第2話

 都市圏と言われるだけのことはあって、人でごった返していた。春の暖かさを感じにくい夕暮れ時に露出の多いミニスカートを履いた女性たちの集団、髪の毛を赤や青など派手な色に染めた男性たちの集団。大学の卒業式の帰りなのだろうか、袴姿の集団もいる。

 決まっているのは、人はみんな集団で動いているということ。私はこの集団の中でたった独り、家を飛び出してきてたった独り。

 当然のように視界に入ってくるビル群。ああ、あそこから飛び降りたら死ねるな。想像力を搔き立てられる窓が大量にある。

 私は楽しそうな人々を見ながらカラオケ店に向かった。その店は駅前にあった。

 私が一人で店に入ると、いきなり注目されている感じがした。「なんで?」と一瞬思ったけど、すぐに合点した。私、一人だし。それに、オシャレじゃないし。この場にそぐわない見た目をしていることは明白だと思った。

 でも、だから何?

 決めた。ビル群を見ながら、人間特有の想像力を駆使して。私はこのカラオケで一番好きな歌を歌ったらすぐ、窓から舞い降りる。


 私は部屋に入り、マイクを手に取った。

 私の一番好きな曲は、大好きな三日月の曲でもある。

 

「君を手放してしまったから


 私の日常は青色で


 からっぽの鞄を引きずり


 夕焼けの田舎道歩いてく


 光になったんだよ 君は


 私は大丈夫だからね


 君色の涙をこの世界に


 届け続けて」


 私は今日、この世界に別れを告げて、閻魔様の元に行く。きっと私は地獄に振り分けられるだろう。

 私は伴奏を止めた。そしてスマホを起動して、家族LINEをチェックして、両親が私に電話をかけまくっていることを知った。

 やっぱり帰ろう。

 スマホで贖罪していたら怒られて、罪を償うことが出来なくて、だからものすごく苦しくて、私は死のうとしたんだって、言おう。告白しよう。そうすればきっと、私の苦しみは三分の一になるから。家族三人で私の苦しみを分け合えば、私の分は三分の一になるから。

 私は号泣した。結局泣いただけで終わってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る