第113話 (前編) のり弁とファーニャ!


少し時は遡り、アレンが来た当初の話である。


バルトが来客用に2階建ての家を建ててくれた。 その建物の中にある執務室で働いているアレン。

アレンは、ケットシーと交渉していた。


「ですからぁぁ! 何度も言っているように、これ以上は譲歩できません」


ネットショッピングで買った缶詰とウイスキーを売買する契約の最終決定を交わす話し合いの真っ最中である。


「ニャッニャニャ。 にゃんで無理にゃんだにゃ〜。 これだけにゃいと、取り引きすらできにゃいんだにゃ〜。 アレンさん頼みますにゃ〜...」


契約は、難航状態のようだ。 ファーニャは尻尾を下げてこの世の終わりのような顔をしている。


「ファーニャさん、元貴族の私から言わして頂くと、おっしゃる量を取り引きした場合、ファーニャさんも拓哉さんも危険にさらされます。 もし、欲深い貴族に捕まった時、どんなことをされても隠し通せるのですか?」


元貴族として、色々な人間を目にしてきたアレンは強く言う。 だが、ファーニャにも成し遂げたい理由があった。


「無理だにゃ...でも、獣人は奴隷か貧乏人が多いにゃ...小さい時に友達も口減らしで売られていったにゃ...ファーニャは、大商人ににゃって見せかけの孤児院じゃにゃくてちゃんとした孤児院を建てて、安心して暮らせる場所を作ってやりたいのにゃ。 だから諦められないにゃ....」


それを聞いたアレンは、どう答えていいかわからなかった。 先代から続く伯爵家に生まれて何不自由なく過ごしてきたアレンにとってわからない世界であったのだ。


「アレンさんは、悪い人間じゃにゃいにゃ。 でも、人間は怖い存在にゃ...恐れる弱い獣人はいっぱいいるにゃ....だから、だから、この取り引きを成功させたいんだにゃ」


アレンは、産まれてこの方、他種族のことをしっかり考えたことはなかった。 ファーニャに言われて初めて気付かされることや自分は小さな世界で暮らしていたのだと思ってしまった。 下を向いたまま答えることができない。 そこに、拓哉がやってくる。


トントン!

「もうお昼なのでお弁当をお持ちしました。 一緒に食べましょう」


下を向いたアレンに、尻尾を下げるファーニャを見て、拓哉は難航してるなと悟る。 ドア前で聞こえたファーニャが、大商人になりたい理由には拓哉も驚いていた。

拓哉は、それぞれの前にお弁当を置く。 のり弁である。 ファーニャがいるので、白身魚のフライとちくわの磯辺揚げと煮物。それから米と海苔との間には昆布ではなくかつお節を挟んである。


クンクンクンクン

ファーニャが、魚の匂いに反応する。

垂れ下がっていた尻尾が、ピーンと立つ。


「ニャニャニャニャ! さかにゃだにゃ。 拓哉さんは優しい人だにゃ。 ニャ〜〜! つぶつぶの白いソースがかかったさかにゃのフライおいしいにゃ。 外はサクサクで中はふんわりとあっさりした味が堪らにゃいにゃ。 ライスもうみゃ〜だにゃ! 海の味と醤油の味がライスと合うにゃ〜〜。 これを出されたらケットシーは、全員拓哉さんに飼われたいと思うにゃ。」


体を揺らしながら尻尾も立てて、満面の笑みになるファーニャ。 最後の言葉だけがおかしかったと思う拓哉だった。


「アレンさん、解決策の糸口ならありますから、今はお弁当を食べましょう」


解決策の糸口があると言われて、嬉しい反面自分が情けなくなるアレン。 私は、与えられた仕事すらまともにできないのかと...


「おいしい...」


舌は素直においしさをダイレクトに伝える。 思わず口に出して言ってしまうアレン。


「拓哉さん、おいしいです。 なんか素朴な味ですが、私は好きですね。 ファーニャさんの大好物がいっぱい詰まったお弁当なのですね。 これ(磯辺揚げ)もサクサクして海苔に近い風味と味わいがあり、淡白な中の食材(ちくわ)と合いますね」


アレンも、お弁当を楽しみ始めたようだ。


「アレンさんもよくわかってるのにゃ。 幸せがいっぱい詰まったお弁当だにゃ。 ニャニャニャ....もう無くにゃったにゃ...」


それを聞いたアレンは、子供を見るような目で、そっと魚のフライをファーニャのお弁当に分けてあげる。


「ファーニャさん、どうぞ食べてください」


ファーニャが、真顔でガッとアレンを見る。 目が血走っていて怖い。


「アレンさん、本当にくれるのかにゃ?(はい。食べてください) やったにゃ。うみゃ〜だにゃ。 アレンさん、ありがとうにゃありがとうにゃ」


アレンの手を握ってお礼を言うファーニャ。


拓哉は、これでまた落ち着いて話せるだろうと感じて本題を言う。


「アレンさん、ファーニャさん、食べ終わりましたら付いてきてください」


拓哉が考える解決方法とは如何に!

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