「夫婦」という関係(4)

 5月28日 


 おばあちゃん、初めての夫婦喧嘩以来、私は好平さんのことを色々教わっています。

 もともとが見知らぬ他人だったのにいきなり夫婦になったのですから、お互いに情報が足りないのです。それに気づいたらしい好平さんは、夕食後のソファタイムに仕事のことや趣味の事、家族構成などを話してくれるようになりました。

 好平さんのお仕事は医療機器メーカーの取扱いを専門にする部署で、いわゆる機械の取扱説明書や、取引先の医療機関の実情に合わせた運用マニュアルの作成などをするそうです。

 そんなお仕事をされているのなら、家電製品にいちいち取り扱い方のメモを貼っている理由は「好平さんが機械オンチだから」ではなくて、ただ几帳面だからなのかもしれませんね。

 ご家族はお父さん、お母さん、お姉さん、弟さんで皆さん地元にいて、こちらにいるのは好平さんだけです。

 そして、好平さんの趣味は「写真」だそうです。

 いわゆる愛好家のようにカメラにこだわったりはせず(愛好家は何万円もするレンズを集めるものだと言いますから、ほっとしました)、ふらりと景色のいいところに出かけて、ついでに写真に収めてくるくらいなんですって。

 見せてもらった写真は風景や植物や建築物がほとんどで、どれも妙に味わいのある素敵な写真ばかりでした。

 北の部屋に連れて行ってもらって、クローゼットの奥の段ボール箱に無造作にアルバムが積まれているのを出して見せてもらったりもしました。

 あまりにもたくさんあるので好きに見ていいと許可を得て、日中にアルバムのページをめくります。そして、気に入った写真は出しておいて夜のソファタイムに解説をしてもらうようになりました。

 どこに行ったときに撮った写真で、その土地ではこんなことがあって、と、私の知らないことをたくさん教えてもらっています。

 そして、そんな話をする時の好平さんはとても柔らかに笑っています。

 そういえば、私がお台所に立っているときやソファに座っているときに、好平さんがくっついてくるようになりました。肩に頭を乗せてきたり、手を握ってきたり、私が嫌がったり、驚いたりしないしないように、そっとです。

 ドキドキしますけど、温かい大きな手とか、自分のものではない体温が離れるのが寂しいと思うようになりました。

 好平さんのそんな仕草ににこたえたくてもどうしたらいいかわからない自分がもどかしくて仕方がありません。こんなことなら恋愛の練習でもしておけばよかったと後悔しています。


 おばあちゃん、私、もっと好平さんのことが知りたいです。

 好平さんはとても素敵な人なのだから、ちゃんと好意を返せるようなまともな人間にならないといけないと、反省しきりです。



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