第148話
人に見られてもいい移動手段として、アオイに騎乗して国境まで移動する。騎乗用の鞍を二人乗りにして、重力軽減を付与した。
アオイに疲れた様子はないが、順番待ちしている間にエイコは手ずから食事を与える。
食事は主人がいかに手間をかけ、魔力含量があるかが大事なので、錬金術で作った物を調合で作った物で味付けして渡す。
今回はパンにマヨネーズをぬった物を与え、ついでにエイコとメイはジャムをぬってオヤツにした。
順番待ちが長いこと以外は特に問題もなく、国境を越える。国内に入るとアオイには影の中に引っ込んでもらった。
勇者召喚を行い、獣人と戦争している国。獣人の奴隷が多いと聞いていたが、街中に入っても特に奴隷が目立つようなことはなかった。
入国費用はエル通貨でも対応してくれたし、国境の町では使える店も多いと聞いている。けれど、その先対応してくれる店は減る一方らしい。
まずは行動方針を決めるためにも、冒険者ギルドへ向かう。
この国の通貨はポス。紙幣が大半を締めているが、銀貨や金貨といった硬貨も流通している。
獣人の国と近い地域だと硬貨が好まれるらしいが、戦争から遠い地域だと紙幣があればいいらしかった。
両替商の相場を見た感じはエル一◯◯に対してポスが一一◯から一二◯で、手数料込みとなっている。
少額ならエル通過対応店で、ポスでおつりをもらえばいいが、これから宿泊することを思えばおつりを集めても足りない。
金貨はこの辺りの両替所では出してくれないそうなので、南に移動した時のために取っておきたかった。見たことない食料品を鑑定で鮮度だけ確認して買い物しつつ、通貨価値を判断する。
大通りを進んでいると冒険者ギルドを見つけた。中に入ると、半分くらいのパーティが奴隷を連れている。
奴隷はどうも獣人ばかりらしく、頭上の耳に視線が向く。耳の形状の違いが獣人としての種族違いだろう。耳だけで何系統の獣人かまでは判別できないし、尻尾が見えない奴隷も多い。
嫌な気分を表にださないように取り繕い、売店に向かう。
ポーションの販売価格が三万ポスとなっていた。二重表記で二万エルとも小さく書かれている。
「高くない?」
問いかけた相手はメイだったが、先に店員が反応してくれた。
「戦争にもポーションが使われるからね。いつでも品薄だから高騰したのよ」
近隣の国の中では一番高いらしい。国内の販売価格も統一できてなくて、戦争をやっている南に行けば行くほど高騰しているそうだ。
国内では国境のこの街が一番安いらしい。
「買いたいんじゃなくて、売りたいんだけど」
「そりゃぁから場所間違えてるわ、買取カウンターはあっちよ」
買取価格も南に行くほど高くなるが、治安も悪くなる。
買う気もないのに長々と売店にいると嫌がられるので、依頼を張り出している掲示板を観に行く。
この国でも生産職限定依頼は残り気味で観ている人もいない。
「宿は割高でもエルで泊まってもいいし、最悪街の外に出たもいいから、ポーション売るのは街を出る直前がいいと思う」
「だよね、なんかポーションあるって言ったらもめそう」
ボソボソとエイコが告げれば、メイも声を落として応じてくれる。
依頼書にもハイポーション納品とか、欠損回復ポーションとか、マナポーション納品っていうのがある。依頼料は通常品質のもので、品質がよければ値段も相応に上げるとあった。
「なんか、釣り広告みたい」
「あー、最初一回だけ高額で、囲われた後は延々と搾取されそう」
それなりに冒険者として稼いでいるフレイムブレイドに卸している値段の三倍から五倍の値段がついている。こっちの冒険者が、ラダバナの冒険者よりそれだけ稼げているとは思えない。装備品を見てもちょつとラダバナの冒険者より悪そうだし、新年に見かけた冒険者たちとは比べものにならない質だ。
「ねぇ、君ら生産職? 専門何か聞いていい?」
「えーお兄さんのナンパ?」
なんか軽そうな男がきた。メイはにこやかに対応するか、エイコは冷たい眼差しを送ってしまう。
すぐに取り繕い笑みを浮かべて見るが、誤魔化せたかどうかはわからない。チラッと男に視線を向けると顔を引きつらせたので、女なれしてそう。
「ごめんね。この子、男で痛い目みたばっかりだからちょっと警戒心高くて」
「あー、それはしかたないね。世の中には悪い男もいるからね。ボク、そんな悪くない男だよ」
「善人な冒険者って仕事できなさそう」
二人が仲良く話しているところについ余計なことを言ってしまう。たぶん、この男が胡散臭すぎるのが悪い。
「ちょっと悪い男なのバレちゃった? ちょっと危険な男はダメ?」
「いや、ちょっと危険な男じゃなくて、金のない男ですよね?」
エイコが淡々と告げれば、メイはにこやかに足を一歩引いた。
「そっちの鑑定、何って出たの? こっち遊び人だから観光案内にはいいかと思ったんだけど」
「失敗したヒモ男。あっちでチラ見しているのが借金取りみたい」
生産職なら、暴れられても大した事ないって、この男は話しかけてきている。なので、いくら小声で話したところで、近距離にいる男には聞こえているが気にしない。
「この街の情報くれるなら、食事くらいおごりますよ? それ以上を求めるならそれなりの対応になりますが」
「どんな情報が欲しい?」
「宿、食事、通貨、奴隷の扱いについて」
「ああ、この国来たばかりなのか」
酒があれば口の動きは滑らかになるという男とともに、冒険者ギルド内にある食堂へ移動した。
男は酒とつまみを注文すると、にこにこと語り出す。
「まず宿についてだが、表通りに面している所は高級なトコか、ボッタクリだ。表通りから離れると離れるだけで治安が悪くなる。その分、値段も安くなるが、女の子にはお勧めできないね」
そう告げると木製のカップに入っていたエールを飲み干し、お代わりを注文する。注文の度にエイコがエルで支払った。
おつりはポスでもらう。ただ、注文が一◯回を超えたあたりで、ポスを出せと注意を受けた。
この男、普段は場慣れしてない生産職の冒険者相手に作った物の売買の仲介をしたり、ダンジョンの攻略の手伝いをして小金を稼いでいる。その中で好意を持ってくれた女の子はカモにしているそうで、警戒されている相手には小金を稼いで満足しているそうだ。
宵越しの金は持たない主義らしく、使い切る前に金返せと借金取りに張り付かれているらしい。なので、高額報酬より酒を奢ってくれた方いいらしく、よくしゃべってくれた。
話してくれるのはいいが、どうにも信用がならないので、監視しているぽい少年を手招きする。キョロキョロ周囲を見て、自らを指さすのでうなずいてやれば、首を傾げながらやってきた。
困惑していそうだが、警戒していないのは戦闘職だからだろう。
「この人、どのくらい信用できる人?」
信用ならないとばかりに指さされた男は笑い、問われた少年は困った顔をする。
「遊び相手としてはお金がかかる人ですね」
すぐに言葉のでなかった少年は、頑張ってそんな言葉をしぼりだした。即答で信用できると言われたない程度の人の言葉を鵜呑みにはできない。
この少年、鑑定によれば嘘つきの才なしとなっている。失敗したヒモよりは信用できそうだ。
にっこり笑い、席を勧めると少年はおずおずと座る。
「好きなの注文していいよ」
食べた分は働いてもらうから。
エイコが本心を隠して微笑んでいれば、少年はステーキを注文した。
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