第168話 ヴィクトリアとベアトリスが久しぶりに憩い亭を訪れる!

数ヶ月振りに、重い腰をあげるヴィクトリア。牡蠣事件以来、拓哉の料理を食べたかったのだが、トラウマ化してしまっていた。

しかし、どうしても食べたい衝動を抑えられず、ベアトリスと店に訪れることにしたのだ。ヴァレリーは、珍しく仕事が立て込んでいて開店と同時に行くことができないらしく後で合流するとのことである。


「お母様、行けそうですか?私も久しぶりで大変楽しみなんです。早く行きましょう」


ベアトリスは、王妃になる為の勉強をしていたので、なかなか時間を作ることが出来ずにいた。まだ14歳で王妃は、まだまだ先だが、王族として教養を深めることは必須なのである。


「大丈夫よ。行きましょう。久々に行くから何を食べるか決められないわね」


料理長が作れる料理にも限界があり、拓哉ほどのレパートリーはなく、憩い亭のメニューを想像して、どれにしようかと悩みまくるのであった。


「そうですね。じゃあお母様と私のを分け合うのはいかがですか?そうしたら色々な物を食べられますよ」


「それはいいわね。流石、ベアだわ。早く行きましょう。私に掴まりなさい。転移するわよ」


そう言って、ウキウキな気持ちで転移する。

転移すると、以前ヴィクトリア達がきた時の風景とは異なり高い壁がそびえ立ち、塔が建ち、家も無数にできている。


「お母様...ここで合ってますよね?」


「合っているはずだけども...村とは言えなくなってるわね。それに、あの人から聞いた話だけれども古龍様に竜が数匹いるらしいわ。今や、魔国以上の国力よ」


ヴィクトリアの中では、村ではなく国扱いになっている。国力と評したのも国家戦力以上の力に料理という国相手にも交渉できる材料を持ち合わせていて、国防も小国以上である為だ。だが、ここの住人は一切攻め滅ぼしたり戦争する気もない。ただバルトが趣味で造り、戦力も勝手に集まっただけなのである。


「お母様、敵対するような方々でなくてよかったですわね。それより、お腹が空きました。早速行きましょう」


「そうね。善は急げだわ」


足早にお店に向かう二人。ドアを開けると懐かしい「いらっしゃいませ」という声が聞こえてくる。


「え?ヴィクトリア様にベアお姉様、お久しぶりです。ずっとお見かけしなかったので、心配していたのですよ」


「そうだったのね。ごめんなさいね。体調が悪かったものだから」


「ラリサちゃん、久しぶり。私は、勉強が忙しかったの。会えなくて寂しかったわ」


ヴィクトリアは、牡蠣がトラウマだとは言い出せず、咄嗟に体調の所為にする。ベアトリスは、久しぶりにラリサに会ったので嬉しくて抱きついてしまう。


「ベアトリス様、苦しいです...ヴィクトリア様、体調がよくなってよかったです。今日はいっぱい食べて帰ってくださいね」


「あ!ごめんね。つい嬉しくて強く抱きしめすぎたわ」


「あら、ありがとう。適当に座らせてもらうわね」


そう言って二人は、空いた席に座る。それから、久しぶりにメニューを開いて何を食べるか考える。


「まずは、フライドポテトと飲み物を頼みましょう。食べている間に、たっぷり白菜と鶏肉のクリーム煮を頼むわ。ベアはどうするのかしら?」


「オーク肉のヒレカツを頼みます。あとライスと」


意外にガッツリ行くベアトリスである。


「ラリサ、フライドポテトとビールとオレンジジュースと食べ終わる頃に、たっぷり白菜と鶏肉のクリーム煮とオーク肉のヒレカツとライスをお願いね」


「は〜い!畏まりました」


ラリサが注文を受けて、注文を伝えに厨房に行く。暫くして、先にビールとオレンジジュースとフライドポテトを持ってやってくる。


「お待たせ致しました。ビールとオレンジジュースとフライドポテトです」


なんとも言えないフライドポテト特有の匂いがして食欲を誘う。


「外はサクサクで塩が効いていておいしいです。手が止まりません」


「ただのジャガイモなのに不思議よね。細く切って揚げるだけで、別物になるんですもの。それに、ビールともよく合うわぁ。そうよ。この冷えたビールよ。あぁ、ここでしか味わえないなんて残念よね」


フライドポテトの不思議な魅力に取り憑かれたのか、二人はパクパクと次々に食べていく。

フライドポテトが、無くなりそうになった時に、注文した二品がやってくる。


「たっぷり白菜と鶏肉のクリーム煮とオーク肉のヒレカツとライスお待たせ致しました」


乳の香りと鶏と白菜がゴロゴロ入った煮込みとヒレカツの揚げ物の匂いに、お腹がぐぅ~と鳴ってしまう二人。


「えっ?もっと乳臭いのかと思ったのだけど全然そんなことはなくて、優しい乳の風味に鶏の出汁が混ざり合っていい感じで調和しているわ。それに、白菜という野菜も柔らかく煮込まれていて野菜の甘みがあっておいしいわね」


「お母様、ヒレカツも凄いですよ。外はサクサクの中はジューシーで、凄い脂の甘みとお肉の味が口の中いっぱいに広がります。それに、この調味料(ソース)も複雑な味ですけど、ヒレカツによく合ってライスも進みますわ」


すぐに、お互い半分まで食べ終わってしまい、交換をする。


「本当ね。ヒレカツ凄くおいしいわ。私は、ライスよりこのガツンとくる感じが、ビールに合って気に入ったわ。ベアの言う通り交換して食べ合うのは正解だったわね」


「お母様、こちらも熱々で鶏肉もホロホロで柔らかくてスープも色んな味が溶け込んでいておいしいです」


お互い頼んだものを交換して楽しんでいると、仕事が終わったヴァレリーがやってくる。


「おっ!二人ともうまそうな物を食っているな。俺も混ぜてくれ」


そう言っていつもの通り、ビールから頼むヴァレリー。この後は、久しぶりの一家団欒を楽しむのであった。

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