第94話 吸血鬼アーノルド旧友と食事を楽しむ!!

アーノルドの書斎。

ある楽しみの為、毎日大量の書類と向き合っている。 そろそろある楽しみの場所に向かう時間だなと感じたアーノルド(吸血鬼)は、筆を置いて立ち上がろうとした時、ドアが開いた。


「邪魔するぞ! お前最近毎日どこに行ってるんだ?? 楽しいことでも見つけたなら俺も呼べよな」


急にノックもなく入ってきたのは、吸血鬼の国の王であるルシフェルである。


「急に何しに来たかと思えば、第一声がそれですかぁ...一国の王が無作法過ぎませんか? まったく...」


ルシフェルとアーノルドは、学生時代からの仲であり二人の時は友達として接しているのだ。


「俺とお前の仲だし、そんなことどうでもいいだろ? そんなことより、どこに行ってるんだよ? 貴族の中じゃ女でもできたかと噂になってるぞ」


昔から一人の時間を大事にしていたアーノルドは、貴族同士の付き合いもせず、一人でワインを楽しむような貴族であった。 だが、最近決まった時間に歩いて何処かに向かう姿が度々目撃されて噂になったのだ。

呆れてため息を吐くアーノルド。


「はぁ〜これだからバカな連中とは付き合いたくないのですよ。 私は、料理を食べに行っているだけです。 ルシフェルが思うような場所ではありませんよ。 それではお帰りください。 私は行きますので」


早く拓哉の料理を食べたいアーノルドはルシフェルを帰そうとする。

そんなアーノルドの姿を見てルシフェルは、何かあると気づき自分も行くと言い出す。


「こんな必死なお前は初めてだなぁ。俺も行きたいなぁ。 あ!王権限を発令するぞ! 命令だ! 私を連れて行け! じゃないとみんなには、女のとこに行っていると伝えようかなぁ?」


無茶苦茶なことを言い出すルシフェル。ニヤリとしながらアーノルドを見る。


「本当に昔から変わらない人ですねぇ。 私以外に王権限とか軽々しく言わないように、聞いた本人ぶっ倒れますよ。 それから、ルシフェルなら本当に言い触らしそうなので連れて行きますが、大人しくすると約束してくださいよ」


額に手を当てて、本当に面倒な人だと痛感するアーノルド。 

ルシフェルは、ニコニコとほら早く行くぞと言わんばかりの表情をしている。


「わかっているさ。 害がないなら大人しくしているぞ! いざとなれば血を吸い尽くせばいいのだから」


アーノルドは思った。 ルシフェルは、吸血鬼の中で一番強いだが、あの場所で暴れたら瞬殺されるだろうと。 


「吸い尽くすですか...まぁ行けば気が変わるでしょう。 連れて行くのですから、この辺りに転移お願いしますよ。 早く行きたいので、さっさとお願いします」


地図を出して、魔境を指差す。 ルシフェルは、そこは魔境だぞと思う。


「そこは魔境のど真ん中だろ!? そんな場所に何が「さっさと転移してくださいよ」 はぁぁ!わかったわかった」


お腹が空いたアーノルドは、ルシフェルの話を遮り転移するように言う。 ルシフェルも、普段より威圧のこもった目をするアーノルドに従って転移をする。


てっきり森のど真ん中に転移すると思っていたルシフェルは、見たことのない作りの家や畑や舗装された道が現れたことで呆気に取られる。


「おい!アーノルド...ここは魔境だよなぁぁ!?」


辺りを見渡して焦るルシフェル。


「魔境にある村ですよ。 ここの責任者は認めてないみたいですが。 それより、私は早く食事がしたいのです。 いちいち騒がないで下さい。 正直イライラしますよ」


空腹と拓哉のおいしい料理を早く食べたいアーノルドは、真っ赤なオーラを発しながらルシフェルに言う。

ルシフェルも、こんなイライラしたアーノルドを見たことがなく黙って従う。

アーノルドが向かう先を見ると、地獄の館かと思うほどの強者のオーラが漂っており、ルシフェルが「アーノルド」と声をかけるが聞く耳を持たず、ドアを開ける。


カランカラン

「「いらっしゃいませ」」


拓哉と桜花の声が響き渡る。


「トマトを沢山使った料理を2人前お願いできますか?? あとは、ワインをボトルでお願いします」


そう伝えると足早に席に座る。 ルシフェルも、それに着いていき座る。

いつもと様子が違うなと感じた拓哉は、何も聞かずに厨房に行き料理を作り始める。 


「おい! アーノルド聞いてるのか? そろそろ話してくれてもいいだろ? この場所はなんなんだ!? あり得ないだろ...」


見渡すと、精霊 妖精 魔族 ドワーフ 人間 ノーライフキング エルダーリッチ 姿を変えた強者が勢揃いしている。 争いが起きずに、ただただ食事をしている風景が異様過ぎてあり得ないと思うルシフェル。


「ふぅぅ...食べている最中に騒がれても困りますし話しましょうか。 ここは、他種族が集まる料理屋です。 争いが起きないのは、仲がいいのはありますが、それ程、美味な食事なのですよぉ」


美味と発言したアーノルドの顔は恍惚とした表情を浮かべている。

確かに周りから漂ってくる匂いに腹が鳴るルシフェル。


「わかったよ。 ここでは、俺は弱者みたいだし、何もしないさ。 それに、漂う匂いで正直食いたい欲求が抑えられないしな」


こんなうまそうな飯屋があるなら教えろよなと思うと同時に隠したくなる理由もなんとなく感じるルシフェル。


「お待たせ致しました。 ワインとトマトとアサリのスープスパです」


出されたのは、真っ赤なスープの中に貝らしき物と細長い物が入った料理であった。 見たこともない料理だがトマトと海鮮の香りが鼻腔をくすぐり自然とスプーンを手に取りスープを口に運ぶルシフェル。


(ルシフェル心の声)

なんだこれはァァァァ! トマトを潰して入れただけではないのか? ピリッとくる香辛料...黒胡椒か! それに、トマトも普通とは違い甘さが凄いぞ。 芳醇なトマトのうまさと海の幸が混ざることで、味わったことのない至高のスープになっている。 この細いのはどうだろ?? アーノルドを真似て食べてみるか。


「うまぁぁぁい! 噛めばスープの濃い味に小麦の風味が鼻を抜けて貝と一緒に食べれば口が海と化す。 凄いぞ!アーノルド! 体が食べろと言う欲求を止めようとしないぞ」


興奮しているルシフェルを見て、この料理なら仕方ないとアーノルドはフッと笑う。 それに偶には、誰かと食べるのも悪くないなと思うアーノルド。


もう一度おかわりをした後、ワインを呑み昔の学生時代の話に華を咲かせるのであった。

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