第104話 (後編) ミノタウロス牛丼とマリーがヤミンに堕ちる!

宿に訪れた拓哉。

トントン!!(ドアを叩く音)


「ヤミン君、起きてる??」


中から「うん」と言う返事と共に、ドタドタと勢いよく走ってきてドアが開く。


「たっくん、どうしたのぉぉ!?」


拓哉のことを、たっくんと呼ぶヤミン。 

拓哉的には、呼び名とかどうでもいいんだが、何故なのか聞いてみる。


「あ! えっと...ヤミン君は、食事はできるの?? それと、何故!?たっくん呼びなの??」


食事と聞いて、パァ〜と顔が明るくなるヤミン。


「うん! 食事できるよぉぉ。 おいしいの食べたいなぁ!? あと、たっくん呼びは、なんか可愛いからぁぁ??ん〜やっぱり可愛いからかな。 嫌かなぁぁ.....??」


上目遣いで、目を潤ませながらたっくん呼びについて聞いてくるヤミン。 男の娘だと知らなければやられているあざとさだと思う拓哉。 心の中で、この子は男の子!この子は男の子!と何回も念仏のように唱える。


「そ、それならよかった。 18時になったらマリーさんと一緒に憩い亭においで。 嫌ではないけど、聞き慣れないからなぁ!まぁ好きに呼んでいいよ。 じゃあ、18時にな」


許しをもらったヤミンは、「やった〜」と言って喜んでいた。 その仕草をカワイイと思ってしまった拓哉は、ダメだと思い足早に去っていく。


開店前

憩い亭厨房


「あるじ、新しく来た人に何を作るの??」


最近は、ラリサとアニカに店の掃除と給仕を任せて、桜花は拓哉と一緒に厨房を担当している。 まだ難しいことは任せられないが、下ごしらえなどは、文句の付けようが無いほど完璧にこなしてくれるので、忙しくなってきた憩い亭に欠かせない存在になっている。 だからと言ってラリサとアニカを蔑ろにしているわけではなく、あの二人がいるからこそ調理に専念できるのだ。


「シンプルでおいしい牛丼にしようかなって思ってる。 ヤナが昨日ミノタウロスを狩ってきてくれたから、ちょうど使ってみたくて。 明日の昼間は、ヤナを誘って焼肉丼にしよう」


焼肉丼と聞いて「やったんだよぉぉ」と喜ぶ桜花。


「あるじ、牛丼作りで手伝うことあるかな!?」


そこまで難しい工程もないので、桜花にすべて任せようと思っている拓哉。


「牛丼は、桜花にすべて任せようかなって。 レシピは、これだから今から1食分作ってみて。 大丈夫そうなら店で出そう」


少しずつ桜花が作れる品を増やしていき、色々任せられたらなと思う拓哉。 最近、少し将来のことを考えることが増えた拓哉、それは、また別の機会に語ろうと思う。


桜花が言う。

「え??僕が....! 出来るかな??」


簡単な料理や下ごしらえをするようになって、料理の奥深さを知るようになり、不安さも感じるようになってきた桜花。


「失敗は成功のもと...何事も挑戦してみないことには始まらないし、失敗してもそこから学んだらいいからさ。 とりあえず作ってみろ」


そう言うと桜花は、「うん!」と言って作り始めた。 拓哉は、減ってきたカレーやビーフシチューのストックを作り始める。 

暫くして、桜花が作り終えたのかこちらにやってくる。


「出来たんだよ! あるじの好きな紅生姜もちゃんと付けたんだよ。食べてみて」


綺麗に盛り付けられており、香りも某牛丼屋というよりは、優しい感じがする。

まずは、肉と米を掬って口に運ぶ。


「ん! 桜花、完璧じゃないかぁぁ!! どちらかというと上品な味付けだけど、俺は好きだよ。 それに、ミノタウロスの肉の味が濃くて前面に押し出されて、紅生姜もあるから変に濃い味付けにしなくて正解だ。 ヤミン君に出す時は、もう少し濃い味付けにして、生卵を乗せてあげたらいいかも。 桜花、合格だ! 自分で作ったの食べてみ」


不安そうな顔から一変して、パァーっと明るい顔をする桜花。

自分自身で作った牛丼を食べていると、ラリサとアニカも匂いにつられて厨房にくる。 初めは、黙って食べていたことに怒られたが、説明をしたら作ってくれたら許すと言われて、桜花の練習にもなるしヤミンに出す予定の濃いめの味付けの牛丼を桜花が作ってあげていた。 二人ともおいしいと言っており、桜花は安堵の顔と素直にうまいと言われて恥ずかしそうにしていた。 そうしていると、18時になり営業が始まる。


開店と同時に4人の挨拶が飛び交う。

「いらっしゃいませ〜」


村の住人と常連さんが、続々と入ってくる!

マリーとヤミンも、1番後から入ってきてくる。 今日は、二人の対応を桜花にすべて任せているので拓哉は他のお客さんの料理を担当している。


「マリーさん、今日僕が二人の料理を作るんだよ。 ヤミン君もよろしくだよ。 これが、二人に食べてほしい料理。 ミノタウロスの牛丼生卵乗せスペシャルだよ!」


マリーは、桜花のネーミングセンスはどうかと思ったが、牛丼の香りが空腹のお腹を刺激して、食べたい欲求を我慢できなくなっている。


ヤミンも、初めての魔力以外の食事に、目をキラキラさせながら、すぐスプーンを手に取り口に入れる瞬間まできている。


「おいしいぃぃ〜!」


「マリマリ、ミノタウロスの味がドバ〜ってきて、濃いタレが生卵でまろやかになって、お肉の味を更に昇華しているよぉぉ。 白いつぶつぶ(米)がお肉と食べると...ふわぁぁぁぁ!マリマリ、僕毎日ここに来たい」


マリーのことは、マリマリという愛称を付けたみたいだ。 マリーもそれを許しており、ヤミンの口の周りについたタレをハンカチで拭いてあげている。 姉と弟?妹?のようだ。


「本当においしいわね。 仕方ないからヤミンのお代は私が出すわ。 それにしても、桜花ちゃん料理上手になったわね。 味付けも焼き加減も拓哉さんに全然負けてないわよ」


嬉しさのあまり思わず、一筋の涙が溢れる桜花。


「嬉しいんだよぉぉ。 マリーさん、ヤミン君ありがとうなんだよぉぉ」


ヤミンが桜花の頭をナデナデしながら笑顔を向けてくる。


「桜花の愛称つけないと...!考えておくよ。 それにしても、すんごくおいしかったぁぁ。 できたら桜花におかわり作ってほしいなぁぁ!? マリマリおかわり食べてもいいかなぁぁ??」


マリーに対しても、目を潤ませながらおかわりを頼んでいいか聞くヤミン。 あざといが、可愛いと思ってしまうマリー。


「す、好きなだけ頼みなさい。お金は出してあげるわ。 桜花ちゃんおかわり持ってきてあげて〜」


マリーは、貢ぎやすい体質なのか?ヤミンのあざとさが凄いのか? すでにヤミンの術中にハマりつつあるマリーであった。

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