第8話 劣等種
「奴隷、ねぇ。あえて聞くがこれをやったのはお前か?」
これと言うのは、先程まで五十嵐を襲おうとしていたそこの男のことであろう。何しろ急に頭から血を垂らして倒れたのだから当然の疑問である。
「まあ一応そうですね。けど安心してください。見た目はかなりショッキングですけど、殺したりはしてませんから」
そう言って日鐘は片手に握ってあった小石を軽く上に上げてチャリチャリと音を出して見せた。
「おいおいその距離で正確に当てたってのかよ。化ケモんかよてめーは」
「むっ、失敬な。さっき言ったように僕は奴隷ですよ」
心外だと言わんばかりに頬を膨らませる。全くもって格好のつかない男である。
「さて、無駄話はここまでにしましょう」
「……ッ!⁉︎」
日鐘の瞳がまたさっきのように冷たくなった。しかも先程とは違いとんでもない殺気を放ち、周囲の温度が下がったと錯覚するほどだった。
「では、行きますよ」
日鐘は手を大きく振りかぶり、小石を投げた。唯一反応することのできたリーダー格の男はコンテナの後ろに回避したが、他の奴らはもろに食らってしまった。
「「「ぐああああああああぁぁぁぁぁ⁉︎」」」
それはもはやマシンガンに打たれた後のような状態だった。五十嵐さんには決して当たることはなく他の男達は皆脳天に直撃し気を失った。
「残るはあなただけですね。大人しくしていただければ何も痛いことしませんよ」
「……くそっ!」
(どうする。今まで強い奴と戦ってきたからこそ相手の力量も何となくわかる。ありゃ、別格だ。少なくとも
「……ッ!……くくっ」
(反応がない。あと少し待っても返答がないならさっさと潰そう)
「ま、待ってくれ。降参だ。大人しくするから見逃してくれないか」
リーダー格の男は両手を挙げ、降参だと言う意を示し前に出た。
「そうですか、それはよかったです。ああ良かった。物分かりのいい人で」
日鐘は完全に油断し、五十嵐に近づいた。五十嵐さんはブンブンと首を激しく横に振り、何故か睨みつけてきた。
「いや、そんな嫌がらないでくださいよ。いくら何でもちょっとへこみます」
日鐘が五十嵐を縛るロープに触れた瞬間、背後に倒れていた男がバッと立ち上がり、両手を組み上から叩きつけ、今度は日鐘が頭から血を流し倒れてしまった。
そしてリーダー格の男は愉快に大笑いして近づいてきた
「ククク…あーはっはっは。よくやった。にしてもこんな小学生でもわかる嘘に騙されるとは、強さはあっても、知性なさすぎだろ。流石は奴隷だアッハハははは……」
「いや〜、そんなに褒められると少し照れちゃいますね」
「は?」
ブオッ
リーダー格の男は素っ頓狂な声を残し、壁まで吹っ飛んでいった。
吹っ飛ばされた後でようやく自分が殴られたのだと理解した。
しかもさっきの手下も今度は確実にやられていた。
「な……何…で………」
「へえ驚きました。僕かなり強く殴ったはずですけどまだ意識が残ってるだなんて。あと、すいません。さっきの痛くしないとか言ったあれ嘘です。最初に言ったように誰も逃す気はありませんでしたから。だから単純にやられたふりをしただけです。僕かなり頑丈なので。ま、どうせあなた達みたいな人種の言葉なんて最初からアテにしてませんけど」
「…クソッタレ。やっぱ…化ケモん、じゃ…………ねぇ…か……」
そう言い残してやっと男は気絶した
「はあ、何度も言ってますが僕は奴隷ですよ。………あなた達の言うように考えることをやめた劣等種ですよ」
最後の方で小さく呟いたその言葉は誰に聞こえることなく、事件は解決した
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