首都からさよならしよう

第142話

 がんばった。

 とっても、とってもがんばった。けれど、がんばりや我慢なんてものには限界がくる。

 それを当然としている人たちには理解なんてしてもらえなくても、貴族の淑女なんて向いていない。もう、無理なのよ。


 最初の予定ではお披露目だけでいいと着飾った淑女の仮面。付け焼き刃でこなしたお披露目は失敗ではなかったらしく、魔導具狙いの人に夜会やらお茶会に呼ばれた。

 こんな時のためのコネだよねと、アルベルト及びそのご実家を頼りにさせてもらったら、そちらから呼ばれる社交と依頼は断れないという罠が待っており、予定外すぎて何度となく部屋で一人、エイコはバブれていた。


 メイにグチに付き合ってもらいたかったが、あちらはあちらで忙しくしており、王族や貴族からの依頼に追われている。

 Sランク冒険者からの依頼もあったようで、ついにメイの持っていたスキルが日の目を見ていた。技能系貴族に叙爵されるかもという話もすでに出ているらしい。


 そんな忙しくしているメイの部屋に押しかけ、針子の手伝いをしているメイドたちを追い出す。


「もう、邪魔しないで」

「ごめんごめん。でも、強引なことでもしないと話す時間ないでしょう」


 話しながらもメイは布を織っている。


「それで?」

「そろそろ貴族やるの疲れたから家出、じゃなかった。旅にでもでようかと思ってね」

「エイコも依頼いっぱいきてたでしょ?」

「最低限やらないといけないのは終わらせたわ。納品は小出しにするけど。あとは、収益とか将来的にとか、できればやった方がいいくらいの仕事だし、無理してクオリティを下げてまでやる仕事じゃない」


 三ヶ月、貴族ごっこをすれば、王族と後ろ盾になってもらっている貴族の派閥くらいはなんとなくわかる。あとは、敵対すると面倒なお偉いさんをおさえておけばいい。


「一人旅じゃ寂しいでしょ? わたしも行くからこっちの仕事も仕分けして」

「仕分けするからさ、外見だけ新人冒険者をちょっと抜けたくらいの服、作ってくれない?」

「いいけど、小物はそっちに任せるわよ。わたしの分も」


 メイの仕事の仕分けをして、半月後の日の出前に執務室に手紙一枚置いて窓からガーゴイル板を使って脱出した。


 貴族の相手に疲れました。同郷の人に会ってきます。


 さて、この手紙で追ってはかかるだろうか。一応、四六時中監視される様な犯罪者ではないし、お仕事の依頼を受けてくるのをやめてくれれば、戻ってくるつもりはある。

 首都の関所を冒険者ギルドのカード提示して抜けて、国境に向かう進路をとった。


 山にはまだ雪は残っているが、街道にはもう残っていない。強い風が吹けば冷たく、旅に出るには少し早かったと思わなくもないが、仕事に追われるのも貴族の仮面を被るのももう嫌だ。

 久しぶりに長時間歩く。街道を進み、近くにダンジョンがあれば寄り道をして、街に辿り着けなかったら街道からちょっとだけ外れて自作キャンピングカーで寝泊まりする。


 昼間は気ままに移動して、夜には手慰みに仕事した。


「うちら、もしかして社畜?」

「そうならないための旅行よ」


 メイの問いに心当たりがなくもないが、たぶん違う。ちょっと集中しすぎて長時間スキルを使っていると意識が飛ぶのが、もしかして過労かもとか思うことはあるけれど、会社には属していない。

 急ぐこともなく、一月くらいかけて国境の町に向かえば、普通に出国できた。


 少しだけ出国できないこともあるかもと心配していたが、気にしすぎだった。


「男爵って貴族じゃ底辺だし、要人でもないか」


 仕事がありすぎて、勘違いしちゃったと、エイコ恥ずかしくなって笑う。


「まあ、仕事ばっかりしてると首都の家に閉じ込められている気分になったから仕方ないよ」


 メイも、もしかしたら国から出られないかもとしれないと心配していたようだ。


「勘違いとわかったんだから、気楽に楽しもう」


 この世界に来たばかりの頃とは違って、お互い仕事を頑張った分金銭的にゆとりがある。街もダンジョンも楽しむために行けた。


「湖のダンジョンって、珍しいよね」


 国と国との間にあるダンジョン。星三つのダンジョンで、戦闘職なら新人が行く様な混合ダンジョンへ寄り道する。

 エイコは空ではなく、水上で使う船のレシピが出て長期滞在を希望した。メイの方も水着のレシピや、そのための糸や布のレシピや素材が出て、長居に同意する。


 食材は淡水魚や川海苔なんがでて、鰻が出た時にはクリフを連れてこなかった事を後悔した。

 可能な限り保存して、うな重をを作ってもらおう。きっと、トミオかユウジなら作り方を知っているはず。


 ダンジョンの外で軽く連絡をいれたら、コータが飛空船で取りにきてくれるそうだ。ついでに依頼品を首都の家かギルドに納品してもらおう。

 明日の夜、ダンジョンまで来てくれるらしいから、使い方のわからない野菜も引き取ってもらうべく、収納アイテムに詰め替える。


「これ、レンコンぽいんだけど、料理の仕方まではわからないのよね」

「蓮の実の方はレシピが出たから詐欺スキルで砂糖菓子にはできるけど」


 スープに入れて煮たらいい物以外は、エイコもメイも使うのを諦めていた。

 鑑定スキルがスープにお勧めしてくれない物は、コータに持って行ってもらう。トミオたちでもわからなければ、クリフが料理してくれるはず。

 お金はいらないので、材料の一割くらい料理にして戻してほしい。


「二人だとメダル集まらないね」

「冒険者が多いからゴーレムで物量攻めできないのがツライ」


 たぶんやったら、モンスターと間違われて攻撃される。

 夜間にシルクの育成も兼ねて従魔に活動させているが、あんまり効率はよくない。


 ダンジョンが二◯層までしかないし、近くにある他のダンジョンは星五つの戦闘職用のダンジョンでしっかり冒険者として装備が揃っていないと挑戦するのも難しい。その結果、星三つの混合ダンジョンはどこの階層も混み合っていた。

 あと数日でどうにもならなかったら、メダルの買取も考えよう。現金よりポーションか武器の方がいいかもしれない。


「夜間は人が減るから、もう昼間は諦めて夜メインにする?」

「ガーゴイルに灯り持たせて視界を確保すればいけるかな?」


 夜間の方が凶暴なモンスターもいるが、灯り用に三◯体くらい飛ばして、討伐様に同じくらい用意すればいけそうな気はする。

 夜、さっそく試して試してみたが一層から五層の魔法陣まででやめた。昼間よりはマシとはいえ、それでもかなり冒険者がいる。


 拠点にしている自治都市を移動してしまえばいいのだろうが、専業冒険者でもなければ、ダンジョンのために移動なんてしない。その結果、星三つのダンジョンは余裕で、星五つ戦闘職用のダンジョンに挑戦できない人たちが夜活動しているらしい。

 効率が悪すぎて、拗ねて寝た。




 寝て起きたら、気分を切り替えて、ダンジョンボスを倒して戻ってきた人に交渉を持ちかける。


「武器か防具かポーションで、メダルと交換できませんか?」


 ポーションは確保しているし、ここのダンジョンならケガもしないそうで反応が鈍かった。ただ、見本に属性ナイフと耐性付きの布でできた手のひらくらいの小さい盾を見せたら話を聞いてく姿勢を見せる。


「どっちもわたしたちの作った物だから、剣でも槍でも服でも鎧でも作れますよ?」


 夜間活動して、ダンジョンボスでも平気で倒せる戦闘職がここにいるのは装備が足りないからだろう。にっこりとエイコは強気で交渉させてもらった。

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