第93話 若き料理人桜花誕生?? 変わりつつある憩い亭!
18時
桜花が看板を出しに行き、いつもより笑顔で元気よく「いらっしゃいませ」と言う。
先頭に並んでいたヴァレリーから「なんかよいことでもあったのか?」と言われる。 桜花は、「えへへ、楽しみにしててよ」と答える。 ヴァレリーは、なんだろうと思いつつも、行列が出来ているので店に入る。 店に入ると出迎える拓哉からも「いらっしゃいませ」と言われて、お客さん全員が日常ながらも迎えられるとは良いものだなと思うのだった。
「みんな〜注文聞いていくよぉぉぉ。 でも今日はうどんがおすすめだよ。 よかったら注文してほしいんだよ」
最近接客時は敬語を頑張っていたが、今日は嬉しさのあまりに素の桜花が出てしまう。 でも、嫌味もなく自然な言葉に誰一人として嫌な顔をする者はいなかった。
「桜花の言う通りおすすめしますよ。 初めて桜花が出汁を取ったんですよ。 味は保障します。 おいしいですから食べたい方は注文してください。 えっと、狸じゃなかった...ガルードさんは、うどん確定ですので うどんを食べてから別の注文をしてくださいね」
それを聞いたお客さんは、「へぇ~」とか「おぉ〜」とか「桜花ちゃん料理できたんだ」とか言っている。 ヴァレリーは、嬉しそうな理由はそういうことかと納得して拓哉から出た狸発言を笑っている。 ガルードは、狸とはなんだと言う顔をする。
「じゃあワシは、桜花が作ったうどんを貰おうかのぅ。 作っとる間にビールをくれぃ」
バルトの注文を皮切りに他の人も注文しだす。
「僕も貰おうかな。 バルトと同じくビールちょうだい」
「私もうどん頂けますか?? 桜花さんのですか楽しみですね。 日本酒も下さい」
「私とビーチェもうどん頂きたいです」
「桜花が作ったなら食わないわけにもいかないだろう!? 是非もらおう」
他にも頼む人がどんどん出てくる状況になった。 全ての人に注文を聞いて、拓哉と桜花が二人で厨房に立つ。
「おかわりされると出汁が足りなくなるから、今あるのを沸かしながら新しいのを作ってくれないか? できるかな?」
いきなりこんなに頼む人がいると思っておらず、桜花は人徳があるなと思うのと、ここのお客さんは優しいなと思う拓哉。 普通新人が作ったと聞いたら躊躇するはずだが、一切ないからだ。
「うん。 任せてだよ!早速やっていくんだよ」
流石、神獣というべきか? 努力の成果なのか? 記憶力が素晴らしく慣れた手つきで作り始める。 拓哉は、うどんを茹でながらお酒を用意して提供していく。
「よし! あとの盛り付けは任せるな! 盛り付けが終わったら提供頼む。 俺は別の注文を作っていくから」
横目でチラチラ見ながらしっかり出来ているか確認する拓哉だが、綺麗に盛り付け出来ている。 拓哉は、ガルードさん用のたぬきうどんの盛り付けをして、桜花へ一緒に持っていって貰うようお願いする。
盛り付けが終わった桜花は、拓哉からOKを貰ってホールに運んで行く。
「皆さんお待たせしてごめんなさいだよぉぉ」
そう言いながら1人1人丁寧に提供していく桜花。 提供されたお客さんはお腹が空いていたのか? すぐ食べ始める。 常連さんに至っては、箸をうまいこと使ってズルズル啜って食べている。
「ほほぅ〜桜花がこれを作ったとは信じられんのぅ。 拓哉が作ったと思うくらいにうまいんじゃ。 この澄んだ雑味のない出汁に麺が絡んでよく合うのぅ。 桜花見事じゃわい」
他のみんなも手が止まることなく食べている。
「ん〜〜桜花ちゃん凄くおいしいぃぃぃ! 練習してたの見てたから努力が実ってよかったね。凄い優しい味だけどコクがあってスープまで飲み干したくなるわ」
以前までは、神獣様と呼んでいたが、畑仕事を一緒にするうちに仲良くなり桜花から名前呼びして気楽に接してほしいと言われて、今では友達のような関係になっている。
「うぅぅよがっだよぉぉぉ。 ずっと悩んで大変な思いしてたの知ってるから、私も嬉しいよぉぉぉ」
ビーチェが泣きながら桜花を抱きしめる。 桜花は、恥ずかしそうに「やめるんだよ〜」と顔を赤くしながら言う。
「素晴らしいぞ。 うまさは申し分ない! このまま努力し続けたら大陸でも名高い料理人になるだろうな」
本当においしくて褒め散らかすヴァレリー。 桜花は、普段とは違い顔を赤くして尻尾をフリフリさせて、嬉しさと恥ずかしさで喋れなくなっている。
そこに拓哉がくる。
「その辺で、うちの若き料理人をイジメるのはやめてくださいよ〜。 本人が話せなくなっているじゃないですか! 桜花は、みんなにお礼を言ってから出汁を作ってきて。 みんなが、もっと食べたそうな顔をしてるからな」
桜花の頭を撫でながら桜花に伝える。 桜花は、まだ照れているが仕事中なのを思い出して表情が戻る。
「皆さんありがとうございます。 僕の作った出汁をおいしいって言ってくれて凄く嬉しいんだよ。 今から新しいの作ってくるから待っててください」
そう言って、あまりの恥ずかしさに逃げるように厨房に行く桜花。 みんなも、それを見て可愛らしいなと微笑んでいる。 相変わらずビーチェは嬉し泣きをしてシャーリーが慰めている。
ここで、ガルードが発言する。
「ヴァレリーよ。 お主は毎日こんな複雑で味わったことのないウマいものを食っているのか??? それに、この料理をあのような少女が作ったと言うのかぁぁ!? ワシが毎日食ってる料理よりうまいぞ。 ズルい!何故早くこの店を教えてくれなかったのだァァァァ」
拓哉は、たぬきうどんで狸返しをするつもりだったが、当のガルードはヴァレリーの胸倉を掴みながら、訴えているので言い出すタイミングを完全に失ってしまった。 本人も、うまさのあまり他の人とのうどんの違いに触れようともしない。
「離せ、鬱陶しいやつめ! そうだ!もっとうまい料理を毎日食っておるわ。羨ましいだろう!? この拓哉が、見たこともない聞いたこともない絶品料理を毎日作ってくれるからなぁぁ。 お前は、今まで通りの飯でも食っとけ。今日だけ特別だ! ワハハハ」
意地悪をするヴァレリー!
ガルードは、悔しさのあまりに「ぐぬぬぬ」と言っている。
「決めたぞ。 ワシも通う。 まだ見ぬ絶品料理を食い散らかしてやるわ」
ヴァレリーとガルードは、その後も何か言い合っているが聞くのがバカらしくなり、他の人の注文を聞いて厨房に戻ろうとする。
離れたところでアレン一家が話している。
「お父様とお母様、ここはいつも賑やかで楽しいですね。 それに、凄くおいしい料理も食べられますし」
家族団欒でテーブルを囲いながら笑顔で話すカイルとそれを聞いて笑顔になるアレンとモニカ。
「そうね。 なんの柵(しがらみ)もなく、のんびり仕事ができて、毎日家族で食事をする時間を取れるんですもの。 凄い幸せだわぁぁ」
貴族時代は、アレンが忙しくこのような家族団欒の時間が、なかなか取れず今の生活がなんて幸せなのだろうかと思うモニカ。
「そうだなぁ。 二人には辛い日々を送らせてしまっていたな。 あの人達のお陰でこうしてまたお前達二人と幸せな時間を作ることができた。 本当に感謝しないとな」
以前よりも、賑やかになってきた憩い亭。 今後はどのようになっていくのか楽しみである。
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