「脅迫」「停電」「明日」

 「おい、明日までに電気代を支払わないと、お前の家の電気止めてやるからな」


 「あの…今月分はもう払ったと思うんですけど…」


 「あっそうでしたか…すみません…」


 がちゃっ、つーつー。


 「いやそこで諦めちゃダメじゃないスか!?」


 「どうした子分、何か問題でもあったか?」


 「問題しかなかったっスすよ兄貴!!」


 「電力会社に成りすまして、電気代を滞納している奴からお金を巻き上げるっていう画期的な俺の案にお前もノリノリだったじゃないか」


 「いや、それに関してはマジで神過ぎてビビってるんスけど、なんつーか…引き際が速すぎるつーか…」


 「電気代をしっかりお金払ってる人からお金を巻き上げろっつってんのかお前は! そんな極悪人に育てた覚えはないぞ!」


 「お金盗もうとしている時点でもう…いや、なんでもないっス! 兄貴が100正しいっス!」


 「じゃあ引き続き、適当に電話かけていくぞ」


 「うぃっす!」


 がちゃがちゃ。ぷるるるるるるる。


 「どうも、田山ですけども」


 「おい、電気代をさっさと支払わねぇと明日停電にしてやるからな」


 「いや、何言って…えっあっはい、電気代がどうのこうの言っとりますけど…はい、はい…」


 「おい何を裏でごちゃごちゃしとるんじゃ! さっさと金払わんかい!」


 「あ、お電話変わりました。主人の妻です。先ほどは主人がご迷惑をお掛けしました。それで、ご用件というのはいったい何なのでしょうか?」


 「さっきからずっと言っとるやろうが! 今月の電気代がまだ支払われとらんからさっさと振り込めや!」


 「あら~それはそれは。それで、金額はおいくらになるんでしょうか?」


 「金額か? それはな…ヒソヒソ(おい子分、電気代の相場っていくらだ)」


 「(わかんないっスよ、実家住みなんで払ったことないっスもん)」 


 「(俺もだ!)」


 「(適当に欲しい金額言っときましょうよ兄貴)」


 「(そうだな)」


 「2億円だ。さっさと支払え!」


 (流石にぼったくり過ぎじゃないスか兄貴!?) 


 「あら~そんなに電気使ったかしら~。ちょっと待ってくださいね~えっと…ああ、確かに明細にも2億円って書いてあるわね~」


 (えっマジで電気代って、そんな高いの!?)「そうだろう、分かったらさっさと払え!」

 

 (えっマジで電気代って、そんな高いの!?)「(兄貴…もっといっぱい貰わないと俺ら、一か月電気代払うだけでお金なくなっちゃいますよ)」


 (お前天才だな)「いや、まて延滞金として追加で5兆円も払ってもらおうか」

 

 「あらあらあらあら…そんなにかかるんですか?」


 「何、金払ってない分際で意見しとるんじゃ! ええからさっさと5兆2億円耳そろえて払わんかい!」


 「そうですね…こちらが悪うございました…では、いつもの口座に振り込んでおきますので」


 「待て、それじゃあダメだ」


 「あら?どうしてでしょうか?」


 「あの…あれだ…うん…ダメだな…それじゃあ…」


 「(延滞金振込用の口座があるとかじゃダメっすか!?)」


 「それだぁ! 延滞した時はそれ用の口座に振り込んでもらわないと困るんだよ!」


 「あら、そうなんですね…」


 「全く、しっかりしてもらわないと、こっちも困って仕方ないわ!」


 「すみませんでした。それで、延滞用の口座というのはどちらになるのでしょうか?」


 「それはだな…(おい子分、お前口座持ってるか?)」


 「(持ってないっス)」


 「(俺もだ)」


 「「困った…」」


 「あの、どうかいたしましたか? 口座を教えていただけないと振り込めないのですが…そうなると、我が家の電気が止まるんでしょう。それはとっても困るんです」


 「あ、ああ、ちょっと待ってろ。今から作ってるから」


 「作ってる?」


 「ああ、作ってる。しばらく待ってろ」


 「はぁ…」


 30分後。


 「あの、まだかかりますでしょうか?」


 「もう少しでできる。待て」


 「兄貴ィ! 俺じゃあ口座作れないって銀行の人に断られちまいましたぁあぁぁ!!」


 「なんだと!? じゃあ俺が行ってくるから、お前電話持ってろ!」


 「あの…直接お渡ししに行っても大丈夫ですよ…」


 「「なんだって!!」」


 「んっ。ま、まあ、滞納しているものとしてそのくらいは常識だよな!」


 「それでは、2時間後に〇〇駅で大丈夫でしょうか?」


 「おっすごく近い。こっちは15分後でも大丈夫だぞ」


 「あらあら、それは助かります、それでは駅でお会いしましょう」


 がちゃ。つーつー。


 「めちゃくちゃ上手くいきましたね兄貴!!」


 「そうだな子分!! いや、まだ気を抜くな、お金を受け取るまではピンと背を張っておけ」


 「そうっスね! 流石兄貴!」


 「それじゃあ駅行くぞ!」


 ばたばた、とことこ、まちまち。


 「もうそろそろ15分スね」


 「だな」


 「そう言えば、見た目の特徴とか聞いてなかったっスね。どうやって見分けましょうか?」


 「穏やかな気の弱そうな女だったな、それっぽいのを探せ」


 「そうっスね、あれとかですかね」


 「あの~電気屋さんでしょうか…?」


 「背後から迫るとは、味な真似をしてくれるじゃねぇか! ちゃんとお金は持ってきたんだ…ろう…な…?」


 「兄貴めっちゃデカいムキムキのお姉さんが目の前にいるんスが…」


 「ああ、それに俺らの周りを黒服のお兄さんが取り囲んでいたりもするな…」


 「あらあら、すみません。ちょっとお金が多すぎて持ってこられなかったもので、一度事務所の方まで来てもらってもいいでしょうか?」


 「は、はい…お姉さん、見た目によらず可愛い声してますね…」


 「よく言われます~」


 「あっあと力もちょっと強いですねぇ…はははっ…」


 「俺リムジンなんて初めて乗るっスよ…はははっ…」


 「「はははっ…はははっ…」」








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