王都の人々

第139話 ジュリアス王子の側近 ノトク

 第四王子ジュリアス殿下の王位継承権は、その生まれからすると大変低い。王族がほぼ絶滅状態にでもならないと、玉座につける可能性がなかった。

 生まれ持った職業が占い師であり、千里眼のスキルにより、未来視、過去視、遠見ができ、夢見のスキルもある。占い師としては大変有能なせいで、人間不信なところがあった。


 何しろ、現在良い人でも将来は裏切る未来が見えてしまう。いつくもある未来の一つでしかないが、そういう未来もあるとわかって信用できなくなってしまった。

 陰口やら酒の席での愚痴なんかも遠見で見えてしまい、不信感に拍車をかけてしまっている。そのせいで、ジュリアス殿下の側近は、有能であることより誠実であることが求められていた。


 幼い頃は夢見で裏切られたのか現実で裏切られたか混乱する事も多く、ジュリアス殿下の幼少期からお仕え続けている者は少ない。

 最近では裏切る未来にたどり着くまではと、雇うこともしているが、裏切るパターンが複数あると、だいぶ先のことでも許容できないようだった。


 そんな王子が異世界人でもある新男爵を婚約者に望んでいる。


「幸せな結婚生活でも見たのですか?」

「そういう未来もあるが、そうじゃない未来ある」


 万華鏡と称するほど、彼女の未来はたくさんあり、コロコロと見える未来が変わるそうだ。決して裏切らないなんてことはないが、嫌になると家出するタイプで、毒殺や刺殺に意識が向かないところが好評価になっている。


「殺意がない程度の理由なら、まっとうな貴族令嬢にもいらしゃるかと」

「型にはまった良い子ちゃんは、夢見で見た通りの行動しかしない。そんな現実か夢かわからなくなる相手は嫌だ」


 夢見を現実で見てしまうと、未だ裏切っていない者まで裏切り者に見えてしまうらしい。兄弟で殺し合う未来もあるようで、そんなものと現実を混同させたくないそうだ。

 ジュリアス殿下自身が陛下と呼ばれる未来もあるそうだが、かなりの確率で国が滅亡する。裏切る可能性のある者を次々と処刑して暴君となったあと、侵略か革命で国の歴史が終わるらしかった。

 王位継承権順位が下がってからその手の夢は見なくなり、兄弟に暗殺者を向けるしかなくなる未来も見なくなっている。

 ジュリアス殿下にとって、王位継承権が下がったのはいい事のようだ。


 人による確定していない未来については沈黙し、自然災害や流行病、戦争や国を大きく揺らす内乱、そんな未来を見た時だけ陛下に進言しており、代替わりしてもその立場は残るらしかった。

 占い師に頼りすぎる王では、ジュリアス殿下が玉座についたときと同じ結果になってしまうため、ジュリアス殿下は進言しすぎないように自制している。だが、陛下に物申せる立場を特権と捉える者もおり、ジュリアス殿下を操れるような女性を婚約者にはできない。


 お茶会の供をして、異世界人を間近に見た。野心家には見えなかったが、ジュリアス殿下を振り回すタイプに思えてならない。

 ジュリアス殿下はそれを楽しんでいるようだが、国まで振り回すようになったら困る。


「そこは僕と婚約してもしなくても変化ないよ」


 トイレは国中で変化するらしい。時間を要する地域もあるが、道端に捨てられることはいずれなくなるそうだ。


「あとは、遷都するかどうかかな」

「遷都するんですか?」

「汚い所よりきれいな所に住むたいからね。遷都は応援したい」


 利権関係の調整が問題ではあるが、汚い所よりはきれいな所がいいと誰もが思っている。だだ、それだけでは今ある王都の有り様を変えることも、遷都も難しい。

 婚約は遷都への布石になるらしく、ジュリアス殿下は乗り気だ。


「一目惚れですか?」

「ん? うーん、好意はある。将来的には恋もできるかな」

「殿下?」

「彼女は僕にとって世界に彩りを与える者なんだ。側に置くには嫁だろ?」


 政略結婚なんて、みんな最初は恋愛感情なんてない。一緒にいればわく情もあるから大丈夫だと、殿下はおっしゃる。


「側にいてくれるなら、部下でもいいが、部下なら飽きたってすぐ辞表出される」

「それは、嫌われてませんか?」

「決められた時間に規則正しく働くのに向いてないだけだ」

「それは、部下としてはかなり致命な問題です」


 だから部下にすると辞表を出されるのか。辞表を受理しないと、我慢の限界がきたところで暴れるらしく、本人の意思に反することを強制すると何するかわからないところがある。


「部下にするなら奴隷にでもしないと危険そうです」

「奴隷かぁ、止めた方がいい。職業からすると奴隷の首輪改造できそうだ」


 魔術だけで縛ると、耐性をつけられた時が危険だ。何より精神構造というか、判断基準が異なっており、命令者の意図とは異なった認識で行動する可能性も高い。


「もう少し幸せになれそうな女性にしませんか? 異世界人がいいなら他にも女性はいたはずです」

「他にも異世界人はいるが、もっとも気まぐれで先が見通せないのが彼女だから」


 現在確認されている異世界人の女性で、王都にいるのは三人。この三人の中で絶対に嫁にしたらダメなのが、現在地奴隷落ちしている女。身分の問題もあるが、政変が発生するらしい。

 王族及び上位貴族は愛妾でもお家騒動になる。争いを発生させやすい女だそうで、影響力の大きい相手には添わせたくない。


 そんな女に比べれば男爵となった女は温厚らしい。追い詰められない限り暴力的手段を選ぶ未来が少なく、満たされていれば破壊衝動もない。

 ただ、思いつきで行動するため、結果が本人の予定外になりやく、問題行動に見えやすかった。


「僕なら先見で問題になる前に止められるかもしれないだろう?」


 止めた結果悪化する可能性もあるが、その方向で陛下を説得するつもりのようだ。

 大人しくしている間は監視させてくれるが、嫌になると逃走してしまう。監視しても止められないのは、アルベルトが証明している。


「貴族令嬢は家族も親族もいるから、占いにはまるのが一人はいる。異世界人は面倒な親族がいないのがいいよな」


 至高の座につくなら、相手の女性は後ろ盾になれる親族が必要だ。だが、その座につかないのであれば、いない方が楽というとはわからなくもない。

 しかし、誰と結婚するのかで、結婚後の生活水準が決まる。異世界人に婦人業をこなしてもらうのは難易度が高い。完全にお飾りですむ役職になるはずだ。


「結婚したら解雇ですか?」

「しない、しない。老後の面倒みるから、ずっといろ」

「長生きできそうですね」


 老後の面倒を見てくれるなら、ジュリアス殿下が落ちぶれることはなさそうだ。なら、嫁は誰でもいいか。


「気まぐれだが、虐げる人ではないから、彼女ならノトクにとっても悪い人にはならない」

「殿下が誰を選んでもついて行きますが、男爵では王族と結婚するための地位が足りませんよ」

「大丈夫。結婚してくれるなら、あの子自力で陞爵するから、異世界人特例で、一代限りになるが」


 上位貴族のどこかの養子にして、無用な親族を作られるよりは、異世界特例の方がいいようだ。


「冷め切った仮面夫婦にはならないで下さいよ」

「冷め切った段階で逃げられて夫婦生活は破綻する。これから頑張って情を向けていけばどうにかなるさ」


 ジュリアス殿下は、追いかけている間に本気の情がわくそうだ。お相手の男爵は、好きと何度も伝えていけば、好きかもと絆されてくれるちょろいタイプらしい。

 口説き落とすのにはちょろいが、気まぐれな行動を許容する度量が男には求められる。

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