第2章 日常の憩い亭
第36話 アロハな神様がきたよ〜! じじぃ何しにきた!?
ラリサとアニカが旅立ってから1週間が経った。 相変わらずお客さんはヴァレリーさんと師匠と偶にアドルフさんが来るくらいだ。
ヴァレリーさん曰く、ラリサとアニカは順調に成長しているようだ。 しかもエルマーナ(マドレーヌ)の効果もあり、魔王城の方々からも大歓迎されているらしい。常時ヴィクトリアさんかベアトリスさんが近くにいる現状、イジメもできないとは思うが。 まぁなんにせよ一安心だ。
18時
オープンの時間となり、看板を外に出しに行くのだが、最近はラリサとアニカの担当になっていたので、最初の3日間くらいは出し忘れたりしていた。
「ヴァレリーさんいらっしゃいませ。 今日は何にしますか?」
ヴァレリーは、お決まりの席があり、入店するとそこに陣取る。
「いつもと違う物をもらおう。 ビールとエダマメとカラアゲだな」
珍しい。いつもの日本酒じゃないのか。
「こっちはキンキンに冷えた黒ビールとソーセージを頼む」
師匠も珍しくビール。それも黒だ。
「わかりました。少々お待ちください」
厨房に向かう拓哉。
「お前もビールか。珍しいではないか」
ヴァレリーが小次郎に話しかける。ここ1週間で仲良くなった2人である。
「最近は少し暑くなってきたからな。偶にはキンキンに冷えたビールを呑みたくなる。それとな、黒ビールの香ばしい香りを味わいたくなるんだ」
そう。最近季節の変わり目になり、少し気温が上がったのである。 普段は冷酒に切り替えていた2人だが、今日は珍しくビールを注文していた。
「暑くなったと言えば、火乃国はそろそろ剣技大会が開催される季節ではないか?」
「あぁ〜そのような大会もあったな。俺は剣鬼の位をもらった辺りから参加はしていないな。 懐かしい」
昔のことを振り返る小次郎。
そんな話をしていると拓哉が戻ってきた。
「お待たせ致しました。 ヴァレリーさんはビールと枝豆と唐揚げ。師匠は黒ビールとソーセージですね。追加があれば声かけてください」
「おう」と返事をして2人はビールとおつまみを食べる。
「ぷはぁ〜偶に飲むビールはうまいな。枝豆も塩が効いててこの味がビールに合う」
「ぷはぁ〜ヴァレリーこのソーセージもうまいぞ。皮はパリッと中は肉汁が溢れ出て、そこにキンキンのビールだ。ほれ食ってみろ」
小次郎は達人であり、それを認めているヴァレリーは小次郎の言葉使いに何も言わない。 寧ろ盟友が如くの仲に成りつつある。
「おっ!では...くぅ〜お前に教えられたのが悔しいがうまい! 次は俺の番だ。このカラアゲを食ってみろ」
悔しかったのか唐揚げを薦めるヴァレリー。
「よし!試してやる...クソ。外はカリッと中は鶏の旨味が溢れてくる。やるな、ヴァレリー」
最近はこうしてお互いの好物を交換して笑い合っている。
拓哉はそれを見てまたやってるなと、ほくそ笑むのだった。
カランカラン
お客さんが入ってくる。
えっ...!っと固まる拓哉。 転生前に来るとは聞かされていたが、あまりにも突然過ぎる。 しかも何故かアロハシャツを着た神様だ。 なんでアロハやねんとツッコミを入れそうになる。
「神様...いらっしゃいませ。また急にどうして?」
「ほほほほ。神界から見ておったが、随分頑張っておるし、常連もできたみたいだからのぅ。様子を見にきたのじゃよ。あとはうまい飯を食いにきたのと制限されたスキルの解放をしにのぅ」
ちょっと待て待て! ヴァレリーさんと師匠が箸を持ったまま固まってるし、スキルの解放ってなんですか!?
「とりあえず席にお座りください。 神様が急にくるから2人が固まったままじゃないですか。 神様からちゃんと説明してくださいよ。 あと何を食べますか?」
神界だの、スキル解放だの全て聞かれて、めんどくさくなった拓哉は神様に丸投げする。
「ワシは神様じゃぞ。もっと敬わんか! ワシ以外の神なら消されとるぞぃ。 まぁ良いわ。ヴァレリーと小次郎じゃったか!?説明する所以戻ってこい」
あの〜?他にも神様いるの? 知らないんですけど〜!
そんなことはお構いなしに2人に説明し始める神様。
その前に、何故2人が神だと信じたかと言うと、2人は常人ではあり得ない域に達した達人であり、相手がどんだけ強くてもある程度の力量を測る事ができる。 だが神を見た時、瞬時に底知れぬ力を感じたからだ。ヴァレリーに至っては、初代教皇の数百万倍の神気を感じ取っていた。(現教皇に神気はありません)
2人は黙ったまま神様の話を聞く。 拓哉は冷静沈着で落ち着きを取り戻し、温くなったビールを下げて新しいビールを入れに行く。
戻ってみると、2人が頭を抱えていた。 ん?前にも見たような?あ!エルの時と同じだ。
静かにビールを2人の前に置く。 置いた瞬間、2人はビールを一気に飲み干して拓哉に迫る。
「拓哉様は使徒様でしょうか? 俺は失礼なことを言っていませんでしょうか?」
様付けで敬語になるヴァレリー。
「拓哉...早く言ってもらわないと困る。無礼を働いてからでは遅いのだから」
こっちは敬語ではないが焦る小次郎。
「2人とも落ち着いてください。確かに使命は言われましたが、使徒とは言われていませんし、正直大事にしたくないのです。 のんびりこの地で料理屋をしていたいのです。聖王国にも知られたくありませんから。 あとヴァレリーさんも師匠も普段通りに話してください」
2人には畏まってほしくないと拓哉が言う。
「すまんな。そう言ってもらえて助かるが、使命を言われた以上、拓哉は使徒という扱いになるからな。聖王国...とりあえず拓哉も理解はしているみたいだな。 このまま聖王国に知られるのはいかん。 小次郎わかっておるな」
「あぁ〜弟子を売るなどしないわ。俺たちの胸の奥にしまっておこう。 にしてもまさか、別世界から来たとはな」
ヴァレリーも小次郎も拓哉を仲間だと思っている為、できる限りのことはしようと決めた。
「黙っているつもりはなかったのですが、突拍子もない話をするのもあれですし、2人を巻き込むわけにもいきませんから」
「まぁ確かに、急に言われても信じられん話ではあるな。 安心しろ!俺たちは無用な詮索はせんし、困ったらいつでも助けてやる」
そうヴァレリーが言うと小次郎も黙って頷いた。
拓哉は2人に感謝を述べ、こんなにも思ってくれる人がいることに感動するのだった。
「感傷に浸っているとこすまぬが、酒をくれんかのぅ。 からすみにへしこと日本酒はぬる燗にしとくれ」
せっかくの感動を邪魔して、更には詳しいじじぃ...いや神様だなと思う拓哉。
「心の声が聞こえとるぞ!じじぃとはなんじゃ! せっかく生き返らしてやったと言うのに」
あ!こいつ心読むんだったと思い出す拓哉。
「生き返らしてくれたことには感謝してますよ。 じじぃはすいませんでした。でもアロハシャツで来る神様なんか初めて見たので、威厳もへったくれもないじじぃかなと。 注文は了解しました。お待ちください」
「くぅ〜減らず口を叩きおってからに! 慰安旅行帰りにわざわざ覗いてやろうというワシの優しさを無下にしよってからに。はよ持ってこんかい」
その様子をハラハラしながら見るヴァレリーと小次郎。
だが本当に怒っていたら瞬時に消されている。神様もどこか楽しんでいるのだ。 理由は普段からこのようなやり取りをしてくれる相手が少ないこと、拓哉の本心や性格を知っている為、本気で言ってはいないことがわかるからだ。
厨房から戻る拓哉。
「神様お待たせしました。 まさかこんな珍味を知っているとは思いませんでしたよ」
「ほほほほ。昔日本の神に連れられて行った先で食べたのじゃが、うまくてのぅ。ふむ...やはり、からすみに日本酒うまいのぅ。 この塩気にねっとりとした舌触りに濃厚な味、それを調和する日本酒...最高じゃわい」
そう言えば、俺の爺ちゃんも珍味好きだったな。 もし爺ちゃんが生きてたらこんな感じで通ってくれてるのかもな。
そう思っていると、心を読める神様は「ほほほほ」と笑いながらへしこを食べて日本酒を飲む。
「この独特な臭みと塩っ辛さが日本酒に合うのぅ。 あ!そうじゃった。ネットショッピングじゃが、日用品や店で使う道具なんかも買えるようにしておいたからのぅ」
なんだって〜!?本当に日用品買えるようになってる。 シャンプーや石鹸やらなくなってきて自作しようとしていたしありがたい。
あとあれ作れるな。
「神様ありがとうございます。 凄く困ってたんですよ...いや〜これで糸が買えるし焼き豚が作れますよ。 ワイバーンスープのラーメンを作りたかったんですよね」
ずっとラーメンを食べたかったが、糸を切らしており焼き豚ができなかったのだ。 普通は生活必需品を喜ぶのだが、拓哉は違っていた。
「ほほほ!そりゃよかったのじゃ」
「俺もらぁめんとやら食べたいぞ」
「俺にもらぁめんを食わせろ」
めちゃくちゃ食べたそうにする2人。
「わかりましたよ。近いうちに作りますから。今は他の食べたい物を注文してください」
3人は食べたい物やお酒を注文して、閉店まで呑むのだった。
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