第3話 霊媒師のお仕事 1
今日俺は、仕事の依頼が入ってしまい1日家を留守にする。
そのため三玖さんには会えない、これは死活問題だ。
速く終わらせて帰らなくては…。
今回の依頼はかなり遠くの場所からの依頼であり、行き来するだけで6時間はかかってしまう。
そのため最速で終わらせても絶対に1日では終わらない。
依頼の内容はマンションの一室に出てくる孤独死した人物の幽霊の浄化。
今回はまだ悪さをしたわけではないらしいので浄化という言い方をする。
悪さをする幽霊には祓うという言い方で依頼を遂行するが、この2つに違いはない。
コンコン
「すいませ~ん、浄化の依頼で来た安倍秀生(あべのしゅうせい)です」
「おお、ようやく来ていただけましたか!」
「お待ちしていました、どうか今回もよろしくおねがいいたします」
とても嬉しそうな声で迎い入れてくれたのは葉山さん。
いくつものマンションを所有しており、よく依頼をしてくれる常連さんだ。
「それで、今回の依頼のことですけど…」
「はい、実はまだ何か実害があったわけではないのですが、部屋の片付けをしていますとポルターガイストが起きてしまいまして…」
「このまま何もせず人に住んでいただいた場合に何かあってしまっては遅いと思い…」
葉山さんは比較的幽霊に対して理解がある方だ、そのため依頼なども問題が起きる前にしてくれる。
「わかりました、それでは部屋の鍵もらえます?」
「はい、404号室の鍵です」
「それじゃあ行ってきます」
今回の依頼は多分簡単な部類だろう、実害も出ていないようだし、嫌な雰囲気も感じない。
「いや〜、楽で良かったぁ」
と、感じていたのはつい先程までのこと、今はその考えを捨てている。
部屋の前に来たがとても嫌な気配がするのだ、不吉な、そして不快な、嫌な感覚。
こういう場合はたいてい悪霊が悪さしている。
コンコン
「失礼しま~す」
一応中にいるのはまだ実害をもたらしていない浄化対象、なのでノックをし礼を失することのないように気をつける。
ガチャッ
扉を開けた瞬間ドス黒い瘴気が流れ出てくる。
これは確定、この場合は祓う対象とみなされることになっている。
「……ごめんなさいね、こっちの勝手な事情で」
まずはこの瘴気を外に漏らさないよう、結界をはる。
「封印結界(ふういんけっかい)・呪縛(じゅばく)」
ついでにこの悪霊が暴れないよう、しっかりと縛り付ける。
薄い光のドームが出現する、が。
パリン
結界が割れた、パラパラと光のドームが崩れ、とても小さな欠片になって落ちてくる。
この割れ方はおそらく、この悪霊の方は強い恨みを持っているのだろう。
そして今、その矛先が俺に向いた。
部屋の奥から瘴気の原因、悪霊が近づいてくるのを感じ取ることができる。
前から、来る。
「安らかなる眠りを、聖天(せいてん)の円核(えんかく)」
聖属性の円核を出現させ、飛ばす。
が、何も反応はない、恐る恐る部屋の中に入る。
先程までは強く感じていた悪霊の気配を感じない、逃げられた……?
と思っていると天井から髪の毛がたれてきているのを発見する。
そこだ!と思い円核を飛ばすが手応えはない、なぜだ…。
と考え始めた瞬間だった。
ケタケタという笑い声が部屋中に響く、そして棚の上のものが音を立てて落下する。
「うるさいなぁ」
たれていた髪の毛が俺の体に絡みつき、しばりあげる。
背中をツゥーと撫でられるような感触を感じ、そっと後ろに目をやるとそこには、口が裂けたように口角をあげている女の幽霊がいた。
「君がここの悪霊さんかな?」
「たいそう強い恨みがあるんだね、でもそれを関係ない人にまでぶつけるのは看過できない、祓わせてもらうよ」
絡みついていた髪の毛がグッと力を強め締め付けてくる。
背中を撫でていた悪霊の手が俺の首筋まで到達し、とうとう首を締めてくる。
喋れたくなってしまった俺はまだ縛られていない右の手で印を結び陰陽術のようなものを発動させる。
俺に触れていた悪霊の手は結界と同じように崩れ、欠片になって落ちていく。
体に絡みついている髪の毛は燃え、千切れて朽ちる。
激しい痛みなのだろう、天井に張り付いていた悪霊は地面に自由落下し、床の上でジタバタともがき苦しんでいる。
だがこれは仕方のないことだ、悪霊に落ちるというのは、そういうことだから。
「ああ、速く三玖さんに会いたいなぁ」
一方その頃の三玖さんは……。
「このドラマ面白いわね、秀生君が帰ってきたらいっしょに見てあげてもいいわ」
「でも仕事で疲れてるかもしれないし…悩ましいわね」
ダボダボでラフな服を着て、アイスを口に含みながらドラマを見ていた。
廃墟に出た幽霊と霊媒師の禁断の恋 真堂 赤城 @akagi33229
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