第135話

 効果証明に鑑定持ちの騎士に声をかけ、そこから現場責任者に声をかけてもらったらよく売れた。

 彼らの給料からしたら千エルはかなり安いらしい。


 そして、そんな状況を見ていた会場の支給係担当が、そっと現金を手渡してくるのでお守りを渡してあげる。

 思ったより売れたので、アルベルトにバルコニーに連れ出してもらい追加生産を行った。


 お守りが売れれば売れるだけ、お城勤務の大変さを感じてしまう。が、お城で働く事を夢見る子どもは多く、就職するのは難しいそうだ。

 給料はいいし、どの職種でも極めれば王族近くに侍れるのが魅力らしい。


 侍ることの魅力なんて、エイコにはまったく共感できないが、それはそういうものとして小金を稼がせてもらった。


 そんな事をしている間に王族の方々が会場にいらっしゃられる。毎年、五日目の夜は国王陛下夫妻と皇太子殿下夫妻は来ない。

 異国籍の冒険者が武器持ちで複数人いるための措置らしく、その分側妃や王子や王女が来られるそうだ。


 お城でおこなわれる新年会は、どの集まりにも必ず王族の誰が参加するようにはなっているそうで、お城勤務の者は誰もが忙しい。なのに一番最後の夜会が一番問題発生率が高いと、新年からこっち激務だった者に優しくない順番になっている。

 その上、くる予定のなかった王女様がやって来て、アルベルトが笑みを深めた。


 やってきた王女様は三人。おそらく幼いといってもいい二人の王女はアルベルトにとって問題はないのだろう。もともと参加予定でもあったらしいし、警備担当者の顔を引きつらせたりはしていない。


「君の参加を聞きつけて、無理やり入って来たそうだ」


 離れた場所にいたレパードがわざわざアルベルトのそばにやってきて、警備担当者から書き出してきた情報を流す。


「彼女の側を離れるつもりなら、預かるぞ」

「いや、大丈夫だ。防御力はうちの部下が証明してくれたからな」


 少し黙ってエイコを見つめ、おそらく鑑定を使ったのだろう。驚いた顔をしていた。


「その辺の冒険者よりよほどいい装備だ」


 その発言はドレスの褒め言葉ではない。でも、今日この場で比べられる冒険者は高ランクだ。

 ならば、メイの作る者はそのランク帯の人にも売れるだろう。家に帰ったら教えてあげよう。


 面倒な作法の多い貴族相手にドレスを作るより、冒険者相手に装備品売った方がたぶん楽だ。

 メイに独立されてしまうとちょっとばかり困るけど、メイが店を持つ事に夢を見ているのは知っている。

 それも作業服や装備品といった実用品ではなく、オシャレ着の店だ。


 オシャレを楽しめる層が限られているため難しい夢になっているが、叶わない夢だとも思えない。

 エイコ以外にもドレスや装備で固定客がつけば、どうにかなる。


「怖い思いはしたくないのですが」


 刺された後、ドレスに穴が空いていなかったら、メイのドレスの売り込みにはいいのだろうか。

 いや、でも、ケガしなかったとしても刺されたくはない。


 エイコは儚く困り顔した。

 この場にいる一番年上の王女からめちゃくちゃにらまれる。視線が怖い、ヤバすぎてそっちの方向が見れない。


「これは、やらかすな」


 ぼそっと、レパードがつぶやく。

 感情が昂っても抑えられるなら、今までも問題は起こしていないそうで、エイコはアルベルトに一撃受けるまでは絶対に反撃するなと念押しされた。


 そして、この念押しが耳元で囁くような感じだったのが、より怒りを高めたようでアルベルトが立ち位置を変えてエイコを相手から隠す。

 たぶん、それよりダメなヤツ。


「おや、思いのほか甘やかしているね」

「こいつ、自動反撃型の従魔持ちだ。ブレスはかれたら会場が消し飛ぶ」


 レパードが片手で顔を覆う。


「アオイは良い子だから大丈夫ですよ。会場壊して逃げなくてはいけない状況にならなければ攻撃手段くらい選んでくれます」


 ちゃんと状況判断できる賢い従魔だ。会場壊して空に逃げるしかなくなったら、その時は国外に逃げるしかない時だろう。


「アルベルト、私は常々君のステータスに女難スキルがないのが不思議でならないよ。偽装か隠蔽してないか?」


 近くにいた仕事中の騎士を呼び、なんかこそこそ話して悲しそうにレパードはアルベルトの側にいる。

 どうも危険ありと判断して護衛についてくれたようだ。


「レパードは不運ってスキルがあるだろ?」


 男たちは女難と不運で悲しい言い合いを始めてしまう。だから、真っ先に幸運のお守りの売りつけ先されたのか。


 会場にいた楽団が奏でる曲がダンス曲に変わる。どうやら、二組の王子と王女がダンスを披露するようだ。

 勝手にきた王女様は相手がいないので踊らないのかと思っていたら、二曲目の前に婚約者が来たようで、踊りだす。


 歳の差婚になるのかな。おそらくお相手の男性は二〇代で三〇代には到達していないが、王女は一〇歳前後の差がありそう。

 美男美女の組み合わせなのだが、実質は猛獣使いと猛獣。家の復興のために猛獣を受け入れ、いかに大人しくさせるかが婚約者のお仕事になっている。


「レパード、踊ってくるから、次、誘ってやってくれないか?」

「それは光栄だ。一人にさせたい子ではないしな」


 曲の終わりに王族たちがダンスをやめたのと入れ替わりに何組もの男女が踊り出す。エイコはアルベルトとそのうちの一組として加わった。


「レパードと踊っている間に王女にだけ一人であいさつしてくるから、残りの王族は一緒に行くぞ」


 エイコと離れている間に一番ヤバイのだけは処理してくれるらしい。一応、エイコもあいさつした方がいいのだが、王族へのあいさつは貴族として力のある順になるため、新米男爵にその順番が来ないことはままあるそうだ。

 アルベルトは実家の影響で順番が早いから、一緒ならエイコもあいさつができる。


「レパードさん、ダンス上手?」

「ああ、任せておけば無難にこなしてくれるだろう」


 相手が女性と言うだけで、恥をかかせない努力をしてくれる人だそうだ。いい人すぎて不幸体質になっているのかもしれない。


「ダンスのお礼に胃薬あげたらいい人?」

「ダンスにお礼はいらないが、胃薬は喜ぶ。あとは、奥方への美容品」


 鑑定持ちのたがら、何を渡しても安全確認をしてから使ってくれそう。言葉を重ねなくても効能を理解してもらえるのもいい。


 アルベルトからレパードに引き継がれ、エイコは続け様にダンスを踊る。


「ちゃんと練習してきたんだね。基本に忠実だ」

「ダンスの先生の評価は、優秀な男性に任せておけば大丈夫なレベルだそうです」

「それは責任重大だな」


 重大だと言いながら気負ったところはない。余裕があるようで踊りやすくもある。

 背は高いのに細身。けれど力強く安定感もある。柔和な顔に既婚者と聞けば、よいパパになれそうな人に思えた。


「捕まったな」


 踊りながら周囲を見る余裕のあるレパードは、あいさつするまでは順調だったが、アルベルトの順番になったとたん、べったり王女に張り付かれたらしい。

 婚約者は引き離すべく奮闘しているが、手間取っているそうだ。


 曲が終わり、ダンスが終わってもエイコはそちらを見ない。


「刺されないためには生贄に差し出したいわ」

「アルベルトを独占したいとは思わらないのかい?」

「あれは観賞用です」


 遠くから見て楽しむくらいがちょうどいい。


 周囲の女性からの視線で、アルベルトほどではなくても、レパードも人気があるのだとエイコは理解した。

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