第3話 - いつも側にいてくれるのは… -
「全力でも勝てなかった」
俺の目を覚ました後の第一声はそれだった。
己の無力を憂い、弱さを恥じる、そんな弱々しい一言。
春が心配そうに話しかけてくれるが返答はできなかった。
俺には合わせる顔も、見せる笑顔もないから。
するとやっちまったという表情であの冒険者が話しかけてくる。
「あ〜そうだね、お前は十分強かったよ、………あ”あ”!こんなのキャラじゃないんだけどなぁ」
「見ろよこの腕、お前は俺に届いたんだ、誇れよ!!」
「俺は実力だけならSランク、性格がクソだから上がれないだけ」
「お前ならAランクから始めたって遜色のない戦果をあげるだろうね」
「だから…なんだ?潰れんじゃねぇぞ、宗義」
なぜだか涙が止まらなかった。
拭いても、拭いても、ひたすらに流れてきた。
そんな状況でも頭は冷静で、自分の駄目な部分がしっかり理解できる。
今回のことでわかったが俺は心が弱い。
白髪で生まれたことを誰よりも気にしているし、誰よりも嘆いていた。
そしてひたすらに弱い、世界を知らない。
言ってみれば井の中の蛙、まだ見たことのない大海が目の前に迫った瞬間にも驕りを捨てられない。
俺はそんな人間だった。
だが今知れた、これでもっと強くなれる!!
このまま……。
「宗くん!!」
俺の考えを遮るように春に抱きつかれた。
そして今更になって気づく。
ボロボロだったはずの体には一切の傷が残っておらず服も新しい物に変わっていた。
おそらく春が治し、着替えさせてくれたのだろう。
「宗くんは一人じゃ何もできないんだもん!だから私が側にいないと駄目なの、ねえ、お願いだから私をおいていかないでね?」
俺は馬鹿だった。
俺のことをこんなにも考えてくれる人がこんなにも近くにいるのに、その人を拒絶した。
そんな大変なことに今更気づいた。
それでも見捨てないで隣を歩いてくれる春。
無意識の内に言葉が出ていた。
「側にいてくれて、ありがとう」
一度止まった涙がポロポロとこぼれ落ちてきた。
今回は何も考えることができず、ひたすらに春の腕の中ですすり泣いた。
「あれ、炎我(えんが)さんその腕治してもらわなかったんですか?」
僕は宗義とかいうガキを舐めてた。
白髪だから、半端者だから。
それは冒険者として最もしてはいけないことだった。
モンスターというのは見た目が弱そうでも強さは異常なほどに高いことがある。
他にも個体によっての強い弱いも顕著だ。
いわゆるネームド、名前持ち。
そう呼ばれるモンスターというのは見た目がスライムでもつよさはBやA、高ければSレベルの強さを持つ個体だっているんだ。
それを知っているのにも関わらず見た目だけで判断し、弱いだろうと決めつけた。
見た目だけで馬鹿にし、見下した、そんな自分への戒め。
そして宗義とかいうガキの戦果としてくれてやった。
ただそれだけの理由なのに、素直に言うのが恥ずかしくて適当なことを言ってしまう。
「あ〜、何か医療班の人がおじさんだったじゃん?だからこれから可愛いお姉さんに治して貰いに行くの!」
「ふふふ、そうなんですね」
そう答える受付の娘の目は生暖かいものだった。
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