第117話 (中編2) 茂三の凄さを目の当たりにする!
厨房に立つ2人!
「さっき伝えた食材を全部出すんじゃ」
普通の定食屋なら3日分くらいの食材を要求され、その通り購入して倉庫に出す。
箱を開けて野菜や肉や魚を確認しているようだ。 ちなみに、倉庫はドワーフが改造したらしく冷蔵区画と冷凍区画に別れている。
「懐かしいのぅ...90年振りに地球の食材を目にしたわい」
もし、自分が何もスキルがなく異世界に行っていたら、どうなっていたか考えると茂三の偉大さがよくわかると思う拓哉。
「俺が、死ぬまでここに来れるのは最後かも知れませんし楽しみましょう」
食材は、倉庫いっぱいに置いて行くつもりではいる。
「よし!全部仕込むぞい。 拓哉は、肉を切るんじゃ。 ワシは野菜を切るからのぅ」
普通は、下の者が野菜を担当するのに何故だろうと思う拓哉。 すぐに、何故かわかることとなる。
「わかりました。 包丁お借りしますね」
茂三からの返答はない。 拓哉が気になり、見てみると既にダンボール1個分のじゃがいもを切り終えそうになっている。 拓哉は、その手捌きに見とれてしまった。
「拓哉、はよ手を動かさんか。 時間がせまっとるんじゃ」
手が一切動いていないことに気づいて怒る茂三。
「は、はい!すいません。 すぐにやります」
ビクッとなってすぐ手を動かす。 注意されたのは、新人の時に怒られて以来である。
全てなんとか切り終えたが、拓哉は腕がパンパンになっていた。 茂三は、すぐに下拵えを始めている。 それを見た拓哉は、負けていられないと指示されたメニューの下拵えを手伝う。
「流石に、じじいがワシの後に選んだだけはあるのぅ。 切り方も的確かつ綺麗じゃし、出汁もうまいこと出来とる。 じゃが、ちと遅いのぅ。 今は良くてもいつか客が押し寄せる。 その日の為に、日々訓練を積むんじゃ。 今日、その意味がわかるじゃろう」
普通なら20年という料理人生のプライドで言い返すだろうが、あまりの技術に圧倒されて言い返す言葉もない拓哉。
「ありがとうございます! 成長とはなんだろうとなっていたので、アドバイス頂いて足りないものが見えました。 日々努力します」
微かに笑って頷く茂三。
「もう時間がないわい。 ラストスパートじゃ」
素っ気なく返す茂三に拓哉は「はい」と返事をして手を動かす。時間が知らぬ間に過ぎ去り開店前になる。
「そろそろ店を開けるわい。 ワシが開けるで、拓哉は注文を聞くんじゃ」
頷く拓哉。
ガラガラ(引き戸を開ける音)
「待たせたのぅ。 15人ずつじゃ。 守らんやつは食わさんからちゃんとするんじゃぞ」
そう言うと店になだれ込むようにお客さんが入ってきて、あっという間に席が埋まる。拓哉は、注文を聞くがあちこちで叫ぶお客さん。
「からあげ定食をくれ」 「中華丼じゃ」
「俺は焼き肉定食を頼む」「こっちはアジフライ定食だ」「焼きそば大盛りで頼むぞ」
「ラザニアをはよ食わせろ」
どんどんあちこちで注文するので、メモ書きが追いつかない拓哉。
「お前ら黙らんか! 一人一人注文するか、帰るか、どっちにするか選ぶんじゃ」
茂三の怒声を聞いたみんなは黙る。 さっきまでの、行儀の悪さが嘘のように静かに座り、一人一人注文を言ってくれる。
「拓哉、こいつらがなんか言うようなら絞め上げて構わん。 拓哉より強いやつは、ここにはおらんからのぅ」
何十年も強者を見てきた茂三は、拓哉が強いことを見抜く。
「は、はい!わかりました。 殺さない程度にぶっ飛ばします。あ!でもみんな幽霊か...」
拓哉もノリがわかったのか、本気のような冗談のような返しをする。
その後、客同士の喧嘩や拓哉に絡んで来たリザードマンと魔族をぶっ飛ばした拓哉。 それを見たお客さんは、みんな敬語を使い始めて、ぶっ飛ばした二人からは兄貴と呼ばれるようになった。 その二人から手伝いますと言われたので、注文を取るように頼んだ。
「兄貴、5番テーブル八宝菜定食入りやした」
「兄貴、7番テーブルハンバーグ定食だす」
天界での舎弟の二人から注文を受けて作る拓哉。 ちなみにリザードマンがブルで魔族がキリルと言うらしい。
「ブル、2番テーブルのエビフライ定食出来たから持っていって」
「了解しやした」
「キリル、10番のスタミナ定食頼むのぅ」
「了解だす」
茂三と拓哉が、フル回転で作っても列が途絶えることはない。
店内では。
「懐かしくてうめぇ〜」「これだよこれ」「ずっと食いたかった味だ」「もう一生食えねぇと思ってただ」などなど生きていた時に、食べていた懐かしい料理をみんな楽しんでいる。
やっとお客さんを捌けた所に、あの3人がやってくる。
「茂三、来たぞ。 すき焼きをくれ」
「ワシは、よせ鍋をくれんか?」
「僕は、もつ鍋をお願いしますね」
あの日、最後に茂三が作って出した物だ。 ということは、今いる三人は元皇帝に元陛下2人である。
「拓哉、鍋はワシが作るでのぅ。 3人と話といてくれんか?」
茂三にとっても思い出の料理なのだろう自分で作るとのことだ。
拓哉は、「はい」と言って3人の相手をする。
「はじめまして、神様に急に天界に連れて来られた拓哉と言います。 よろしくお願いします」
3人は、拓哉を凝視する。 最初に話しだしたのは、アルバーノだった。
「俺は、アルバーノだ。 王国の元王だな。 拓哉も、茂三と同じ世界から来たんだろ?」
「はい! 俺の場合、魔境で料理屋をしてますがね。 あ!最近まで今の王様ですが、洗脳されていて大変でしたよ。 帝国も獣人を無理矢理奴隷にするから大変そうですし。 ヴァレリーさんとか当時を知る人が嘆いてました」
3人が、顔を見合わせて頭を抱える。
「ワシは、帝国の元皇帝アルノルドじゃ。遺言でも残したはずじゃが、一切守られておらんようじゃな。 嘆かわしい。 それにしても、ヴァレリーの坊主が元気でよかったわい」
「僕は、共和国の王でカミッロと申します。 共和国については何か知っていますか?」
「すいません、共和国は、わかりませんね...。 アルノルドさん、ヴァレリーさんは魔王になられましたよ。 毎日、飯を食いに来ています」
それを言うと全員笑い始めた。
「ブハハ、バクールと似てるな。 あいつも毎日茂三の店にいたしな」
「しかも嫁に浮気を疑われてボロボロになって現れた時は笑ったわい」
「あの時は、戦争でも始まったかと焦りましたよ」
昔の思い出に花を咲かせる3人。
「バクールさんも、夜中に来てうちの娘を孫のように可愛がってますよ。 国すら贈り物にするらしいです...困りますよね」
それを言った瞬間、沈黙が流れて爆笑が起こる。
「ブハハ、あの頑固で敵に容赦なかったバクールがか? 孫バカだとよ」
「ガッハッハ、あ〜涙が止まらんわい」
「プッ...笑ったら可哀想ですよプッハハ」
バクールさんの過去ってどんな凶悪だったのか気になる。
「あのバクールが生きてるなら話ははぇ~し。 楽しい会話の礼に今の国王に会えるよう創造神のじじいに頼んでみるわ。 お灸を据えなきゃな」
「ワシも、頼んでみるかのぅ。 もし、帝国が拓哉に害を及ぼしたら、ワシが登場できるようにするか」
「僕も、いずれ役に立つと思いますよ。 やはり平和がいいですからね」
3人があり得ないようなことを口にしている。 もし叶ったらウォーレンさん国王辞めちゃうんじゃないかな...ははは
「盛り上がっとるのぅ。 お待たせじゃ」
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