりゃ協力したいっしょ!」と応じた。
「だってさ、恋バナとかしてくれたの初めてじゃね?」
「しかも話せそうなのウチらだけとかさぁ、ぐっと来ちゃうよね」
ローザとマゴットは大はしゃぎだ。
三人とも、ロナンが彼なりに苦労して来たことを知っている。父親が国を滅茶苦茶にした魔王で、母親が滅茶苦茶にされた国の王女だ。母に連れられアズウルドの王城に戻っても、肩身の狭い思いをして来たというのは聞いている。
彼の幸運だった点は、血の繋がりのない彼の義父が、彼やその他多くの魔族たちへも友好的で、尊重する姿勢を貫ける国王であったことだ。
「……でもさあ、やっぱ名前も解んないってのはキツくない?」
「それな」
「召喚魔法って名前必須なんだっけ?」
リリムがピッチャーからグラスへ水を注ぎつつ訊ねると、マゴットはうーんと唸った。
「あたしが宮廷魔法使いなら手持ちの情報でイケたかもだけど、一般冒険者だからね」
せめて住んでる場所とか行動範囲が解れば、精霊にも「この人です!」って伝えやすいんだけど。
要は相手をこちらへ連れてくる精霊に、その相手であると断定できる情報を伝えなくてはならないのだ。
「え、場所とかでイケる?」
「試したことないけどノリでどうにかなりそう、みたいな」
「あーそしたらさ、実はあたし神託下ろせるようになって」
「はあ?」
ネイル変えたくらいのテンションで言われ、ローザは思わず声を上げる。この国で神託をおろせるレベルの僧侶は恐らく、聖者や聖女と呼ばれるような、ごく一部の選ばれし者のみだ。
「なんで? 何か奇跡起こした?」
「ヒモ飼うと徳積めるの?」
「ちょっと! マーくんは世界中に愛と詩を届けるため、今は製作期間中なの! ヒモとかやめてよね!」
「ワンチャン、マーくん神説あるわ」
「つーさ神託なんて凄いけどさ、もしかして相手の個人情報解っちゃうの?」
マゴットの問い掛けにリリムは「調子良ければ、多少は」と答える。
「え、すご」
「でも基本的に使う用事ないから、とりま朝にラッキーカラー聞いてるだけなんだよね」
神託の無駄遣いである。
「あれ、あれみたいなことできるんだよ、相手がどこにいるか解る、みたいな……ジー……?」
「GPS?」
「それそれ!」
「神様GPSにすんのマジ草なんだけど」
神をも恐れぬ神託の使い道にマゴットがゲラゲラ笑っている。彼女もまた異世界から人一人連れて来る魔法のために、宮廷魔法使いが数人がかりで使役するような精霊を懐柔するという謎のポテンシャルの持ち主なのだが。
ちなみにローザは今年度の国の武術大会で優勝し、騎士団へスカウトされたものの、「ネイル禁止」「濃いメイク禁止」「装備が地味」という理由によって秒で蹴っている。
こう見えて三人とも、実は手練の冒険者であった。
「じゃあ、リリムが神様GPS で相手の居場所を見つけて、マゴットがその情報で召喚魔法を使う、と。連れて来たらそのあとど-する?」
「サプライズで会わせたくない?」
「賛成!」
「待ってでもさ、ロナンいま魔王城に居るでしょ」
「……あ-、そうだわ」
魔王城周辺の結界は強力だ。ローザたちほど力のある冒険者であれば、竜の背に乗っているだけでも入れるが、そうでなければ一瞬で消し炭である。
「あそこ警備厳しくない? ロナンに会うにも五営業日前までに事前申請が必要とかさ、役所かよ」
「まー公営だから役所みたいなモンかも」
「どうしよ、ロナン呼び出すとサプライズ感減るよね」
三人で額を突き合わせて考えた結果、
「勇者になってもらって、レベルアゲてこ」
という結論になった。
「そもそも勇者って属性、他称で決まるみたいなとこあるし、ウチらが勇者っつったら勇者っしょ」
相手の都合はお構いなしである。
「じゃあいつにする?」
「来月以降でも良い? バイトのシフトあるし」
「あっそうだ、あたしもマスターに相談しないと」
「あたしはいつでもいいけど、マーくんほったらかしにしとけないから日帰りね」
「りょーかーい」
三人はテーマパークにでも行くかのようなノリで日取りを決め始めた。
その頃ニッポンで顔面をバズらせた塩顔イケメンは、自分が存在も知らない異世界で魔王の血を引く王子から片想いされ、ギャルたちのサプライズ企画に巻き込まれようとしていることなど知る由もなかった。
何らかの力が働いているのか、名前も住まいも割れない彼の名前は藤原#純__あつむ__#。
彼が異世界へ召喚されるまで、あと1ヶ月である。
ギャルと魔王、カフェランチしながら恋バナする たかさきこのえ @r_konoe
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