第15話 「張り合い」


「忘れ物はないな?」

「えぇ、シエラが凄いことになってますが」

「肉、だいじっ 」


 ふんすと胸を張るシエラは沢山の肉を持っている。私達も持っているが、あまり持ち過ぎると何かあった時に対応が出来なくなってしまう。

 戦闘面で活躍できないシエラにその分持ってもらうことになったのだが、シエラは出来るだけ持って欲しいという言葉に反して、全て持つと言って聞かなかった。

 おかげでシエラの手にはたくさんの肉がある。


 普通の娘なら嫌がりそうけど、彼女は森生まれの森育ち。虫だって平気な上に怪我も良くしていたということで血にも強いらしい。


 そこで発覚したのがシエラの異常な程の力の強さだった。

 私でも重いと思う量の肉を軽々と持ち上げて歩いても一切辛そうに見えない。重くないかと聞いても全然大丈夫だと返答された。


 肉を手放し、シエラの冒険者ギルド登録が出来たら剣を教えるのもいいかもしれない。戦える方がいいに決まっているし、何よりシエラ自身が狙われやすい容姿をしている。


「シエル、早く行きましょう」

「そうだな、シエラ…辛くなったらすぐ言うんだよ」

「わかった!」


 火を水で念入りに消して森の外へ向かって歩きはじめ、先に行くと言い張るヴァンを先頭にシエラを挟み私が一番後ろを歩く。


 ヴァンが肩にかけたイノシシの毛皮がゆらゆらと揺れていて、思わず背負い袋の中身に匂いがうつらないか心配になってしまう。


 シエラがいるし、余裕が出来たら馬を買おうか。一頭でも居れば楽になる。ハライトは緑が豊富で餌にも困らないだろう。問題点は現状では馬が高すぎるということだ。


 何か狩りに出るか依頼を受けて資金を手にしたい所だが、信用出来る相手が見つからなければシエラまで連れてく羽目になってしまう。


 そうそう苦労する相手はいないだろうがシエラという弱点を晒しながら動くのは如何なものか。


「シエル?」

「…なんでもないよ」


 心配気に振り返ってくるシエラに微笑みかける。すぐどうこうできる内容じゃないし、深く考えすぎて良い結果になるとは限らない。今はまずこの肉達を売ることを考えよう。


「あ、そうだ。シエラ、歩きながら言葉の練習しようか」

「私、喋る、出来る」

「うん、話せてはいるんだけど私達に比べると間が変なところに入ってたりするでしょ、今は良くてもそれが原因でトラブルになってしまうこともあるから」

「トラブル…?」

「危ないことの事だね」


 シエラが驚いた顔で私を見る。

 びっくりするほどこの子は本当に素直だなぁ。表情が豊かで見ていて楽しいけど。

 変な詐欺とかに引っかからないだろうか、心配になってしまう。


「危ない、良くない」

「そうそう、だから覚えていこう」

「わかった!」


 笑顔を浮かべるのはとても可愛らしいとは思うが肉だらけの姿が合わさるとなんだか見てはいけない存在に出くわした気分になった。


「なに、覚える?」

「なに、覚える…ではなくてそういう時は最初は何から覚える?だね」

「さい、さい…しょっ、さいしょは、なに、から覚え、る?」

「もう1回言ってごらん」

「最初は…何から覚え、る!」


 言い切ったと目を輝かせる。やはり頭はそんなに悪くない様な気がするんだよねぇ。

 微笑ましく見ていればシエラを恨めしそうに見ているヴァンがいた。



 声をかければいいのに、無言は怖いよ。無言じゃなくても怖い気がするけど。


「…進んでください、また日が暮れてしまいます」

「すすんで、ください…またひがくれ…て」

「僕の方は真似しなくていいですから!足は止めないでください!」

「っはは」


 ヴァンが子供に翻弄されて怒っている様子がなんだかとても心地よくて、堪えようとしても結局笑いが漏れてしまう。


「え?し、シエル?」

「シエル?」


 二人がびっくりしたように私を見るけど変なツボにハマってしまったのか中々笑いが抜けなかった。

 声を上げて笑ったのなんて何年ぶりだろうか。


 最初は驚愕していたヴァンも私の笑いが抜けないことに気づいたのか段々と眉間のシワを深くして目を細める様になった。


「シエル」

「う、うん…ご、め…ふ…ふふ」

「シエル!!」

「シエル、怒る、ダメ!」


 咎めてくるヴァンの前にシエラが立ち塞がり私を守るように手を広げている。


 可愛い、可愛いんだけどさ、なんだろう。

 ヴァン、君歳上でしょなんで明らか子供と張り合ってるのさ。


 いがみあう二人の横を通って笑いが抜けないながらも歩き出す。そしたら二人は驚いたように私を見ていて。


「私一番前にしようかな」

「僕が前に立つと言いましたよね、シエル!」

「私、も、前!!」


 慌てて走りよってくる二人に胸の奥がほんのりと温かくなったきがした。






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