第13話 魔王ヴァレリ300年前の思い出の料理
「名前長いのでヴァレリーさんでいいですか?そこに立っていても、料理提供できませんし、席にお座りください」
魔王だからといって他のお客様と区別はしない強気な拓哉。
「うむ特別に許そう。普段なら我にヴァレリーさんなどと申したら、消し炭にしてやるがの」
怖いことをさらっと言う。
魔王は拓哉の実力を薄々感じており、敵対はしないでおこうと考えた。
「特別にありがとうございます。消し炭は嫌なので早速ですが、メニューから選んでください」
軽く受け流す拓哉。
「おい!店主!ナポリタンは作れるのか?」
「ナポリタン作れますよ。それにしてもよくナポリタンを知っていますね」
こっちにもナポリタンがあるのかなと考える拓哉。
「では、ナポリタンを頂こうかの。うむ我がまだ子供の頃に父上に連れられ行った店で食ったのだ。次に訪れた時は、店主が亡くなっておっての〜。もうかれこれ300年前の話だがな」
300年前の記憶を遡り話し出すヴァレリー。
「そうだったのですね。亡くなっているのならお会いできませんね。残念です。ナポリタン作ってきますのでお待ちください」
厨房に作りに行く拓哉。
「やはり似ておるのぅ。300年前行ったあの店も、こんなテーブルとイスだったのだ。あのじいさんと店主は、なんらかの繋がりがあるやもしれん。懐かしいのぅ」
目を閉じ300年前の父との思い出を噛み締めるヴァレリー。
「お待たせ致しました。ナポリタンです。熱いのでお気をつけください。」
目の前には懐かしいナポリタンが姿を現す。
「お〜これだこれだ。見た目も匂いも、あの時のナポリタンそっくりだのぅ。早速頂こうぞ」
パクッモグモグモグ。
目を瞑り頷きながら食すヴァレリー。
「懐かしいのぅ。味は一見子供が好みそうな甘さだが、オニン(玉ねぎ)の味に、腸詰の肉の味にパプリン(ピーマン)の苦味をトマトのソースが良き調和を生み出しておる。それに前食べたのよりも濃厚な気がするのぅ」
思い出しながら一口一口食べる。
「濃厚な原因はバター...牛の乳を固めた物の影響でしょう。私は味に深みというか、より食べた感を出す為に入れますね」
「バター!?聞いたことないのぅ。だが店主の言うように、満足感が得られるのだ」
納得するヴァレリー。
「もしよければ、このタバスコを少しかけてみてください。味が変わって楽しいですよ。辛いのでちょっとだけ振って出してください」
タバスコと書かれたビンを受け取るヴァレリー。
「ふむ試してみるかのぅ」
パクッモグモグ
目を見開くヴァレリー。
「これはいいのぅ。辛さがよく合う。もっと食べたいと体が要求してきよる。店主よ、我の昔の思い出を再現し、バターとタバスコなる物で、更にナポリタンを昇華させる腕前と知識あっぱれだ」
ヴァレリーが拓哉を褒める。
「ヴァレリーさんありがとうございます。あとですね〜ナポリタンは腸詰以外にも、ベーコンという燻製肉を入れたりするとまた違った感じになりますよ」
違うナポリタンも紹介する拓哉。
「なに〜!?まことか?今すぐ作るのだ」
慌てるように欲するヴァレリー。
「わかりました。お作りしますね。少々お待ちください」
可愛らしい魔王だなと思いながら厨房に向かう拓哉。
残りのナポリタンを食した時に、拓哉がちょうど新しいナポリタンを持ってくる。
「お待たせしました。厚切りベーコンのナポリタンです。食べ進めて味変したくなったら、タバスコをかけてください」
そこには、分厚い肉が入っていた。燻製と言われ干し肉かと思っていたヴァレリーは驚く。
「これはまた食欲を誘う見た目と匂いだのぅ」
パクッモグモグ
「うまい!ベーコンと言ったか?ちょうどいい塩気に、この分厚い肉の風味がいい。腸詰とは違う満足感を与えてくれよる。次頼む時に迷うではないか」
嬉しそうに言うヴァレリー。
「その日の気分で頼んでみてください。でもうちの店はナポリタンだけではなく、他にもおいしい料理や酒もあるので、ナポリタン以外も頼んでくれると嬉しいですね」
ここぞとばかりに宣伝する拓哉。
「ほぉ〜では毎日通うとするかのぅ。そろそろ帰るとするか。お代はいくらなのだ?」
本来なかなか魔王城から抜け出せないが、元々は魔境で感知した巨大な力のぶつかり合いを調査しに来ていた為、それを調査名目として通おうと考えたヴァレリーである。
「初の常連様は大歓迎ですよ。これからもよろしくお願いします。お代は銀貨1枚と銅貨6枚です」
「では銀貨1枚と銅貨6枚。また明日も来るからのぅ」
笑顔で帰って行く魔王。
「拓哉よく平気で接客できるな。俺少しチビったぞ」
恐怖のあまり小さくなって、晩酌していたエルドレッドが言う。
「確かに凄い重圧はあったが、お客さんだしな。みんな平等だ。にしてもチビったってきたね〜やつだな。早くクリーンしろ」
「もうクリーンしたわ。 拓哉は大物だよ」
たわいも無い話をして夜がふけるのであった。
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