第114話 (後編) 鯛の姿造りとアレンの他種族への考え方!

拓哉は、アレンとファーニャを連れて、平屋の大きな家へと向かう。

村のみんなが話し合いをしたい時に使うようで議会所としてバルトに建ててもらったものだ。 本当にバルト様々である。 一家に一台?一人ドワーフだ!

アレンが、疑問に思ったのか、平屋に着くやいなや質問してくる。


「拓哉さん、何故議会所に連れてきたのですか? ここに解決策があると?」


頭にハテナが浮かんだような顔をするアレン。


「まぁまぁとりあえず入ってください」


拓哉は、詳しくは言わずにズイズイっと中に入っていく。 ファーニャは、何がなんだかという感じで二人に着いていく。

議会所の部屋前に着くと拓哉が、数回ノックしてからドアを開ける。

アレンもファーニャも中にいる人物と雰囲気に驚く。


「えぇぇぇぇ!」「にゃんだにゃ〜!」


二人が見たものは、スーツを着たボーン・フェン・ヴァレリーが待っていた。

二人はパニック状態である。 まさかの大物ばかりいるのだから! 

拓哉が全て仕組んだ?上手くいくように練ったものだ。


「驚かせてごめんなさい。 初めから難航するかなと、ちょっと思っていたんです。 うまくいっても連れてくるつもりでしたが。 ファーニャさん、あの方達は、ここの住人ではないので、缶詰とウイスキーを取り引きしたい人達です。 ボーンさんに、制約魔法を かけてもらって情報は漏れないようにしてもらいます。 ファーニャさん、紹介料の代わりに、ウチで狩った魔物を高値で買い取ってください。 アレンさんは、ここの話し合いが終わったら、魔物の買い取りについて再度ファーニャさんと話し合ってください」


アレンさんの初仕事を奪う形になって申し訳ないけど、あのままなら平行線にしかならないからな。 今回のことで、他種族とのやり取りを学んでくれたらいいけどなと思う拓哉。


「アレンさん、仕事を奪う形になってごめんなさい」


頭を下げて謝る拓哉。


「拓哉さん、感謝しかありません。 多分あのままでは解決しませんでしたから。 次は、拓哉さんにご迷惑をかけないようこなしてみせます」


感謝しているのは本心だが、解決策すら見つけることのできない自分を恥じるアレン。


「アレンさんは、ここの仲間ですし、貴族のようにいつ後ろから刺されることはありません。 いつでも頼って弱みを見せていいんです。 わかりましたか??」


アレンは、確かにそうだと思った。もう貴族ではないのだと。


「ありがとうございます。 何かあれば頼らせてもらいます」


「はい! いつでもお待ちしてます。 それよりファーニャさんが、圧倒されて交渉というより圧迫面接みたいになってますよ。 私は用事があるので助けてあげてください」


ファーニャは、ノーライフキングとフェンリルと魔王と対峙しており、絶対絶命のピンチを迎えていた。 ボーンもフェンもヴァレリーも、そんなつもりはないが、蛇に睨まれた蛙状態のファーニャ。 すぐに、アレンが助け舟を出しに行くのだった。


拓哉はというと、初交渉にして大口契約が取れそうなめでたい日なので、鯛の姿造りを取りに来ていた。 1枚醤油とワサビをつけて味見する。


「おっ! やっぱり1日置いた方が、甘味とコクが増してうまいな。 マリーさんとシャーリー作の回復&劣化防止冷蔵庫エグいな」


錬金術師のマリーと時空魔法のシャーリーとが、共同開発した回復&劣化防止冷蔵庫。 

切替式で切り替えるだけで、傷みかけた食材を元に戻すのと劣化を防ぎながら時間を進行させる冷蔵庫だ。

今回は、鯛の甘味とコクを増す為に使用してみた拓哉だが、申し分ない出来だとわかった。


そろそろ話がまとまったかなと、酒と鯛を持って議会所に行く拓哉。


トントン(議会所のドア)


「ファーニャさん、話はまとまりそうですか?」


「はいにゃ! 皆さんのお陰でいい取り引きができそうにゃ! これで夢にかにゃり近づけたにゃ。 ありがとうございますにゃ」


ファーニャも、来たときより緊張が解れていつも通りみたいだな。 アレンは、何やらメモを取っている。 なんだろう?


「皆さん、一度話し合いはやめて酒とめでたい日に食べる料理を食べましょう」


拓哉はそう言うと、日本酒と鯛の姿造りをテーブルに出す。 鯛の大きさと頭まであることで魚のリアルさがあるのか「おぉ!」と歓声が上がる。 ファーニャが目を輝かせて早く食べたいような顔をしている。 


「ニャニャニャにゃんて立派にゃ! 早く食べたいにゃ〜」


みんなに箸とフォークと醤油とワサビが入った皿を渡す。 ちなみにファーニャは、醤油だけ。


「とりあえず食べてください!!」


ファーニャが、いの一番に口に運ぶ。 

今にも天に召されそうな顔になる。いつもよりヒゲもピーンとなったような気がするのは気の所為かな?


「ニャ〜〜ン。 拓哉しゃん。 これはズルいにゃ....これで落ちにゃいケットシーはいにゃいにゃ。 夢がにゃかったらすぐ結婚を申し込んでたにゃ! 甘味と口から溶ける身...最高だにゃ〜」


とろけそうなファーニャ。 ケットシーの結婚の申込みは、花束とか指輪みたいにより良い魚を持って結婚してくださいって言うのかなとか想像する拓哉。

ヴァレリーが拓哉の肩をバンバン叩いてくる。


「うまいぞ。 旨味が詰まった身と日本酒が堪らん。 これもしかして、炙ってもうまいんじゃないのか?」


力が強いから痛いんだよと思う。 ヴァレリーさん.....正解! 食通になりすぎ! 炙ってそのまま食べてもいいけど、皮をパリっとさせて茶漬けにしたら最高だよな。


「ヴァレリーさん、料理評論家になればいいんじゃないですかぁぁ??って冗談は置いといて炙りは正解です! 夜に締めとして鯛茶漬けを出しますよ。 パリっとした皮と脂の乗った身にダシと米の相性抜群ですから」


それを聞いたヴァレリーは、酒をキュッと呑んでどんな料理か想像に耽っている。

ボーンとフェンも、うまそうに食べている。


「この日本酒も鯛も、相当上等でしょう?これを食べたら、寿司をまた食べたくなります。 また作ってくださいね??」


ボーンもまた食通になっているのである。


「子供と妻に食べさせたいね。 早くアカツキが成長してくれたらいいんだけどさ。 まだ乳離れできてないからさ」


口調は、遊び人そうなのに子煩悩なフェン。


「寿司は、近々作りましょう。 アカツキくんが、離乳食を食べられるようになったら、また連れて来てください。 特別な物を出しますから」


そんな話をしていると、アレンがやってくる。


「御見逸れしました。 これだけ完璧な流れを作られたら失敗はありませんよ。 それより、他種族の方の考え方や習慣など色々交渉中に分かり勉強になりました」


あぁ! それでメモしていたのかと思う拓哉。 密かに"頑張れアレンさん"と思うのだった。

そんな話をしていると、酒に貪欲な人が来た。


ドガ〜ン(ドアを開ける音)


「ワシを差し置いて昼から酒を呑むとは許せんのぅ! 何故呼ばんのじゃ」


あぁぁぁ〜1番来たらまずい人...バルトが来たと思うのだった。 いったい高級な日本酒を何本飲まれることやらと...トホホ

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