得意なものがない 〜器用貧乏を才能の高さで乗り越える!!〜

真堂 赤城

第1話 - 軽薄な人 -

 今日、俺はようやく冒険者になれる。

「ようやくついたな…王都に」


「うん、長かったね?宗くん」


 そう相槌をうつのは幼馴染の春(はる)。

 春の言う長かったというのは王都までの道のりではない。

 ここに来れるようになるまでの成長の時間。


「そろそろ行こうか…!」


「うん!」

 今まで共にしてきた時間がこれ以上の無駄な会話はいらないと言ってくる。

 だから無駄話はせず、俺達は冒険者協会に入る。


 予想していた通りの喧騒、ガヤガヤと響き続ける冒険者達の話し声。

 テーブルに数人で集まっているのは同じパーティーだからなのだろう。

 冒険者のパーティー、とても良い響きだった。


 あれほどまでに焦がれたこの冒険者協会という場所。

 冒険者になるためには必ず来なければならない場所。

 憧れのあの人も一度は来ていると考えると震えた。


 俺と春は受付までゆっくりと歩く、冒険者協会にいるということを噛みしめるように。

「すみません」


「はい、ご依頼ですか?」


「冒険者になりたくて」


 俺が冒険者になりたいと言うと訝しんだ様子で、

「……そちらのお嬢さんがですか?」

 と聞いてくる。


「俺もです」

 そうして俺も冒険者になりたいと言う旨を伝えると、面倒くささ半分呆れ半分の表情で相手をされる。

「………かしこまりました、そちらでお待ち下さい」


 言われた通りに待っていると一人のとても軽薄そうな男が春に声をかける。

「ねぇねぇ、そこの可愛いお嬢さん!僕と一緒に食事でも行かないかい?」


 春は心底迷惑そうな顔をし、

「いえ、私には宗くんがいるので…」

 と断る、がそれでも軽薄そうな男は諦めない。


「え〜、そんな半端者より俺みたいなAランクの冒険者といたほうが絶対に良いって!」

 周りからはまたか…という呆れの表情が伺える。


 それでも男は止まらない。

「じゃあさ、じゃあさ!君らこれから冒険者になるための試験でしょ?」

「俺が試験官をやるからそこで俺についてくるか、それともその半端者についていくか決めてよ!うん、それがいい!!」


 そして受付の方を向いて、

「ね?いいでしょ?」

 と言い放つ、すると受付の奥から出てきた初老の男性は。

「ふ〜ん、まあよいか」

「しっかりと務めろよ、大亮(だいすけ)」


「了解〜!」

 気のしれた相手のようで、すぐに許可された。


 春は心配した様子もなく、

「頑張って!宗くん!!」

 と悠々と言い放つ。

 俺も一切の不安はなく、勝つのが当たり前だと感じている。

 なんせ軽薄そうな冒険者からは先生の様な強者のオーラが感じられないのだから。

「おう!」




 そこからの準備に時間はかからなかった。

 模擬戦用の武器を持ち、試験会場に足を踏み入れる。

 観客席は物珍しげな目を向ける人達で埋まっていた。

 半端者である俺と、Aランクの冒険者の模擬戦、時間潰しの見世物として楽しむつもりなのだろう。


「それじゃあ始めようか、半端者君から来ていいよ!半端者君もあの子の前で何もできずにやられるところなんて見せたくないっしょ?」


 こいつも俺を見下しているのだろう、だが別にいい。

 勝てればそれで…。

「余裕だな、まぁその言葉に甘えさせてもらおうか」


 まずはジャブとして軽い魔法を放つ。

 炎、水、風、土、光、闇。

 俺の長所である他属性の魔法を高水準で扱えるという部分を見せるために、基本属性である6つの属性の魔法を使う。


「エレメントバレット」

 俺の周りに6つの球体が出現したことに軽薄そうな男が驚く。

「それじゃあ、行かせてもらうよ!」

 一つ二つと飛び出す魔法、消費した分を即座に補給するためその攻撃が止まることはない。

 だが流石Aランクの冒険者、最小限の動きでかわしていく。


 が、かわした魔法は冒険者の追尾を始める。

「ちょまって!追尾とか聞いてないんだけど!?」

 ようやく軽薄そうな冒険者は魔法を使い始めた。

「波動炎火(はどうえんか)!」


 炎をまとった波動が出現する。

 その波動にあたった魔法の全てが消滅した。

 触れたもの全てと干渉しあい消滅させる…か。

 これは俺もこの冒険者をなめていたかもしれない、そう思い直た。


 相手が炎ならばと使う魔法は水と土にシフトする。

「水煙(すいえん)」

 まずは水の霧を出現させ炎の威力を下げる。


「ドーム」

 軽薄そうな冒険者の周りを土のドームで囲い込み。

「クロース」

 一気にドームを閉じる。

 縮まるドーム、そして狭まる行動範囲、密閉空間であるため得意の炎魔法は使うこともできない。 

 勝った、そう確信した瞬間だった。


「獄炎化(ごくえんか)」

 会場全体が炎に包まれた、まさに業火だった。

 水の霧は全て蒸発し、地面は燃え踏み場もない。

 軽薄そうな冒険者の周りは真っ赤なオーラで埋め尽くされている。


 軽薄そうな冒険者、それはもう正しくないのかもしれない。

 あの冒険者の瞳の奥が最も強く燃えていたのだから…。


 ありえない…!

 これが闘志、気迫、俺は持ってない……。


「あ〜何だ少年、君は十分強いと思うよ?でもさ、君はやっぱり中途半端なんだよ、何処まで行っても器用貧乏の域を抜けられていない」

「一つの属性を極めた俺達には勝てないよ」


「一度、高みを見せてあげる」

「青炎蒼(おうえんそう)」


 炎がより強くなった、真っ赤だった炎は青色に変色し、より高温になる。


「ここじゃ終われない!まだ俺は負けてない!!」


 炎をも凍らす冷たさを発揮できればいい。

 それなら!

「絶対零度(ぜったいれいど)」

 凍える世界、全てを閉じ込め全てを冷やす。

 そんな威力を出せれば!!


 だがそれでもとどかない、あの高さまで上がれない。

「まだだ!!絶対・零度!!」

 より多くの魔力を込める、すると先程までは意気揚々と燃え続けていた炎は火力を落としていく。


 が……。

「悠久の炎(ゆうきゅうのほのお)」


 止まらなかった、半端者の俺では止められなかった。

 手を伸ばしても、背伸びをしても、誰かの肩を借りても。

 微かに触れることすらできない。


「そんなの嫌だ!!俺は…俺は!!」


 走り出す、炎の熱さは気にしない。

 燃え落ちる服、焼けただれる肌、全て気に留めない。

「何をしてもとどかないなら…!!同じ場所まで引きずり落とす!!!」


「エンチャント・水氷(すいひょう)」

 手に持った模擬戦用の剣に魔法を宿らせる。

 そしてそのまま。


「お前はよく頑張ったよ、そろそろ眠れ…死ぬぞ」


「土縁(どえん)・斬(ざん)」


 そこで俺は、意識を失ったた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る