番外編1話完結「異世界のんびり料理屋経営」300年前の逸話
ワシは茂三80歳の料理人じゃ!
ここに飛ばされたのは、もう40年も前のことじゃったな。ワシがまだ40歳の時じゃ。朝の仕込みをしとったら、急に目の前が明るくなって、ビックリして外へ出てみりゃ見慣れない光景じゃった。畑や田んぼや木造家屋ばかりだったの〜。 刀差しとる武士みたいなもんもおったりして最初は過去に飛ばされたおもたわ!月日が経ち急に犬耳やら猫耳やらとんがった耳やら、息子から教えてもろた異世界なんちゃらいう小説に出てくるようなやつらがワシの料理を食いにくるようになった。そん時に異世界転生ちゅうやつじゃと気づいたんだじゃ。 それにしても長いようで短い人生だったの。そろそろ迎えがくるかの。異世界の友よさらばじゃ。
いつもと同じ朝を迎えた茂三。
歯を磨いて顔を洗って汚く年期の入った戦場服(仕事着)に着替える。茂三は朝から仕込みをする。 年のせいか昔のように素早くは動けないが腰も曲がらずシャキッとしている。
準備中にも関わらずいつものようにやつはやってくる。
ガシャンガシャン(引き戸を叩く音)
「じいさん腹減った。なんか食わせてくれ」
毎日準備中にも関わらずお構いなしにくる魔族の男。
「うっさいの〜。まだ準備中じゃ。毎日毎日開店してからこいと言っとるじゃろうが、このドアホが」
怒鳴る茂三。
「わりぃわりぃ。いつも通り朝まで仕事で腹減っちまって!じいさんも怒鳴ると血管切れて死んじまうぞ」
「この戯けが。ワシはまだ元気じゃわい。いつものでええなら出したるから席につけ」
なんだかんだ優しい茂三。
「えへへじいさんの飯食わなやってられんのよ」
茂三はミノタウルスの肉を捌いて焼いていく。それを焼肉のタレ風味のタレ(5年かけて作ったタレ)につけて白米の上に乗せていく。
「ミノタウルスの焼肉丼と味噌汁と漬物じゃ」
魔族は慣れた手つきで箸を使い味噌汁を飲む。
「カァ〜これよこれ!じいさんの味噌汁は他のとこと味がちげぇんだよ!仕事終わりに染みるぜ」
「アホか!こちとら65年料理人しとるんじゃ!そこらの料理屋には負けんわい」
そう言いながらも、孫ほどの年齢の魔族の青年に言われ満更でもない茂三。
「次は焼肉だな」
パクもぐもぐ
「うめぇ〜。毎日食ってるのに飽きね〜。にしても、じいさんこれいつもよりいい部位だろ?」
「おっ気づきおったか。金貨3枚(3万)くらいする部位じゃ。特別にいつもの値段でええ」
何故か茂三は、近々終わりを迎えるのではと起きた時から感じており、孫のようにかわいい魔族にイイものを食わしたくなった。
「本当にいいのかよ!?こんな高い肉食ったことねぇぞ」
嬉しそうに噛みしめながら食べ物青年。
「今のうちに食っとけ。おかわり欲しけりゃ言えば作ってやるわい」
嬉しそうだがどこか悲しげに答える茂三。
「うひょ〜。やったぜ。おっと、あいつもきたみたいだ」
魔族の気配察知能力は鋭くよくわかる。
「いつも気づくのが早いのぅ。あやつの好物の準備し出すかの」
準備しだしてから10分後。
ガラガラ
「茂三できとるかー?」
いつも先もって準備されている為、この一声から入ってくるドワーフ。
「おまえさんもまだ開店前じゃ。ほんとにここの住人は時間を守らんと来よってからに!できとるから席につけい」
「ワシもみんなもここの料理が好きなんじゃ。酒もだがな」
ドワーフが言う。
「熱燗とカレイの煮付けとへしこだ」
「カカカ、これじゃこれじゃ。まずは熱燗をキュッと一杯」
豪快におちょこを一口で飲む。
「うむ!?茂三この酒どこで手に入れたのじゃ?」
いつもとの違いに気づくドワーフ。
「これは秘蔵の酒じゃわい。よく気づいたの〜流石アドルじゃな」
近々終わりを迎える予感を感じて、唯一転移してからのスキルアイテムボックスに、日本で仕入れていたお酒を入れておりそれを出した茂三。
「ドワーフのワシがこれに気づかんようなら死んだも同然じゃてぇ。死ぬ前にこんなうまい酒が呑めて感動じゃ。魚もうまい!今日の熱燗に合うの〜」
笑顔になり酒を呑むアドル。
そこに、魔族の青年が話しかける。
「アドルのじいさん俺に魔剣を打ってくれないか?」
ここ、2年毎日繰り返される会話だ。
「バカもんが何度言えばわかるんじゃ。お前さんにはまだ早いわい。暴走して闇堕ちするんが目に見えとる」
いつもと同じやりとりを繰り返す2人を眺める茂三。そうこうしていると次の客がくる。
ガラガラ
「ごめんなさい。ご飯食べれるかしら?」
普段この時間にはこないエルフの美女。
「こんな時間に珍しいの〜良いぞ。席について待っとれ」
美女には優しい茂三。男は何年経っても男である。
「じいさん俺との対応と違うじゃね〜か?まだ準備中だろ?」「そうじゃそうじゃワシらを邪険に扱いよってからに」
魔族とドワーフが茂三に文句を言う。
「美しいおなごと男どもとでは対応を変えるのは当たり前じゃ。黙っとれ!サリアさんいつものでええかの〜?」
ガミガミ文句を言う男どもを無視してエルフのサリアに質問する。
「準備中にごめんなさい。はい。いつものでお願いします」
申し訳なさそうに答えるサリア。
「サリアさん、そんな申し訳なさそうにせんでええ。美味そうに食べてくれる美人さんを見るのも生き甲斐じゃからの」
差別だとかスケベジジイとか言う声も聞こえたが無視して料理をする茂三。
「お待たせじゃ。ラザニアじゃ。紅茶はあとで持ってくるのぅ」
「ふわぁ〜いい匂い!早速頂くわ」
フゥーフゥーパク
「やっぱりおいしいですね。2週間かけてきた甲斐がありましたよ。もっと近くにあれば毎日くるのに。でも茂三さんお元気そうでよかったです。何故か精霊達が騒ぎ出して早く早くと急かすものですからこんな時間に」
早くきた理由を説明するサリア。
「ははは、ワシは元気じゃよ。ゆっくり味わって食べとくれ」
長年いるせいか、こちらのことも詳しい茂三は、精霊が騒ぎだしたと言う一言に自分の感が正しいと理解する。(精霊は魔力や精に対しても敏感である)
「本当においしいです。いつか食べれなくなると思うと悲しくなります」
エルフと人間の寿命を考えるサリア。
「サリアさん紅茶持ってきたぞい。人間いつか死ぬからそれは仕方ないのぅ。サリアさんには帰りにレシピと材料を書いた紙を渡してやるから自分で研磨して完成させればよい」
最後を悟った茂三は、料理人の命でもあるレシピを渡そうとする。
「えぇ〜!?レシピよ? そんな簡単に渡すものじゃないわ。本当にいいの?」
思わずびっくりして普段の言葉使いになるサリア。
「ガハハ。そんな言葉使いのサリアさんは初めてじゃな。孫と話しとるみたいでええのぅ。気にせんでいい。ワシの料理は1つじゃないからの。ラザニアは、サリアさんが好きにすればええ」
「茂三おじいちゃん。ありがとう。嬉しいわ。絶対同じ味に近づくように努力します」
孫という一言に何故か乗っかるのが正解だと思うサリア。
「ええの〜ええの〜。もう死んでもええわい」
こっちに来る前に別れた娘を思い出しながら答える茂三。
「ちょっと茂三さんまだ死んじゃだめですからね」
サリアは真剣に言う。
「ガハハ。わかっとるわい」
サリアはこの言葉が、最後になろうとはこの時思わなかった。後日亡くなったことを聞いてあの時何かできたのではと後悔し泣きじゃくるが、茂三さんに言われた、レシピは好きにするがええと言う言葉を思い出し、日夜試行錯誤しエルフの国で有名なラザニア店をオープンするのは何年後かの話である。
そんな感じで3人のお客さんの相手をしていたら、普段この時間にこないようなお客さんや遠方のお客さんが続々ときて店は満員になる。
普段ではありえない大忙しで料理を作り提供して入れ替わり立ち替わりするお客さんを捌いていく。
やっと落ち着いたのは、閉店まであと2時間となった時である。
店内は落ち着いたが外が騒がしい。何かと思い引き戸をあけるとそこには3カ国の王様に護衛の人が大勢いた。
「各国の王たる者が揃いも揃ってなにしとるじゃ!騒がしいじゃろうが」
王に対しても怯むことがない茂三。王たちも容認し護衛も毎回の言葉使いに誰も何も言わない。
「いや〜悪いな。まさか俺たちも一同に会するとは思ってなくてな。さっき話し合ってたら茂三に何かあったのではと虫の知らせが聞こえたらしくてな。こうしてみんなが集まったのだ。でも元気そうでなによりだ」
王国のアルバーノ陛下が答える。
「そうか...おまえさん達がきてくれるのは嬉しいんじゃが。今日は大忙しでの〜。食材があまり残っておらんのじゃ。う〜む?冷えてきたし、あるだけの食材で鍋にでもするかの。すまんが許してくれい」
「俺は鍋でいいぞ」 「ワシも構わん」 「僕も大丈夫ですよ」
それぞれの王が答える。
「先に酒とつまみを用意するから席に座っとれ」
熱燗とぬる燗と冷やと冷奴と漬物を用意する。
「酒とつまみを置いとくぞい。好きに呑み始めてくれ」
そのまま奥に引っ込み鍋の準備をする。
全てアイテムボックスに保管していた日本からの食材を使い、もつ鍋 よせ鍋 すき焼きを用意する。
「待たせたのぅ。もつ鍋 よせ鍋 すき焼きじゃ。よせ鍋は、このぽん酢につけて食べろ!すき焼きは生卵を溶いてつけて食べるんじゃ。卵は新鮮じゃからあたりゃせん」
「「「なんだこりゃ!見たことない(です)(わい)」」」
3人が同じリアクションをする。
「わざわざ来てくれたんじゃ。特別な料理を作ったわい。言うとくがこの食材はもう2度と手に入らんから今回限りじゃ」
茂三が言う。
「俺はすき焼きだな。生卵とか怖くてみんな手が出ないだろう。俺がまず食ってやる」
本当はすき焼きの匂いに我慢できないアルバーノ陛下
「ではワシはよせ鍋にしようかの。ぽん酢ちゅうもんが気になるでのぅ」
皇帝アルノルドが言う。アルノルドもよせ鍋の匂いに我慢できないだけである。
「僕はこのもつ鍋にしますね。見たことないクニクニした肉?が気になりますね」
共和国のカミッロ陛下が言う。カミッロも匂いに我慢できないだけである。
パクもぐもぐもぐ
「「「うまい!!」」」
3人が一斉に叫ぶ。あまりの大声に外で待機している護衛が思わず中を覗きにきた。
なんだよこのうまい料理は、肉もやわらけぇししっかりした甘辛な濃い味がついていて、この生卵で調和されちょうどいい味になる。他の具材もうまいな〜。
心の中で叫ぶアルバーノ陛下
ワシは年々脂っこいものが苦手になってきとったからこのよせ鍋はちょうどええ。スープの染みた野菜や肉をこのさっぱりするぽん酢につけて食うことで味が昇華されとるのぅ。
心の中で言う皇帝アルノルド
これはおいしいですね。スープがさっぱりした味にも関わらず、このクニクニした肉はちょうどいい脂と噛む度に味が染み出してきますね。野菜もこの肉の味が染み込んでおいしいです。
心の中で言う共和国のカミッロ陛下
「この料理をもっと早く出さんかい。ワシは老い先短いんだぞい。このすき焼きはちと濃いが卵につけるとうまいのぅ」
皇帝アルノルドが言う。
「ほんとだ。俺たちに何故こんなうまいもんを隠してたんだ。このモツもうまいな。止まらんぞ」
アルバーノ陛下が言う。
「茂三さん僕も早く食べたかったですよ。こんな美味しいもの人生で初めてです。よせ鍋もさっぱりしてて美味しいですね」
カミッロ陛下が言う。
「ワシも隠したくて隠していたわけではないわい!どこ探しても必要な食材が手に入らなかったんじゃ。これが最後じゃ。どこで入手したかは言わんからのぅ」
流石に異世界からきたことは隠す茂三。
「連れないのぅ。ワシらとおぬしの仲じゃ教えてくれてもええんじゃよ」
皇帝アルノルドが言う。
「「そう(です)そう(です)」」
アルバーノ陛下とカミッロ陛下が乗る。
「すまぬの。こればかりは墓まで持ってくと決めたんじゃ。この飯はおまえらしか食べたことないんじゃ。それで勘弁せぇ」
「仕方ねぇか。こうなった、じいさんは意地でも話さねぇからな」 「仕方ないのぅ」 「仕方ないですね」
それぞれが言う。
その後は、それぞれがバクバク交互に食って酒を酌み交わし閉店時間になりお開きとなった。
「またくら〜」 「またくるぞい」 「またきますね」
それぞれが挨拶する。
「最後に楽しい時間を過ごせたわい。ありがとうのぅ。ワシがいなくなっても元気でおるんじゃぞ」
3人は普段絶対言われない返事が返ってきて思わず振り向き締められた引き戸を叩くが茂三が開けることはなかった。
食材がなくなったので定期で、きてくれる明日の朝の配達待ちである為、簡単な仕込みもできない。 あとは、風呂入って寝る準備をする。
長いようで短い人生だったの。そろそろ迎えがくるかの。異世界の友よさらばじゃ!
布団の中で満足そうな笑顔で眠りについた茂三であった。
後日、それぞれのお客さんが発した言葉や思いはエルフのサリアしか書いていませんので、皆さんで妄想してみてください。
見て頂きありがとうございました。完
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