第116話 (中編1) 天に召される焼きそば!

茂三が鉄板を2つ持ってやってくる。 熱々の鉄板からは、ソースのような刺激たっぷりのいい匂いが漂ってくる。

そのいい匂いの料理が、拓哉とロンの前に置かれる。


「天界焼きそばお待たせじゃ」


色々な具材が盛り沢山に入った焼きそばであった。 よく嗅いだはずの焼きそばなのに、口内の唾液が自然と溢れて、お腹もグーグーと鳴り、手が勝手に箸→焼きそばへと誘導する。 その後、何故かすぐ固まり無意識に食べ始める拓哉。


「......は!食べた瞬間意識を持っていかれたぞ。 あれ?? 半分もなくなっている」


拓哉は、いつ食べたのかわからない状態だ。  そう、天界焼きそばとは食べた瞬間、天に誘われたように意識を無くす程うまいから付けられた名前だ。 正直、半分無くなっているのが悲しく思う拓哉。


「拓哉、スゲェ〜だろ? 初めて食ったやつはみんなそうなる。 知らないうちに半分無くなくってるのが、勿体なく思ったみたいだな。 俺も最初は、誰かに食べられたと思ったくらいだ。 ワハハハ」


ニヤニヤしながら話すロンは、意識を無くすのを知っててワザと黙っていたなと思う拓哉。


「改めて食べてみたら、この異常なモチモチ感のある麺。ソースも明らかに普通ではなく中毒になるような刺激がある。肉も脳天に雷が落ちたかのような衝撃がくる。海鮮ぽい何かも噛んだら弾けて中から旨味の波が押し寄せる。 野菜もシャキシャキみずみずしく、こんな焼きそば食べたことがない...同じ料理人として完敗だ」


もう何がなんだかわからなくなる拓哉。

同じ物を作れと言われたら無理としか言えない。


「お前さんが負けて当たり前じゃ。 こりゃ天界の食材じゃからな。 魔力を帯びた野菜や肉や果物がうまくなるように、神力を浴びたもんは魔力の比じゃないくらいうまくなるんじゃよ。 ワシも、最初は知らずに自分の力量が上がったと勘違いしたわい。 最初は喜んだんじゃがな...これだけ食材が良ければある程度のやつが作ってもうまいんじゃ...正直、ワシが成長出来とるんか?食材がうまいだけなのか?今じゃもうわからん...悲しい事実じゃわい...」


茂三も悩みを抱えていた。 現世と天界合わせて130歳の男が悩み苦しむ。 料理とは本当に終わりがない険しい道を歩くものなのだろう。


「俺は、素人だからわかんねぇけど、親父の飯が1番だけどな。 客の俺からしたら、客が満足出来ればそれでいいんじゃないかと思うけど...でも俺も強くなる為に鍛えるし、それと同じなのか? わけわかないこと言って悪い」


それを聞いた拓哉と茂三は、二人して笑う。

そうだった、お客さんがいてこそだと気付かされたのだ。


「悔しいがロンに気付かされるとはのぅ」


「茂三さん、ロン以外で火乃国のお客さんてきますか?」


何を思ったか。 急に尋ねる拓哉。


「あぁ〜そうじゃな。 ほとんどが、そん時の客じゃわい。 どうかしたかのぅ?」


拓哉は、これはいけると確信する。


「俺は、地球の食材を取り寄せるスキルが、あります。 それを使って懐かしい料理を作りませんか?あとアイテムボックスに、魔物も入っていますしね」


茂三は、目を丸くして驚いている。


「そりゃ、ええのぅ。 しかし、そんな便利なスキルをもらいよったんか? ワシの時は店だけじゃったぞい。 あのジジイ天界に来ても店しか与えんからのぅ。 差別じゃわい。 まぁそれはええわい。 何を作るか決めとるんか?」


内心茂三は、昔の日本にいた時代の食材を使えることに嬉しさが込み上げてくる。


「俺は、サブでメインは茂三さん貴方です。 サポートはしますので、お客さんの好きな料理を作ってあげてください」


「ブッハハハ。 そうか...じゃあこうしちゃおれんな。 拓哉、仕込みをするぞい」


お前さんから名前で呼んでもらえるようになった拓哉。 茂三の心境に変化があったのだろう。


「客は任せておけ。 俺が呼んできてやるよ。 元皇帝と元陛下2人も呼んできてやるよ」


ロンは、飛び出していきユニコーンの姿でかけていく。


元皇帝アルノルドとアルバーノ元陛下とカミッロ元陛下、今日も3人はチェスをしている。 天界でやることがない三人は毎日日没までチェスをして、夜は茂三の店で過ごすの繰り返しだ。

アルバーノが叫ぶ。


「あぁぁぁぁ! 毎日が暇だ。 しかも俺ばかり負けてるしよ〜。 この20年勝った記憶がねぇ〜」


アルノルドとカミッロは、そりゃ脳筋じゃ勝てるわけないわと思う。


「もっと考えて動かさにゃ勝てんぞい。 ワシとカミッロの戦いを見とくんじゃ」


「アルノルド爺さんとですか? 苦手なんですよね...常に誘われてる気がして踏み込めないところが。」


いつもと同じような会話をしていると、ロンが走ってくる。


「大ニュースだぁ! 茂三と茂三のあとを継いだ人間が、地上の食材で昔の料理を作るらしいぞ。 3人とも絶対こいよ。 俺は、他にも伝えにいくから。 またな」


それを聞いた3人は一斉に顔を見合わせる。


「絶対いくだろ」「当たり前じゃ」「楽しみですね」


3人は、茂三が死ぬ前に食べた鍋を目当てにしている。 

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