変葉樹の化粧室ダンジョン 難易度⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
第117話
移動した先のダンジョンも不人気らしいが、妖精の工場よりマシ。あちらは八日いて、まったく他の冒険者と一緒にならなかったが、こちらは冒険者がいる。
だだ、生産職限定ダンジョンなのに難易度が星六つと優しくない。
「えっ、軍人?」
「一緒にいるの、懲罰冒険者? 冒険者消すためのヤバイ現場?」
「目撃者がいるんだから、ヤバイことはしないだろ? してくれるなよ」
クリフは制服を着ていないが、それ以外の人はみんな揃いの服を着ている。詳しい所属まではわからなくても軍属なことくらいはわかってしまう。
王都近くの不人気ダンジョンに軍人が間引きに入るのはよくあることらしいが、冒険者と一緒なのは珍しいらしく先に来ていた冒険者たちに混乱されていた。
こちらから関わろうとしなければ、あちらからも関わってこないようで、互いに不干渉のまま探索に向かう。
妖精の工房より変葉樹の化粧室はドレスや装飾品が出やすいそうで、メイは張り切っている。
ここのダンジョンは舞台裏というか、楽屋裏みたいな空間が五六層も続く。解放感のない室内様相ダンジョンで、エイコは好きになれそうになかった。
今回は戦闘職種の方がいないので、戦闘を丸投げはできない。安全確保のため、早々にゴーレムと自動人形を収納アイテムから出す。
アオイが翼を広げて飛び回るには狭い空間なため、小型化して左肩に乗せ、モンスター探知を手伝ってもらう。
ここのモンスターは人型をしたのが多い。顔だけ化け物だったり、人形だったりと、化粧室というよりお化け屋敷を思わせる。
ここのダンジョンは七層ごとに帰還用の魔法陣があるため、今日は一四層を攻略したら終わり。明日は四二層か四九層あたりまで攻略して、明後日にはダンジョンを踏破する予定にしている。
午後からの探索となった今日のうちに無理なんてしないし、予定通りにならなくてもそれはそれだ。
冒険者だからといって、危険を冒すすもりはない。安全は大事だし、痛いのはイヤ。ダンジョンを探索するのはメダル集めが目的で、戦闘職じゃないんだから戦わなくていいモンスターとは戦わない。
ゴーレムや自動人形に任せられるなら、全部任せてしまうことに拒否感もなかった。
ダンジョン探索では無茶な行動に出ないと理解してくれたようで、七層を
超えた先からエイコとメイとクリフ三人で先に進む。
「君ら探索は堅実なんだよな」
「安全第一」
「命は大事」
クリフのぼやきにエイコとメイは即答する。
全身耐性付き装備だし、剥き出しの首から上以外は、この辺りのモンスターでは装備を壊すこともできない。
エイコもメイも装備品だけは、新しいレシピが手に入る度により良いものに更新しているし、互いに融通してもいる。
ポーションよりは装備品のほうが、単価は高い。金策をそっちでするのもアリだ。
匿名で売れるなら収納アイテムなのだが、金策のために危険を呼び込むのは避けたい。
お金になって、製作者だと知られても誘拐や囲い込みの心配がない範囲がわからなくて、エイコはクリフを見つめる。一般常識はクリフでもいいけど、お金の事になるとパトスの方が強い。
ダンジョンの外で彼らは野営しているはずなので、夜にでも聞いてみることにする。
無難に予定通りの探索を終え、帰還の魔法陣を使う。ガチャボックス前の広場には他の冒険者もいて、すぐにはガチャできそうになかった。
ダンジョンの外に出るとメダルが消えるで、メイに預かってもらい外に出る。
通信端末の通信状況を確認し、パトスに声をかけた。
「妖精の工房で切れない剣とかナイフいっぱい出たでしょ。あれに斬撃付与したら売れるようになる? 衝撃に弱い盾とかに打撃耐性とか斬撃耐性でもいきけど」
パトスは少し考え込んでから口を開く。
「金策の話か?」
「うん。最近お金かかりすぎでツラい」
「仕事用の貯金使えばいいだろ。貴族として見栄を張るのも仕事だからな」
貴族になるのも仕事だと考えればそうかもしれないが、暗殺者が送られてくるかもなんて脅されてなければ王都になんて来ていない。
だから、貴族になるのは仕事のためというより安全のため。
何度となく貴族について説明されたが、偉い人という以外エイコは理解できてない。階級社会がどうにも実感できなくて、陞爵の栄誉なんてわからない。
とにかくお金がいることと、事あるごとに贈り物がいるらしい事しか飲み込めてなくて、ひたすらお金のことばかり考えなくてはいけないのが苦痛だった。
冒険者としては稼いでいる方で、陞爵はたぶん成功者。なのに、金がないと悩まなくてはいけない。
成功者とか、下克上なん望んでないから、もう少し楽に、穏やかな日々を過ごしたかった。
どうにもならなくなったら、空でスローライフかな。エイコは自身に農業適性はないと考えているけれど、ラウたちがいるのでどうにかなるだろう。
逃げ場を考えながら、もうちょっとだけがんばってみる。
「どうにもならなかったら貯金を使いますが、手持ちでどうにかなるならどうにかしておきたいです」
問題は、何なら売っていいのかだ。
「付与武器にするなら普通のにしろ。妖精の工房のはダメだ。あれは素材が良くても高値がつかない」
「王都もラダバナみたいなオークションあるの?」
「ラダバナほどではないがあるぞ」
ラダバナで売ったこのとある物をとりあえず作るか。ただ、オークションだと現金化されるまでに時間がかかる。それでもないよりはマシだ。
「パトスさん。装備品に付与付けたいです。交渉して下さい」
ダンジョンに入ってこれない戦闘職の人たちが、ギラギラとした目を向けてくる。
「一つ一〇万エルくらいでやるか?」
「何付与したらいいの?」
「剣とナイフに属性」
「防具に耐性も欲しい」
「今日はあんまり魔力使ってないし、夜ご飯食べた後でいいならやる」
入れ替わりがあるから正確な人数はしらないけど、アルベルトは部下を二〇人くらいは連れてきている。全員が希望してくれたら何百万かにはなるだろう。
「マナポーションも売って欲しい」
「毒消し薬、お願いします」
どうやらアルベルトがそばにいないらしい。上司がいないので、今まで直接声をかけてくることのなかった人たちがバラバラと要望を告げてくる。
品質保証を同僚のパトスができるから、彼らからすれば買いやすいのだろう。
買いたいと言ってくれているのだから、ここはしっかりと売る。黙秘してくれるならハイポーションでも、それ以上でも売るのだが、彼らからどのくらいむしり取っても許されるだろうか。
クリフが呼びに来て、ダンジョンの中へ戻る。すでにメイがガチャを始めており、にまにま笑っていた。何かいい物が出たらしい。
「わたし、ここに長居したい。たぶん、職業と相性がいいわ」
メイのガチャが終わり、エイコの番になってから理由を理解した。ここのガチャ、化粧品が出る。整髪剤もでるし、化粧品の調合や錬金レシピも出た。
「アオイ、行ってきて」
『はーい』
魔導ゴーレムも魔導人形も投入し、夜の間もメダル回収をしてもらうことにした。
「エイコ、化粧興味なかったでしょ?」
「いくらお金になっても毒物とか売りたくないけど、化粧品なら気に病まなくていいもの」
毎日学校に化粧して行くメイたちとは違い、エイコは眉毛をちょっと整えたり、乾燥対策のリップクリームくらいしか元の世界では使ってない。
そんなエイコでもこの世界の化粧品は少ないと感じていた。毎日化粧ばっちりなマナミたちのグループに属していたメイとしては、色バリエーションの少ない最低限の化粧品しか無い日々は物足りなかったのだろう。
長期的な金策を考えると、消耗品で単価を高くできる化粧品はいい。エイコがにやついていると、メイからあきれた視線をおくられた。
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