第8話 「初戦闘」
魔獣。魔法を扱う
魔獣は元々の獣の行動をする為先読みがしやすい。魔法を使えるだけの動物でしかないからだ。
だから今回の熊型魔獣についても熊の行動を想定して探せば良いし、熊が苦手なことはだいたい苦手で好きな物は好きなままだ。
「シエラ出来る限り姿勢は低く」
「ん」
「狙う時は風を読む。出来るね」
「出来る」
今回はシエラの初戦闘なので私はシエラと同じように弓を手にし矢筒を背にセットした。取る手間はあるが可動域が腰と背では全く異なる。
ヴァンが剣の柄に手をやりクロエが小型の杖を手にそれぞれ私を見て私は深呼吸をしてから合図を出す。
私とシエラは木の上から弓矢で狙撃。ヴァンが先行。クロエが罠を隠す幻影とヴァンのフォロー。
熊は体大きく、そして重い。筋肉質な為腕も短く爪が長いがサラサラとした土質のこの土地では爪をたてて逃げることも出来ないだろうと単純な落とし穴を作り、そこへ誘導してとどめを刺すという、なんとも簡単な作戦だ。
「よく狙って。敵は動くから自然と目が目標に行くくらい集中」
「ん」
キリキリと強い弓が悲鳴をあげるくらい引き切りシエラが真っ直ぐと熊を狙う。
「呼吸を力と合わせるんだ、呼吸する時に人の体は動くし、ぶれる。ゆっくり呼吸して、吐くタイミングで手を離す」
「ん」
「初回だから声をかけるよ。いい?ゆっくり吸って息を止めて……放て!」
「ふっ」
浅く吐き出されたシエラの息の音が放たれた矢の飛ぶ音でかき消される。やはり強い弓はそれだけ瞬発力が高い。引く力と狙える目を持っていないと扱えないじゃじゃ馬の様な弓はシエラに良く合っているらしい。
「がぁぁぁぁ!!」
シエラの狙った矢が熊型魔獣の左目を射抜き、ヴァンはそれを見逃さなかった。助走をつけて飛び暴れる熊型魔獣の背中を思い切り蹴りつけ高く飛び上がると木の上に着地する。シエラがおおっと歓喜の声を上げて拍手をしている間に熊型魔獣は大きくのけぞり落とし穴へと落ち様としていた。
…が、魔法を使って穴を隠していた木の影に隠れたクロエに気付いたのか落ちる前に大きく腕を振る。
「っ」
「落ちろ!!」
腕に矢を放てばその爪がクロエを傷付ける前に大きく反動ではねる。そして重い体は重力に逆らえず穴へと落ちた。
「大丈夫?」
すぐに私達はクロエの傍に行き、私がクロエに手を差し出す。
「え、ええ。大丈夫よ。ありがとう」
驚いてはいるもののしっかりと立てるクロエに少し感心しつつ穴の中を睨むヴァンを呼ぶ。
「クロエを見ていて」
「トドメは僕が…」
「いや、シエラにやってもらうよ」
ぎゃうぎゃうと必死に鳴き声をあげる熊型魔獣にシエラはじっと視線を向けて離さない。そんな彼女の肩を軽く叩き、矢を手渡す。それを少し見つめてから受けると矢をつがえる。
「眉間を狙って、骨が固いけどこの距離でその弓なら十分やれると思う」
「…うん」
「胴体は狙いやすいけど脂肪に阻まれて出血はするけど殺しにくい。可哀想だとかそういう感情は捨てて、躊躇すればする程苦しめるよ」
「分かった」
キリキリと再び弓がしなり、鳴く。
シエラが息を整えしっかりと狙い大きく空気を吸うと吐くタイミングで手を離した。
シエラは本当に覚えが早い。
眉間に矢を受けた熊型魔獣は泡を吹き、ドシンという音と共にその大きな体をとうとう穴の中に横たえた。
「初勝利おめでとう、シエラ」
「……勝てた」
安堵し肩から力を抜くシエラを抱き上げてクロエ達の方に戻る。
「貴方って案外厳しいわね」
「そう?」
「えぇ…まぁいいわ。シエラ、少し休んでいなさいな、あの熊は私たち三人でばらすから」
「そうですね、次回手伝ってくれれば良いので、ここで座っていてください」
ヴァンが着ていた外套を脱ぎ地面に広げる。そこにシエラを下ろすときょときょとと周りを見回していた。
「お疲れ様、シエラ」
「…私、力、なれる?」
「勿論だよ」
真っ直ぐにバイオレットの瞳を見つめ返し笑えばほうっと息をつき、強ばっていた体から力を抜く。
頭を撫で付けてから彼女を一人残し熊の方へと取り掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます