第2話 - 才能とは残酷で -

 俺は冒険者になるのが小さい頃からの夢だった。

 きっかけはまだ幼子(おさなご)だった頃に読んだとある冒険者の伝記。

 その伝記で、こんなにもカッコよく自由な生き方があるのか…!そう思わされた。


 代表を出すとすれば…そうあれだな、ドラゴンとの話。


 その話の始まりはこうだった。

 多くの人々が住む街に一匹のドラゴンが襲いかかる。

 それを討伐しようと組まれた冒険者のパーティー。

 そのリーダーを務めていたのが伝記の主人公。


 こういった始まり方、俺はそれだけで引き込まれた。

 だってそうだろう?ドラゴンの討伐なんて男ならば一度は憧れるシチュエーション。

 なおかつこの話は実話、モデルが存在するとなれば読まずにはいられない。


 そしてこの話は、ここからが普通とは違った。

 いざ討伐しよう、そう思ったところで主人公はふと疑問に思ったんだ。

 何故ドラゴンがここまで怒りに狂い、人里を襲うのか。


 そう疑問に思えば止まれない。

 一人でドラゴンと戦い、勝って、殺さず聞き出した。

 すると原因は人にあったのだ。

 ドラゴンの子供を人がさらい、それを追いかけるとここにたどり着く。

 そこでドラゴンが導き出した答えはこうだ、ここの街の人間が我が子を奪った。


 その考えになるのは至極当然、にも関わらず何も聞かず討伐するなんて。

 これでは悪は人ではないか!!

 そう確信した主人公はドラゴンをなだめ、一週間待つことを約束させた。


 そこからの流れは圧巻だった。

 主人公の知り合いや街の人々からの協力を得て、ドラゴンの子供をさらった盗賊団のアジトを突き止める。

 そして盗賊団を殺さず捕らえ、罪を償わせ、ドラゴンの子供を取り返す。

 そうすればドラゴンも子供が帰ってきて、なおかつ今度からはもうこんなことは起こさないと約束を取り付け、満足。

 街の人々もドラゴンの脅威が去ったことで、満足。

 全てを丸く収めたのだ。


 もはや圧巻の一言、これほど心優しく勇敢で、自由で!強くて!素晴らしい生き方が他にあるのだろうか。


 いやない。

 このことを話すと家族は心から応援してくれた、と最近までは思っていたが…本心はそうじゃなかったらしい。

 いつかどこかで諦めるときが来るだろう、そう思って応援しているふりをしていたんだ。


 それはなぜか、俺が大きすぎる夢を掲げていたから?


 違う。


 俺はしっかりと話したはずだ。

 冒険者として成功したいのではなく、冒険者になりたいのだと。

 それは自体は特別大きな夢ではない、なるだけならばとても簡単なことだ。


 それはなぜか?冒険者という職業が大変なのは、なったあとだからだ。


 冒険者という物を生業にし成功すること、もっと言えば生き残ることが難しいんだ。

 夢のないことを言えば、冒険者というのは消耗品。

 なくなれば買い換えればいいだけ、だから入るのは簡単にしてある。


 それでは何だ?家が貧乏でなおかつ跡継ぎのためには俺が必要だから?


 違う。


 うちは裕福というわけではなかったが乏しいというわけでもなかった。

 そして俺は五男、なおかつ長男とはとても歳が離れておりもう家を継ぐ人間は決定していた。


 ならば何なんだ?というその疑問にお答えしよう。


 俺が”白髪”で生まれてきたからだ。

 白髪、いわゆる半端者。

 生まれたときから敗北が決定していると言っても過言ではない存在。


 なぜか?

 それはこの世界では髪の色で得意魔法が決まってしまうからだ。

 赤髪は炎魔法が得意、青髪は水魔法が得意など。

 メジャーなところで言えばそんな感じか…。


 では、白髪の得意魔法は何だと思う?


 そう、ないんだよ。

 何もない、それが白髪の特徴、だから差別はされないが見下される。

 そう考えると同じ家族として扱ってくれていた皆は優しかったのだろう。


 だが俺はそんなことに納得ができなかった、だからもがいた。

 村の中で最も強いと言われていた秋声(しゅうせい)さんに弟子入りしたり、近くにあるモンスターの出る森に単身で突っ込んだり。

 命を顧みず何でもした、だからこそ怪我も絶えなかった。


 そこで幼馴染の春(はる)には高い回復魔法の才能があることがわかった。

 それに気づいてからはより無理をすることが多くなり、それを心配した春は「私もついていく!」と言い始めた。


 そして春も秋声さんの弟子となり、一緒に冒険者を目指すようになった。

 そこからはひたすらに修行の日々だ。

 血反吐を吐くような厳しい時間を過ごし、何度も心が折れかけ、それでも諦めずに続けた。

 その結果強くなった、白髪としては異常なほどに。


 だがそうじゃなかった、俺に足りないのは、そして家族が俺を心から応援できなかったのは違う理由、それを今なら理解できた。

 それは何か、もう一度最初から言おう。


 大きすぎる夢を掲げていたから?


 違う。


 家が貧しく余裕がなかったから?


 違う。


 俺が白髪で生まれてきたから?


 違う。


 そんなしょうもない理由じゃなかったんだ。

 俺が、俺自身が!白髪であることを気にしすぎていたから。

 だから、家族はいつか俺が白髪であることを理由に挫折してしまうと考えたんだ。


 今でも俺は、伝記の主人公とは違い白髪であるということを理由に、どこか逃げ道をつくっていた。

 だから一つのことを極めたあの冒険者のような闘志が!気迫が!ないんだ…。


 俺の今までの人生を否定されたようだった。

 そしてこれが、俺が冒険者になれないと思われた本当の理由だったのだろう。

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