第11話 不確定な幸せ

例の日を境に、五十嵐…………琴美さんの態度は急激に変化した。毎日朝迎えにきたり、弁当を作ってきてくれたりと距離感がまるで恋人そのものだった。


ちなみに琴美さんの心を読む力についてだが、このままがいいそうだ。まあ琴美さんには悪いが、できれば僕も


『ん?例の力についてはいいのかですって?ああ、もうその必要は無くなったから別にいいわ。それに、これがあれば万が一の浮気も阻止できるわ』


最後の方はよく聞こえなかったが、まあ特に問題はなかっただろう。


それから僕の高校生活は常に琴美さんと一緒にいた。男子達の嫉妬や羨望の眼差しがひしひしと伝わったがどうってことはない。


それからはまるで光の速度で日常が過ぎていき、僕は高校を卒業した。



10年後


『それでは、新婦の入場です』


パチパチパチパチ


高校を卒業して10年、僕と琴美は今日結婚式を迎えた。そこにはかつての同級生達や千尋先輩、両親も見にきてくれていて、皆が僕たちのことを祝福してくれた。


「隷園日鐘さん。あなたは今五十嵐琴美さんを妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。

汝健やかなる時も、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、富めるときも、貧しい時もこれを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合いその命ある限り、真心を尽くすと誓えますか?」

「はい。誓ます」


「五十嵐琴美さん。あなたは今隷園日鐘さんを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。

汝健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富めるときも、貧しい時もこれを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合いその命ある限り、真心を尽くすと誓えますか?」

「はい。誓ます」


僕たちは神父の問いかけに誓いを唱えた。僕は彼女の頭のレースにそっと手をかけ下ろした。


2人の顔がゆっくりと近づく。


「愛しているわ。日鐘。これからもずっと一緒よ」


ああ、幸せというのはきっとこういうことを言うのだろう。だからこそ僕は、今この瞬間で一番伝えたい言葉を彼女に言った。


「はい。ずっと一緒です。僕も











カチッ













その音はまるで世界が、時が止まったようにさえ思えるだろう。

静寂。先程まで幸せな空間で満ちていたというのに、今この世界には何もない。


いるのは新郎の姿をした日鐘と、突然現れた真っ白な女だけだった。その女はとにかく全てが透明のように白く、どこか儚げでこの世の美しさを体現するような美少女だった。


「……何度目だろうね。君に邪魔されるのは。ねえ、××××××」

「…………………」


真っ白な女は答えない。彼女の透き通る瞳はどこか朧げだが、長い髪にに潜む目線だけは決して日鐘を逃さない。


「相変わらず不気味だね。全くそろそろ解放してくれないかな。このやりとりももう、100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000年でも数えられないほど付き合ってきたんだけど。何でそんなに僕にこだわるの?」

「……………………」


依然として真っ白の女は答えない。そして僕の体と共に世界が崩れ始めた。


「………はぁ、もういいや。いつものことだし。またやり直してやるよ。あと、何度も言うけど僕は絶対にお前のものにはならない」


僕は最後にいつもの悪あがきにそう言った。

そして世界はまた、真っ白くリセットされ女だけがそこに残った。


     …………




××××××side


1人残った真っ白の女。彼女は普段この退屈な世界でいつも1人だった。彼女には楽しい思い出も経験も何一つない。だって興味がないから。彼女はただそこにいるだけの存在。それ以上も以下もない。呼吸するから生きる。寝るから生きる。心臓が動くから生きる。だから彼女は生きている。


彼女の世界はいつも無色だった。そう過去の話だ。たまたま見かけたまだ5歳の普通の少年。どこにでもいるような、むしろ普通より劣っているその少年とたまたまほんの暇つぶし程度に関わっただけ。なのに少年との時間は彼女にとって、かけがえのない時間だった。


その時、彼女の世界が色褪せた。未知を知り、自分が興奮していることを後に気づいた。


彼女は思った。この少年を手放してはいけない、否。手放したくないと。少年のことを考えるだけで頭がいっぱいで、心が満たされる。

顔が熱くて仕方ない。


彼女はいつも影でひっそりと少年を見ていた。そんな幸せなある日、とうとう20を過ぎた少年が結婚するところだった。


ズキッ


胸が何だか苦しくなる。少年の笑顔を見れば幸せなのに、何故だか今の彼の笑顔を見るとどうしても涙が出そうになる。


………涙?


そこで彼女はようやく自分が初めて涙を流していることに気づいた。

それと同時に胸の奥底から何かが叫びを上げていた。


ーーーーーーそこは貴様の場所じゃない‼︎‼︎彼の隣は私だ‼︎‼︎‼︎


気づけば世界がまた真っ白になっていた。

普段なら何も思わない彼女も今は違う。


欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい彼の愛が欲しい。

私だけを見て欲しい、私だけに尽くして欲しい、私のことだけ考えて欲しい、私だけを感じて欲しい、彼の全てが欲しい…🖤


下腹部がキュンキュンと疼いて、彼女の雌の部分が露わになった。


そうして始まったループ生活。彼の心を確実に我が物にするため、毎回同じところで世界を消し去る。弱りきった彼に寄り添うことで、自分に依存させ離れられなくする。


彼女の目論見も少しずつだが効き始めている。


「…………絶対に渡さない」


彼女も最後にそう言い残した後、世界はまた再構築されていく。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


どうも皆さんお久しぶりです!

作者の斧田ミンです。


いやー近況ノートにあんなこと言ったのに、結局口だけで申し訳ない。しかも勝手に、第零章にしちゃったりと本当にすみません。


次回からはいよいよ本編が本格的に動き出します。


少しでも面白いと思ったら、感想やコメント、お待ちしております。


それではまた次回でお会いしましょう!







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