第146話

 ガチャってやっぱり、物欲センサーがあるのだろうか。酔っ払いに気をとられていたら、いつもよりちょっとだけレシピが出やすかったように思う。

 そして、完成レシピは船予想がハズレ、水上テントだった。水の上に設置できるらしい。


 とりあえず作りはするが、たぶん使わない。水の上なんて不安定な所より、まだ運用実績のある空の上の方が安心感がある。

 テントが沈む心配はしていないが、モンスターに襲われる可能性はある。水場にモンスターのいないダンジョン限定か、隠蔽性能を上げるかしないと実用性は低そうだった。


 メイに護衛ゴーレムを二十体と従魔のシルクと酒飲みじいさんを付けて一五層行きの魔法陣を使ってもらう。取引中のパーティに、取引できるのは明日の朝までと通達に行ってもらった。

 そうして一人になれば、よろしくない視線を強く感じる。アオイだけでは抑止力にならないらしい。


 戦闘職相手に生身で対応なんてできないから、早々に住居空間を作ったゴーレムの中に引っ込む。これで内部侵入されなければ、暗殺の心配はないはず。

 内部に引きこもると、早速水上テントを作ることにした。


 素材は十分にあるので、錬金術でサクッとできてしまい、時間潰しにはならない。さて、何から改造しようかと考え、カヌーぽい船を二つくっつけてみることにした。

 隠蔽は付与魔術を使うだけでは面白くない。付与はするが、改造するならもっとこう手間をかけたかった。


 あえて外部情報を得ないようにしているが、たぶん襲われている。今襲われているかどうかはともかく、今夜は安全じゃない。

 星五つの戦闘職ダンジョンに行けないくらいの相手に、過剰警戒かもと思いもはする。けれど、かかっているのは我が身の安全だ。

 なめて死亡を含む悲惨な目に遭うくらいなら、過剰反応でもいいだろう。


 戦闘職こわーい。ビビリな生産職なんです。で、誤魔化せるだろう。そう、実験台が欲しかったわけじゃない。そんな誤解をされない様に、いかに立ち回るかが大事になるだろう。

 そんな考えは、水上テントを改造する頃には忘れた。メイがいつ帰って来たのかも知らない。

 改造中に寝落ちして、目覚めてゴーレムから出たらメイに呆れた視線を向けられた。


「おはよう。何かあった?」

「おはよう。あんたどんだけ護衛ゴーレムいるの?」

「自分の安全大事だからね。メイにつけたのより多いに決まっている」


 ゴーレムだけでそのくらいいて、魔導ゴーレムや自動人形や魔導自動人形はその数に含まれていない。

 出番はゴーレムだけで終わったのかと、ちょっとだけ残念に思う。でも、薬物投与実験結果を魔導自動人形がまとめてくれており、良い学習経験になった様だ。


 街中で使うには噴射方法とか、投与方法をもう少し考えた方が良さそう。なるべく対象者以外には被害を出したくないが、我が身の安全のためなら妥協できる範囲だ。

 自動迎撃実験としては、良い結果だと判断する。一応、死者はいないし、ダンジョンで襲ってきた相手を殺したところで違法ではない。


 放置すると次の犠牲者が出るという意味では、処理しておいてほしいと思われているくらいだ。

 基本、地元の人ばかりが利用するダンジョン。ヤバイのが誰か確定したのなら、地元の人で対応してもらいたい。


 ヤッちまった後ならともかく、麻痺か睡眠状態でも生きているならあえてヤりたくもなかった。


「ガチャした?」

「うん。朝ごはんどうする?」

「外でよくない?」

「だね」


 倒れている人は放置して、エイコとメイはダンジョンから出て行く。なんかじいさんがついてきたので、朝食は充分にダンジョンから離れてから一緒に食べた。


「護衛はダンジョン内だけでよかったのですが」

「護衛としてはそれでいいが、足の修理を頼むのにギルドで登録しておきたい」


 双方の合意があれば、住所不定の冒険者同士の手紙も冒険者ギルドで対応してくれるそうだ。ただし、片方、もしくは両方があっちこっちうろうろされるとなかなか届かないらしい。

 じいさんはこの近くの自治都市に定住しており、行く予定はなかったが町を案内してくれると言われて寄り道する。


 二国間の物流経路にある町なので、表通りは人も多く活気があった。ただ、表通りにいるのはほとんどこの街の人ではないらしい。地元の人が利用するのは裏通りにある商店街で、目立つ所によそ者が使う施設が集まっている。

 どこの街でもよそ者扱いの冒険者が使うギルドは当然表通りにあり、街の規模からすると大きなギルドらしかった。


 エイコやメイには街の規模とギルドの大きさについて判断する知識はない。でも、じいさんは若い頃かなりうろうろしていたらしく、物流のいい地域は冒険者ギルドや商業ギルドが大きいと教えてくれる。


「この街で多いのは護衛依頼ばかりだがな」


 ダンジョンの数は少ないので、それに関連する依頼も少ない。そして、このあたりの自治都市を挟んで存在する二カ国は奴隷の扱いに差があった。

 互いの奴隷の扱いを合わないと考える者は、相手国に入るのを嫌う。そのため自治都市で護衛を交換させることもある。死傷による護衛の補充ということもあるが、考えをの合わない者を連れて仕事の邪魔をされたくないと考える商人も多い。


 この町では星五つの戦闘職ダンジョンを攻略できる人たちは護衛として扱えるが、それ以外は護衛というより雑用として雇われる事になる。

 戦闘職ダンジョンを攻略できて、一人前。それがこの地の冒険者ルールらしかった。


 昼ごろに冒険者ギルドへ登録し、手紙のやりとりができるように登録する。有料だったが、じいさんがエイコの分も払ってくれた。

 エイコは本拠地をラダバナにして、第二拠点に王都を登録する。ただ、これから行くのは西にある国だと知らせておく。

 これでじいさんが近いうちに手紙を出したら、西の国の冒険者ギルドに届くらしい。西の国のどこかはエイコが冒険者カードを使った時に特定するので、大きく移動するときや、長滞在するときは冒険者ギルドに声をかけておくと手紙が届きやすくなるそうだ。


 登録しても、定住地がないとなかなか届かないのが冒険者のあり様で、一季節で届いたらいい方だと思っていたらいいらしい。

 緊急時に使えるものではないので、どれか一つ壊れたら知らせるから全部壊れる前に来てくれたら嬉しい程度のようだ。


 そしてフレイムブレイドから指名依頼があると言われ、ポーション類を納品する。定期納品分は首都のギルドで納品していたが、どうも追加で欲しい事態があったようだ。

 この指名依頼、取引実績があるから国外まで依頼が追いかけてきたが、相手側が一方的に指名してくるような依頼をエイコは面倒だとお断りしており、依頼主と指名された者が同じ町にでもいない限りエイコにまで連絡はこない。


 これが誰の依頼でも一定条件を超えれば受ける冒険者なら、冒険者ギルドも対応する。そして、個人はともかく、一定条件以上で冒険者ギルドからの依頼は受けてくれる人としてエイコ冒険者カードの取引実績は示していた。


 昼ごはん食べてから、作業部屋貸してくれるならと応じれば、作業部屋も昼食も用意するからと二階の部屋に案内される。

 ポーションならメイも作れるからと巻き込み、小部屋で昼食をとっていればじいさんがやってきた。

 別れてすぐ金をおろしてきたと、西の国の金貨を積み上げる。どこ発行の通過までかは鑑定でわかるが、エル換算いくらかはわからない。

 ただ、欲しい物はわかっているのでそっと酒瓶を三番置いたらいい笑顔で二本持ってった。


 適正価格だったがどうかはわからない。けれど、適正だと思っていれば心は平安でいられる。なので、そういうことにした。


 でも、手紙を届くようにしたのは修理が建前だと疑ってはいる。

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