第21話 小さなお客様はお菓子が大好き!!

いつものように、開店前から並んでいたヴァレリーは、日本酒とキマイラのたたきを頼んで晩酌している。ヴァレリーは、初めてラリサとアニカとも挨拶を交わした。 ヴァレリーは、今後週2回開店前に来てくれて、ラリサへ特別に魔法の訓練をつけてくれるそうだ。だが、ヴァレリーは聖魔法が使えないらしく別を当たってくれと言われた。しかし、魔力操作や魔力構築など基礎を習えてもらえるようにお願いをした。しっかりと料理という対価は取られたが、ラリサの為だし安い物だ。(週2回無料でナポリタンを提供する)


そういうことがあり、今の時刻は夜の8時である。暇だし減ってきた食材の仕込みをしようと考えていたらドアが開いた。


カランカラン


「わぁ〜明るいねミル」


「そうだね〜明るいねニル」


入ってきたのは、異世界物でよく見る羽根の生えた赤髪と緑髪の小さな妖精さんだった。どうやってその体でドアを開けたのか気になるけど、気にしたら負けな様な気がした。


「いらっしゃいませ」


「いらっしゃいませ!かわいいですね」


「かわいい!妖精さんなの!」


3人でお出迎えする。


「うわぁ!!!ミル〜人間と獣人と魔族がいるよ〜逃げないと捕まえられる〜」


妖精は過去に愛玩具として攫われることが多く、この魔境の奥に逃げ込み暮らしてる。何故魔物に殺されないかは、妖精族の透明になれる能力があるからである。


「ニル怖いよ〜」


怯えて逃げ出そうとする妖精。


「ニルさんミルさん待ってください。ここは誰でも来ていい料理屋です。捕まえませんし、是非料理を食べていってください」


いきなり大きな人間が目の前に現れたら、怯えて当然だよなと思いながら呼び止める。


「へっ!?僕たちを捕まえない?人間はみんな凶悪だって大人たちから聞いたよ。本当に捕まえない!?」


妖精と精霊は、悪意に敏感であり、拓哉が嘘をついていないことはわかるのだが、妖精族の大人に教えてもらったことが頭から離れず疑ってしまうニル。ちなみに妖精族と精霊族には生殖という性別はないが、気持ちの面の男女は存在する。


「捕まえないですよ。ほら人間と獣人が一緒にお店をしているのが証拠です。この2人も奴隷とかではなく、娘として一緒に暮らしてお店を手伝ってもらってます。だから怖がらず、何か食べて行ってください」


「私はラリサって言います。お父さんとは本当に家族で奴隷なんかにされてません。信じてください」


「アニカって言うの。パパは、優しいし強いし料理もうまいの。だから信じてほしいの」


3人が言う。


「ミル~よく見たらこの人達に悪意は無さそうだし、大丈夫だと思うから信じてみよ。それに、あんだけ強力な魔力を秘めた魔族がいるんだよ。普通の人間なら死んでるって。どうやっても僕らは逃げることできないよ」


普通は魔王の逆鱗に触れた人間は、一瞬で消されてしまう。何故か生き残っている拓哉のことを、最強の人間種だと考えたみたいだ。本当は、魔王が拓哉の料理を気に入って争いになっていないだけである。


「ニル~悪意がないのはわかるけど、初めての人間怖いよ〜」


「ミル大丈夫!もし何かあればあれを使えばいいんだから」


あれとは妖精族と精霊族だけが持つと言われている帰還石のことで、帰還石とは戻りたい場所を念じることで転移できる石である。


「そうだったね。ニル~これで安心だね」


「待たせてごめんね。僕がニル。こっちの緑の髪の子がミル。よろしくね」


待たせたお詫びを言ってから自己紹介をするニル。怖くてニルの後ろから顔だけ出して様子を伺うミル。


「よろしくお願いします。私は拓哉と言います。さっきも挨拶したけど、こっちがラリサでこっちがアニカです。こちらの席に来てください。アニカに大事なお仕事をしてもらうよ。妖精さん達にメニュー見せて、見終わったらページをめくってあげて」


ドアを開けてこれるくらいだから、ページもすぐめくれるだろうけど、アニカにも仕事させてあげたいし、小さな子なら妖精さん達も警戒しないだろうと思い言う。


「うん。アニカに任せてなの。ニルとミル、どれがいいか選ぼう」


アニカは接客というより、お姉ちゃんみたいだなと思う拓哉だった。しかし相手も気にしていないし、今後接客を使い分けれるように教えていけばいいと考えた。


「「うん」」


ニルとミルが答える。


注文を待つ間、拓哉はどのくらい食べるのか?味付けはいつもの感じでいいのか?など考えていた。


「パパ~決まったよ。果実たっぷりのフルーツタルトだって」


仕事やりきったよというような笑顔をするアニカ。


「了解。ニルさんとミルさん、今まで妖精の方に料理を出したことがなく量や味が私たちと同じでいいのかわかりません。同じ物を出しますが、無理なら変えますからすぐ言ってくださいね」


「うん。果実の甘い味...ん~甘ければなんでもいい~」


代表してニルが答える。


「はい。多分ご期待に応えれますので、少しお待ちください」


厨房に行きネットショッピングで注文する拓哉。作らんのか〜いとツッコまれそうだけど、デザートは俺が作るより、某有名店の方がうまいから仕方ない


「お待たせ致しました。果実たっぷりフルーツタルトです。食べやすいサイズに切り分けますか?」


小さい妖精には、あまりにも大きかったので聞いてみる。


「うわぁ~!綺麗!ミルおいしそうだね。拓哉大丈夫。風魔法を使えば簡単に切れるから」


ニルがそういうと器用に風魔法を使い、少し大きめに切り分けていく。思わず拓哉は感心して、ほぉ〜っと息を漏らす。


「ニル~本当においしそう。切り分けてくれてありがとう。鑑定したら毒もないって。早速食べよ」


まだ信用しきれていないミルは、思わず鑑定をした発言する。それを見ていた拓哉は、仕方ないかとは思ったが、思わず苦笑いを浮かべてしまった。


「うん!食べよっか」


口に含んだ妖精2人は、5秒くらい固まる。


「「おいしい~~~」」


「ミンカの実(みかん)かな!?いつもより甘いし、こっちはベリーかな!?これもいつもより甘酸っぱい。なんでかな?なんでかな?こんなにおいしい果実食べたことない」


ニルが大はしゃぎしながら飛び回る。


「本当だね。ニル他にも見たことない果実がいっぱいだよ。赤いの(イチゴ)も噛んだらジュワッてあま〜い汁が出てくるし、少しシャクッてなる食感も楽しいよ。あとね。下にあるサクサクしたパン!?(生地)もおもしろい」


あまりのおいしさに、警戒していたのが嘘の様にはしゃぐミル。 

本当だね。おいしいねとか言いながら食べている妖精2人。


「お気に召したみたいでよかったですよ。他にも果実を使ったデザートや果実が入ってなくても甘いデザートありますので、次来た時に、それも食べてみてくださいね」


妖精はかわいいし、いっぱいの妖精達が、はしゃぐ光景を見たいと思い、おすすめしてみる。


「えっ?他にもあるの!?食べたいけど...

ゲプッお腹いっぱいなっちゃったよ〜。あ!拓哉ふるーつたるとをお土産に持って帰れないかな?妖精女王様と精霊女王様に食べさせてあげたいから」


はしゃぐ姿は見たいし、願ってもないけど、いきなり女王様に食べてもらうのはハードル高くないかと思う拓哉。


「お土産はいけますが、女王様に得体の知れない物を食べてもらえますかね?」


「大丈夫だよ。加護があるから妖精同士は、なぜかわかっちゃうんだ。だから拓哉は、気にせずババーンと用意しちゃってよ」


妖精も精霊も女王様が加護を与えて、種族同士の繋がりを持つ。それにより、感情が共有されるという効果がある。

それを知らない拓哉は驚くのだった。


「わかりました。お包みしますのでお待ちください」


厨房に向かう拓哉。 アニカはミルに話しかけたりしているのだが、ラリサの姿がなく、どこにいるのか厨房に向かいながら探すと、ヴァレリーさんと仲良く話す姿が見えて安心した。 多分魔法講義でもしてもらっているのだろう。


厨房に戻り、ホールで4つ注文する。多分だがかなりの妖精と精霊がいるだろうとの予想する。加護の話は聞いたが、得体が知れない食べ物だから食べて貰えるか、まだ半信半疑で抑えめの4つにした。


「お待たせしました。人数が多いかもと思い、大きいの4つ用意しました。あと全部のお代を合わせると少々お高くなりますが、大丈夫ですかね?」


あっ!?って顔をするニル!


「そうだった。お店では、お金ってものを払わないといけないんだった...どうしよう!?」


普段、妖精は通貨でのやり取りはなく、森の恵みを皆で共有している為、すっかり忘れていた。


「ニル~私と作った幸運の腕輪を対価にしたら?人間にはかなり価値があるって聞いたし、私とニルはまだ若いから、幸運の加護も小だからちょうどいいと思う」


「あ!確かにそれいいかも。拓哉、これと交換してくれない?」


差し出されたのは、青い宝石がてっぺんについたシンプルな腕輪だった。価値がわからないので、思わず鑑定をする拓哉。


鑑定!!


名前:幸運の腕輪(小)


効果:身につけた人物に幸運が訪れる。

(幸運は人それぞれの為、断言できない)


価値説明:妖精にしか作れない希少なアイテム。

腕輪にかけられた加護は小であるが、希少価値が高く、最低金貨300枚で取引される。


おいおいおい~金貨300枚って!このまま騙して受け取ったら俺は某詐欺師になっちまう。


「ニルさん、これかなりの希少価値らしくて、お店で食べる分なら何千回と食えそうな価値があるんだわ。だから別のものを対価にするか、今後来てくれた妖精さん達は対価分ずっと無料で提供できるけどどうする?」


「こんなので、ずっと食べれるの?それなら対価分無料がいい!みんなにも声かけとくね」


妖精からすると加護(小)の腕輪など、いくらでも作れるので驚く。


「そうしましょうか。でもいきなり大量の妖精がきても困るから、10名くらいを分けてくるように女王様に伝えてくださいね」


1万とかの妖精が来られても困るし、正直怖いので断る拓哉。


「うん。そこは任せてよ。じゃあ僕たち帰るね。ミル行くよ~」


腰に付けていた小さい袋にタルトを収納して帰っていく妖精達。


「ありがとうございました」


はぁぁ色々あって疲れたな~。でも妖精見れたし、幸運な腕輪も手に入ったし、本当に異世界に来たんだと改めて実感する拓哉。

交換した腕輪をつけて、アニカとラリサの賄いを作る拓哉だった。

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