不遇王子は駆け出し冒険者
第1話 「資金稼ぎ」
「お金を稼ごうと思う」
クロエと共に旅に出る事が決まって休憩と装備の新調や消耗品などを用意した今日。私は手元の金額に困っていた。
シエラの服や装備、矢を五十本に調理器具に調味料、保存食に簡易テント。三人の二日分の宿泊費に食事代。
これだけで金貨一枚と銀貨二枚が飛んでしまった。
クロエは自分のモノは自分で今は買ってくれているが、まだ稼ぐ行為は出来ていないと言っていた。
私の資金の残りはラビリテ銀貨が一枚とハライト銀貨が二枚という心許ない形だ。
ここの宿は安全面に考慮しているからと食事の美味さからしてほかの宿よりも高く設定されているのだとクロエが教えてくれた。
おかげで安全には過ごせたが、現資金では一泊すらできない程になってしまった。それにあまりここには長居したくない。
よって資金を増やし、とりあえず魔法袋が欲しい。
魔法袋の金額は金貨一枚。四人分を入れられる物になると見た目が質素でもやはり高めだ。
それを買って多少の金銭を残し次の街を目指したい。
「行きましょうか、シエラも実戦を経験した方が良さそうですし、クロエはどうですか?」
「もちろん付き合うわよ、仲間だもの」
「私に、むか…まか……せて!」
「シエラは後方支援だから、基本前に出ないでね?」
気をつけるように浮き足立っているシエラに注意すると眉を垂らしてしょぼくれてしまった。
シエラには弓と矢、そして小さな片手剣を渡してある。だけどメインは弓だ。
この約2日間で教えられることは教えた。やはり弓と相性が良いのか飲み込むのも早く、的に当てられるように既になっている。
だがそれはこの街の中での事だ。森で実戦となるといつもと環境や風の調子なども異なり当てることすら難しくなる可能性がある。
本来ならシエラは戦いに行くべきでないのかもしれない。
でも、私たちは冒険者であり傭兵でも騎士でも兵でもない。完璧にやらなくても良いし、もしトラブルが起きても私達ならどうにか出来ると自負しているからこそ連れていくという選択肢が生まれ、バイオレットの瞳を狙う者もいるだろうと言う事が更に連れていく方へメリットを増やした。
「ところで、何を狩るか決めているの?」
「近くに居るもので高く報酬が出るものがいいんだけど…一度冒険者ギルドに行った方がいいかもしれない。あとパーティー登録もしちゃおうか」
「良いですね」
「パーティー!」
またはしゃぎ始めたシエラの頭を跳ねないようにヴァンが押え込む。それを不服と思ったのかシエラがその手に噛み付いた。
「うわっ」
「うがーーー!」
「あら、元気ね」
「元気ならいいという訳でもないよ…ほらシエラ、ヴァンの手に噛み付くのはやめてね」
噛んだままにいるシエラの頭をなだめるように撫でるとやっと口から手が離れた。赤くなってしまっていた様子に困ったなとシエラを見る。
シエラはヴァンを完全に嫌ってはいないものの何故か張り合うところがある。特に元気がいい時にちょっかいされるのが好まないらしく、ヴァンに噛み付く癖ができてしまった。
「噛んだらダメだって何度も言ったよね、シエラ」
「むぅ」
「約束事を守れないなら今日の狩りは見てるだけにするよ」
「それは…嫌」
「私だって参加させてあげたいよ。でも命のやり取りをする場所で仲間に攻撃するなんて以ての外だ」
完全にしょぼくれ自分の上着の裾をもじもじと指先で握っては離しを繰り返す。クロエが見兼ねたのかシエラの肩を二回優しく叩き、口を開く。
「そうよ、シエラ。仲間なのだからある程度は仲良くしなきゃ、もしも気に入らなかったら噛み付くんじゃなくてシエルに言いつければいいのよ」
「シエルに…?」
「そう、ヴァンはシエルにベッタリでしょう?だからシエルから怒ってもらうの、多分そっちの方が辛いと思うわよ」
「クロエ!」
完全に見守る事にしていたらしいヴァンが焦って止めに入る。その様子を見たシエラがどう思ったのかは分からないが数回頷いた。
「わかった!次、そうする!」
「いい子いい子」
ここぞとばかりにシエラの頭を撫でるクロエ。撫でられたのが嬉しいらしくまた跳ねそうになるシエラにクロエが「女の子は跳ねるのは良くないわ、スカートだったら中が見えてしまうもの」と忠告すると素直に頷いた。
それにほっとしたのはヴァンで、なんとも不器用な物だなと私は少し感慨深い気持ちで見守った。
シエラの服装はスリットが入ったスカートに中に短いズボンを履いている。クロエ曰くオシャレも大切なんだそうだ。
「シエラは自分の可愛さをもう少し自覚した方がいいかしらね」
「シエラは森の中でずっと暮らしていたから比較対象が居なかったんだろう、現に自分に視線が向けられているのはわかってもその理由は分からない様だから」
「前途多難ですね」
「ヴァンはもう少し考えて動いた方がいいわよ、シエラは女の子なんだから」
呆れたようなクロエの視線にヴァンが目を逸らした。
悪気は無いし、寧ろ気を利かせてはいるんだけどね。どうにも空回りしている様だった。
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