妖精の工房ダンジョン 難易度⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

第113話

 飛空船で一日。サクッと王都メルゼルス城下町の手前の平原に到着した。

 早速街に入るのかと思えば、近郊にあるアルベルトの実家の別邸に滞在するらしい。


「よそ様のお家は緊張する」


 お貴族さまのお家より野営がラク。寝られる乗り物は地上に空にもあるし、面倒は避けたい。


「なら、ダンジョンに行く? 情報収集が終わるまで城下町に入るのは避けたいからね」


 情報収集しないで城下町に入るのは、ダンジョンに武器を持たないで入るのと同じだそうだ。

 メイはともかく、エイコは陞爵の話がどのくらいウワサになっているかで対応が変わるそうで、高位貴族に対処できるアルベルトと一緒でないと連れ去りからの監禁、囲い込みもあり得るそうだ。


「監禁されたら爆破して逃げてもいい?」


 正直、メイは友人だが、人質にされても監禁からの強制労働で我慢できる日数はそう多くない。頑張って一月くらいではないだろうか。年単位で我慢できるほどの忍耐力は持ち合わせてはいない。

 メイ以外の相手なら、クリフたちなら自力で逃げられるだろう。特に関係性のない相手のためになんて我慢できる気もしない。ならば、逃げ出す隙ができたらエイコは即逃走する。


「逃げるのはいいけど、爆破は相手次第というか、場所次第かな。ただ、確実に逃げられる状況じゃないと、爆破なんてしたら待遇が悪くなるからね。慎重に静かに逃げ出した方がいいんじゃないかな」

「クリフ、爆破はダメだとしっかり教えておけ。誘拐と監禁の証明ができないと有責からの奴隷落ちの可能性が高い」

「エイコの陞爵前だと確実にそうなるね。陞爵しても相手の方が地位が高いとその危険性はある」


 貴族相手なら静かに逃走。貴族の後ろ盾のある相手なら、アルベルトの所まで逃げられないなら静かに逃走。アルベルトにすぐ接触できるなら相手次第で爆破は可能。判断がつかないなら、やめておくのが無難。

 相手が貴族ではなく、貴族と関係がないなら爆破していいそうだ。


「その場合、完全に相手は犯罪者だからな。ただ、王都にいる犯罪者集団は貴族と繋がりのある者も多い」


 不愉快そうにパトスに王都の実情を告げられてしまう。


「もしかして、ラダバナの方が治安がいい?」

「治安は大差ないが、王都の方が罪に問われない理不尽が多い」


 パトスが苦々しく告げ、クリフが仕方なさそうに解説を入れてくれる。


「王都は貴族が多いからね。表に出ない物事が多いんだよ。平民はコネと金がないと泣き寝入り。下級貴族はコネがないと泣き寝入り。中級貴族になってやっと賢いと自衛できるくらいだから」

「そんなヤバイ町イヤ。行きたくない。もうずっとダンジョンにいよう」


 両腕でバツを作り、ぶんぶんと頭を横に振る。城下町に入る前にラダバナに帰りたくなった。


「政治、経済、文化の中心地だよ。よろしくない相手に目をつけられなければいい町だよ」


 にこやかにクリフが語り、パトスが視線を逸らして付け足す。


「陰謀と疑惑の中心地でもある」


 にこっとメイが笑い、クリフとパトスを見すえる。


「ねぇ、それをラダバナから遠く離れた場所に来てから語るのはなぜかしら?」


 男どもは視線をそらした。


「なるべく治安のいい場所に店を用意する。護衛のできる従業員もつけよう」


 部下に指示出しが終わったらしいアルベルトがやってきて、真摯にメイに語る。


「異世界人というだけで狙う者もいる。君自身もまた狙われる側である事を理解してもらいたい」


 異世界人という珍獣を求める好事家もいるようだ。


 怒りを作り笑いで抑え込んでいるメイを見やり、エイコは少し冷静になる。異世界人だから危険だというなら、今更だ。

 こういう話の時にアルベルトが入ってきた事に違和感がある。いつもなら、王都で出店の話なんてクリフだけていいはず。


 基本、直接関わるのはクリフで、その補佐にパトスがいる。アルベルトは名前だけで直接関わらないのが標準で、なんかいつもより連れている部下も多い。


「あっ、アルベルト様関係でもなんか狙われる理由ある?」


 アルベルト、パトス、クリフは特にこれといった反応はしなかった。名前の知らないアルベルトの部下の半分くらいも無反応だったけど、反応してくれた人たちもいる。


「そういえば、モテすぎる人でしたね」

「あー、そばにいるだけて女に嫉妬されるのか」


 エイコの趣味ではないが、アルベルトの顔が整っているのは理解していた。メイは、怒りをおさめ、危険性に納得する。

 そんな二人にアルベルトは舌打ちした。


「女性向けの店作りたいのに、貴族女性から嫌がらせされる可能性大って、詰んでない? 護衛の従業員がいたらどうにかなる程度なの?」


 情報収集してみないと何も決められないそうで、メイの問いの答えは今後の課題となる。店が無理なら、しばらくはエイコにのみ服を提供するそうだ。

 その場合、メイは比較的安全だが、エイコに向けられた嫉妬は増える。エイコは自らの危険性が上がるのかと不安になったが、メイの事があってもなくてもエイコに向けられる危険性は変わらないと諭された。


 ラダバナならとっても役に立つ後ろ盾だが、王都だと危険を呼び込むらしい。


 情報収集したら対応してくれるというのだから、それまでダンジョンにこもっている事にする。

 キャンピングカーなゴーレムを出して雪道を移動した。


 なぜか、アルベルトも一緒に移動している。どうも別邸には親族がいるらしく、城下町に入る前にあいさつに行く必要はあるが、長居はしたくないらしい。

 そんな所に泊めようとしたのかと、冷たい目を向けてしまった。


「旦那の愚痴と恋愛話につきわあされるくらいなら、ダンジョンでモンスターを狩っている方が有意義だ」


 保護している相手の様子見という理由をつけられると気づいて、部下だけ動かす。けれど、だいぶ無理矢理な理由らしく、相手には逃げたと知られるが、好んでいないのを承知で延々と話を聞かされるため、接触時間を減らしたいらしい。

 部下はその巻き添えのようだが、部下の方もダンジョンは半分休暇感覚だそうだ。


 王都組は完全に仕事。別邸の方も情報収集の必要があり仕事だが、王都組よりはマシ。ダンジョンはアルベルトの護衛がメインで、集めた情報を分析する必要はあるが分析する側でなければ気楽なものだと言っていた。


「上司に言いよる女から上司を守らなくていいのが本当にいい」


 そんな事を語った彼らは、アルベルトに言いよらないエイコとメイに好意的だ。異世界人だから美醜感が違うのかもしれないとも思われているようだが、エイコもメイも訂正はしなかった。


「アイドルや俳優を彼氏や旦那にしたいと思わないのと同じ感覚なんだけど」


 メイは美的感覚が狂っているとは思われたくないようで、ちょっと拗ねている。


「異性っていうより造形物として鑑賞したいよね」


 動かなければ舌打ちもされないし、エイコを怒ることもない。


「やめてよ、ヘンな石像とか作らないでよ。エイコが作ると動きそうで嫌」


 石像の材料はあるし、ゴーレムか自動人形にしたら動く。が、あえて作りたい物でもない。


「あんまり人間ぽいのは作りたくない」


 特に誰をモデルにしたのかわかるくらいの精度の物は、拒否感があった。

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