第145話
ざらざらと銅メダルをメイが渡してくる。
「残りあげる」
「素材出した方がよくない? たぶん、こちっも今のペースなら明日か明後日には集まるよ」
「そっちのレシピが集まってから素材は集めるわ」
いつもどこりに話しつつ、メイが嫌そうに視線を向けられた先に、エイコも首をあまり動かさないで視線を向けた。
最初に断ったの向こうなのに今になって防具作れると騒ぐパーティと、声すらかけてないが防具を作れると知って絡んでくるパーティがいる。あんまりしつこいようなら素材集めなんてしないでさっさと移動したいからレシピ集めろってことだろう。
「今日はとりあえず、スライムジェルで枕でも作る?」
「先に椅子用の座布団にしない? 低反発の座布団できそうだし」
「じゃ、外側よろしく」
「うん。中身よろしく」
何にも気づいていないふりして、気楽に話す。従魔のみでダンジョンの散歩に行かすのもやめよう。
そばに置いて防衛強化に使う。
アオイは小型とはいえドラゴンだ。エイコやメイに比べれば威圧感がある。
襲われたら実験台に使えるし、たぶん防衛できるけれど、何もない方が好ましい。対処できるからといて、襲われたくもなかった。
生産職なんて戦闘職を前にすれば弱者でしかないのだから、臆病なくらいでいい。
錬金術で一度錬成すれば、スライムジェルを四角形のちょっと硬めのぷにっとするクッションにした。同じ大きさで二つ作って、メイに外側を作ってもらう。
今は撥水布で作るそうだ。使い心地がよければ、季節に合わせて使える様にカバーを作る。
ピンクの布地に黒の塗りつぶしハートと塗りつぶしのない枠線ハート模様の物と、黄色に黒の塗りつぶし星と枠線星模様のカバーをメイが見せてきた。
あんまり派手な格好すると、周囲の目が冷たいそうで、メイにすると服は大人しめの物ばかりになる。たぶん。それでもこの世界からすると明るい色味が多いけれど、メイにとっては不自由なのだろう。
「エイコはあんま派手なの好きじゃないから模様は黒にしたわ」
「うん、ありがとう」
そうか、模様が黒なのは配慮だったのか。たぶん、ピンクの方がメイは好きだからエイコは黄色を選んだ。
座布団として使っていれば、あまり視界には入ってこない。ハデか地味かなんて些細な問題でしかないだろう。
でも、部屋置きするクッションのカバーを作ってもらうときは、アイボリーとか目に優しい色でお願いしようと思う。
午後、町に戻るためにダンジョン探索を切り上げてきた冒険者が広場に増え出した頃、エイコとメイはダンジョン探索に向かった。
冒険者たちが近寄らない湖を巡り、ボスのリポップ待ちをしている冒険者のそばを通り抜け広場に戻る。その頃にはガチャボックス前には行列ができており、エイコとメイは広場の隅の方で空いている場所を探した。
空いた場所を見つけると、夕食の準備をする。
鍋に食材と水をいれて魔導コンロで加熱し、できあがりを待つ。待つ間にドライフルーツをおやつにして、アオイにもあげる。メイはなんか調合したのをパンにかけて、シルクにあたえていた。
コツコツ音を立てて、白髪の冒険者がよってくる。
「使い心地どうだった?」
「接続部分も前より痛くねぇし、軽いな」
レシピ改造の義足と自動人形からの転用品は走ることもできたそうだ。ただ、自分で手入れすることを考えると杖のような義足が普段使いにはいいみたい。
「できれば三つともほしいがこれで足りるか?」
テーブルの上に男はメダルを積み上げる。金メダルが三枚に銀メダルが一五枚。銅メダルは小山になるくらいいっぱいあった。
「これ、一日で集めたんですか?」
「いや、一週間くらい前からいるからな。帰る日以外は水の入った袋と適当な食糧を出したら終わりにしている」
食糧も持ってきているが、基本的にはガチャで出した物で過ごし、酒がなくなると町に帰るそうだ。
「これならもう一つのダンジョンにも行ける」
男は楽しそうに笑う。
「ソロで?」
「あぁ」
両足があった頃は、強かったんだろうな。
「冒険者ランクって聞いてもいいです?」
「今はDだな」
「ランクって降格させられるの?」
「問題起こせば下がる。身体の欠損も下がる。オレは足だから3ランク下がった。腕一本なら一ランク下げてすんだかもな。片腕でも魔術士なんかの攻撃力が下がらない職ならランク維持できるが」
この人のいたパーティって、Sランク目指していたのか。
「もしかして、この広場にいる中で最強?」
「どうだろうな。どのパーティにも負ける気はしないが、嬢ちゃんらはわからん」
「わたしたち生産職ですよ?」
「生産職は自らの強さをひけらかさないからな。秘匿することで身を守っている。けどな、ただの弱者は連日ダンジョンに泊まり込みなんてやれねぇ。それは防衛手段のあるやつの行動だ」
にっと笑う姿は若々しく、まだ戦えることを喜んでいるようだ。戦闘職は生産職に作りたくてたまらなくなる欲求がある様に、戦いたくてたまらない欲求があるのかもしれない。
「奥の手なんてもんはいくらあってもいい。なんもなしで今みたいな行動をしているなら早死にするぞ」
知られたら対策されてしまうから、全てを知られない様に次から次に準備していかなくてはならない。
自らの肉体を鍛えたところで、戦闘職の様には動けないのだから、道具に頼るしかなかった。
暗殺で一撃必殺されない限りは対応できる準備はあるが、絶対に暗殺されないまでの自信はない。手数を増やすことを考えるなら、星の多いダンジョンにはなるべく訪れるべきだろう。
逃げ出してきた身ではあるが、攻略できなければクリフをよんでもいいし、コータにはカレンと一緒にきてもらってもいい。
「戦闘職の身体能力ってずるいです」
「そうかい? 生活するなら生産職のスキルの方がずるいだろ」
わずかに男が冷ややかな視線を向けた。それはエイコが気づけばすぐに消えてなくなってしまう。
視線の先に何があるかなんて見なくても知っているから、エイコはため息をつく。
「従魔だけじゃ足りないですかね?」
隠していない従魔という手札だけで引いてくれれば楽なのに、男は引かないと見ているようだ。今ここで時間を潰しているのも護衛してくれているのかもしれない。
「夜ご飯一緒にどうですか? パンとスープとなんか出しますよ」
たぶん、魚よりは肉がいい。食事の在庫に何があったか考えていれば、挑戦的な視線を向けられる。
「酒はないのか?」
「わたしの作るお酒、貴族の贈答用なんですよ。わたしたちがガチャしている間の護衛してもらえるなら」
「やる。まかせろ。嬢ちゃんのおかげで足に不安もないからな」
なんの酒か確認しないうちに食いついてきた。酒を買うためだけに町に戻っているみたいな人みたいだし、アルコール度数高めなのが良さそう。でも、ダンジョン内で呑ますには軽い方がいいかもしれない。
酒の趣味なんてわからないから、試飲用に開けているのをいくつか飲ませれば、アルコール度数の高い物を好んだ。
「今飲んだ分が前払いです。後払いでバトル一本渡します」
これで酔っ払いにするのは、ふせげるはず。すでにちょっと顔赤いが、きっと大丈夫。
酒好きと酒に強いのは別かと思いつつ、酔っ払うのは町に帰ってからにしてくれと願う。
お勧めの飲み方として、お湯割りと水割りを教えておく。収納アイテム持ちのようなので、オマケでグラスもプレゼントしよう。
安全を確保してからゆっくり飲んでくれ。
酔っ払いの相手は嫌だと思いつつ、ガチャしていればレシピは集まった。
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