第19話 『懐かしさと打開策』
まさか気付かれるなんてな。
木の影に身を隠し、弱いが隠蔽魔法をかけつつニコニコと目の前で微笑んでくる侍女にため息を零す。
「おかえりなさい、ゼクスさん」
「……こういう時には見て見ぬふりしろと教えたろうが」
「でも、ゼクスさんが居るってことはなにか変化があったんでしょう?王宮も今様子がおかしいのです、だから何か力になれればと…」
侍女の名はレネーレ。俺の元部下の子で、確か今二十だったか。ちっこい頃には俺が面倒見たことも何度もあった。
俺が死んだ事になって塞ぎ込んでいるのが見ていられず生きてる事だけを告げておいてはいたが、十数年会っていないのに良くもまぁ俺だってすぐわかったもんだ。
「力になれることなんざねぇよ」
「……でも」
「いいか、今の俺は騎士でもなんでもねぇ。なんなら賊みてぇなもんだ。お前にできるのは見て見ぬふりだけ。とっとと仕事に戻んな」
ボールみてぇに頬を膨らませ俺の魔法範囲内に無理やり入ってきたと思えばずいっと顔を近づけてくるレネ。頬をふくらませたまま眉間にシワを寄せる様子に少し懐かしさを覚える。
「私はもう子供じゃありませんから!」
「そりゃあ…そうだろうがよぉ」
「これでも王宮に務めて長いんですよ!役にたってみせます!」
「おいもう少し声を抑えろって…」
思わず口を抑えると抑えた俺の手を噛みやがった。このじゃじゃ馬。どこで覚えたんだそんなの。
「……私の従兄弟が王宮から追い出されこの国からも逃げました」
「無事か?」
「おそらく無事かと……あまり関わることはありませんでしたが、元々私の家系は悪運が強いですし…」
確かにレネの父親であるレナルドも悪運が強かった。当主を継ぐことになり俺の所から去るまで怪我はしつつも命に関わるものは一度も負うことがなかった。
だが、それはたまたまだったかもしれないだろうに。
「…心配して下さってるのは分かります。王太子殿下やゼクスさんが作りたかった国はきっと苦しくとも進める国だから…だったら私にもその手伝いくらいさせて下さい。もし、また何も知らずに何かが変わるぐらいなら巻き込んでください。一緒に戦わせてください。私も、この国を愛しているんです」
“ゼクスおじさんが亡くなったなんて…信じない!あの人が死ぬはずない!”
“副団長、せめてあの子にだけは伝えさせてください。あの子は貴方を信じているのです”
“やっぱり生きてた…ゼクスおじさん…っ良かった”
過去を思い出す。確かに俺を陥れたヤツらに憎しみはある。だが、同時に手放せないものもあった。愛おしく思うものもまたあった。過去に守ったものが今守側になろうとしているこれこそが幸せなのだと背筋を真っ直ぐにできる。
“無垢であれば許されるのか、現状しか見ることをせず、苦しめば誰かが助けてくれるのを待ち続けるのが許されるのか”
ふと、あの二人が俺の前から去ってしまった日のヴァン殿の言葉を思い出し、目の前で必死に睨みつけてくるレネを見る。
……守るだけではダメだと言われたじゃねぇか。一人一人が向き合い戦わなければ、この国は変わることは出来ない。ただ緩やかな死を待つだけになる。
無意識な自己犠牲に笑っちまえばレネがビクリと肩を跳ねさせた。
シエル殿を迎える為の条件は簡単な一言で纏めてしまえるが、厄介この上ない。必死に守った者も死んじまう可能性だってある。
「なら、手伝ってくれるか」
「っはい!」
それでもこの国は俺にとって大切なものだ。俺の両親の墓があり、俺を慕って動いてくれる者もいる。
“ほら、ゼクス…可愛いでしょう”
ゆっくりと微睡み前王妃殿下に抱かれ微笑むシエル殿。そして共に微笑むヴァン殿と乳母殿。
光が沢山あるあの美しい光景に幸せを見た。未来を見た。
一人でも生き抜くシエル殿の幼き姿に誇りを見た。
俺を信じ待つかつての部下だって居るのだ。
手が足りないなら来るものを拒む必要なんて何処にもない。信頼出来るなら尚更だろう。
『王族の墓地に行きたい」
「……それは…」
「そんで、街にある檻を管理してるのが誰か、調べたいんだが…できるか?」
「管理してる者は分かります。王族の墓地は難しいかもしれません、見回りが多くなったと聞きましたし」
「だよなぁ」
王宮がピリついてるんだからそりゃ難しいよな。
「……あ、でも、一つ手があります」
「?」
「忍び込むのが無理なら堂々と入ればいいんですよ。王族の血を持っていて王族に不信感を抱いていて、尚且つ王都にいる方がいらっしゃるでしょう」
「まて、不信感だと?王族の血を持っているのなんざ…公爵家……フラヴィ公爵か!」
「えぇ、お父様の伝で連絡を取りましょう。きっと協力してくださいますよ…何せ、あの方は王太子殿下を気に入っておられましたから」
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