第35話 ラリサとアニカ魔族領への旅立ち!

「拓哉とアニカ、気が抜けているぞ!今日はこれで終わりだ。このままなら怪我をする」


小次郎の怒声が響き渡る。


「師匠申し訳ございません。気合いを入れ直しますのでよろしくお願いします」


「小次郎さんごめんなさいなの」


「今日はお終いだ。 もうすぐ迎えが来るのだろ?3人の時間を過ごすといい」


上の空な理由を知る小次郎が提案する。


「すいません。師匠ありがとうございます。 お言葉に甘えさせてもらいます。 アニカ、風呂に入ったらラリサをリビングに呼んでくれないか?」


「わかったの」


それから風呂に入り、リビングに集まる3人。

だが、普段と違い誰も話そうとせず沈黙が続く。 このままだといけないと思い拓哉が話を切り出す。


「ラリサとアニカ、俺は結婚もしたことがなく、ましてや娘を持ったこともなかった。最初は同情心もあり、2人を受け入れたのかもしれない。でも毎日2人と過ごす中で、どんどんかけがえのない存在に変わっていったんだ。 今や、何が起ころうと2人を守ろうと思えるくらいに、これが親心なのかも知れないと最近気づいたよ。 正直離れたく無い気持ちでいっぱいだ! だけども親として子の成長を願わないといけないと思っている。うまく言えなくてごめんな。 ただこれだけは伝えたい。ラリサとアニカが戻る場所はここにあるから。離れていても家族だからな。何かあれば帰ってこい」


この時は何故かスキル冷静沈着が発動していなかった。 神様が気を効かしてくれたのかはわからない。 


拓哉は混乱しながらも涙ながらに2人に思いを告げた。


ラリサもアニカも初めてみる拓哉の泣いた姿に思わず涙が出る。


「うぅぅぅ...お父さん、寂しい...離れだくないよ〜」


「うわぁぁぁんパパ〜パパ〜怖いの。ずっといっじょがいい...」


2人は泣きながら思いを伝える。アニカに至っては珍しく大泣きしていた。


思わず抱きしめながら話をする拓哉。


「よしよし俺も離れたくないよ。こんなかわいい2人を送り出すとか不安しかないからな。まだ将来のことはわからないけど、もしここで3人一緒に暮らすならアニカが強くなって魔物を狩る。怪我をしたらラリサが治す。 そんなことが平然とできたら今以上に暮らしやすくなると思わないか? アニカの狩った魔物は絶対おいしいぞ。 毒があるけどおいしい魔物にはラリサが浄化をかけたらおいしく食べれちゃうぞ。 食べてばっかりだけどそういう今はない楽しみが増える。キツイだろうけど俺はここでずっと待ってるから頑張ってきてほしいな?」


今語ったことも本当ではあるが、本心は2人の将来を考えてだ。 どこに行っても生きていけるような力をつけてほしいと拓哉は願っている。 だが敢えてそれを言っても2人は納得しないだろうと、将来ここで暮らす時の話を混ぜながら話したのだ。


「グスン...ごめんなさい。私頑張って少しでも役に立てるようになって帰ってきます」


本当はそうじゃないんだけどな〜と拓哉は思いながらも、せっかく決意したラリサに口を挟むようなことはしない。


「グスン、ジュルル。 アニカもパパみたいに魔物を倒せるようになって、いっぱいおいしいものを食べるの」


アニカはまず鼻をかもうな。鼻水だらけだぞ。


ラリサの涙を拭いてから、アニカの鼻をチーンしてあげる拓哉。


「せっかくの門出だし、縁起のいい料理でも作ろうかな。 その名も何事にも負けない勝つという意味を込めてカツ丼だ」


ありきたりなダジャレっぽくなってしまったが、まぁいいだろう。 


「やった〜久々のカツですね。はぁぁ〜あの肉汁思い出しただけでジュルリ」


「やったの〜カツカツカツ。お姉ちゃんから聞いて食べてみたかったの」


ラリサはヨダレを拭きなさい。 あ!そういえば、アニカはまだ食べたことなかったな。


「早速作ってくるから2人は荷物の最終チェックをしておきなさい」


「は〜い」と返事をして二階に上がっていく2人。


オークの肉が腐る程あるからな。貴重なヒレを使うか。


オークヒレを切って叩いていく。 いい具合に柔らかくなったとこでパン粉を付けて揚げていく。パチパチキツネ色に揚がっていきいい匂いがしてくる。

玉ねぎの入った出汁に卵を流し込み半熟になるまで熱する。

炊き上がりの米をどんぶりによそい、半熟卵の出汁を上からかけて、サクサクカツを乗せて、上に三つ葉を乗せて完成。


リビングに持って行くと既にスタンバっている2人がいた。


「お待たせ!サクサクカツのカツ丼だよ」


待ってましたと言わんばかりに歓声が上がる。


「「「いただきまーす」」」


パクッもぐもぐもぐもぐ


「おいしい〜脂身が少ないのに凄く柔らかくて濃厚な味がします。 カツはサクサクで卵はトロトロでご飯に凄く合います」


この食レポを当分聞けないと思うと寂しくなる拓哉。


「カツ丼おいしいの。 こんな美味しいオークを食べたことないの。 いつもパサパサしてて不味かったの...肉汁が凄くて甘〜い。タレも甘くて卵もふわとろで幸せなの〜」


はぁ〜こっちのかわいい食レポもなくなるのか...寂しい。


「うまいな。 2人のおいしそうな顔見てると更にうまさが増すよ」


あ!あとで師匠にもお裾分けしなきゃな。多分、除け者にしたら闇討ちされそうだ。


その後、ワイワイしながら食事をして時間を見るとそろそろ迎えがくる頃となっていた。

そう思っていると外からヴァレリーの声がした。


「拓哉、迎えにきたぞ。準備はいいか?」


「わざわざお迎えありがとうございます。準備は整っていますのでよろしくお願いします」


「お別れの挨拶はしなくていいのか?」


気を使って言ってくれるヴァレリー。


「先程終わらせましたので大丈夫ですよ。ラリサとアニカ元気でな。成長を楽しみにしておくよ。 それから昨日のレシピな」


「お父さん、ありがとうございました。自慢できるくらいに成長して帰ってきます。 レシピもありがとうございます。アニカと試行錯誤してもっとおいしくしてみせますね」


「パパ〜アニカも強くなってくるの!帰ってきたら一緒に魔物狩りに行きたい」


「2人には期待してるよ。ラリサ、俺に自慢してくれ、自慢の娘になってこい!アニカ、帰ってきたらいっぱい魔物を狩ってうまい料理作ろう。 2人ともいってらっしゃい」


「「はい!いってきます」」


2人は元気のいい挨拶をする。 ヴァレリーさんに「任せました」と伝えると頷き、転移をしてその場から消えた。

後ろから話しかけてくる小次郎。


「2人は行ったのか。寂しくなるが2人の成長を期待して待とう。 寂しくなったら酌くらいは付き合ってやる」


照れ臭そうに声をかける小次郎。


「ありがとうございます」


朝とは打って変わり迷いがなくなった拓哉は力強く返事をする。

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