第3話

 家に帰ろう。そう思って電車を待っている間も、私のスマホは鳴り続ける。まるで両親の叫び声が聞こえてくるみたいだ。

 最寄りの駅につくと、私は両親の叫び声を聞き流しながら、走り出した。百段以上ある階段を駆け上がり、地上に出ると、雨はもうやんでいた。

 家に着く。玄関のドアを開ける。

「どこ行ってたのよ!」

 母が問いかけた。私の両肩をがっしり掴んでいる。

「地獄。」

「どういうこと?」

「死のうと思った。」

「なんで?」

「……」

「死んだらお母さん、嫌だよ?」

「……」

「わかる?」

「……」

 もう何も言われなかった。ただただ、お母さんは私を抱きしめる。風に乗って、隣家からポロネーズのメロディーが聞こえてきた。なぜだかわからないけど、柔らかく私たちを包み込んでいるように聴こえた。


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春風ポロネーズ 紫田 夏来 @Natsuki_Shida

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