第112話

 夜が明けてから、ラダバナの町から離れた荒野に、無事着陸した。

 家の畑でも着陸できそうだったが、畑に悪影響がありそうで、ちょっとミスった時に危なそう。なので、失敗した時に問題が少なそうな場所にした。


 大きい飛空船は、離着陸の場所をよくよく考えなくてはいけない。安全運用するためには候補地をクリフやパトスに考えてもらう。

 起こりうる危険性については、元の世界で大人だった男たちに聞き取りすることを勧める。たぶん、エイコよりは空港の知識があるだろう。


「いい調理場だったな」

「お前、ほかに気にするところあるだろ!」

「もう調理場以外気にしたくない。乗り心地は良かったんだ。もう、それでいいじゃないか」


 二人の言い合いはそっとして置いて、飛空船を収納アイテムにしまう。


「なぜ、あの巨体が収納できるんだ⁉︎」


 頭を抱えるパトスに、悟りを開いたかのように穏やかな視線をクリフが向ける。


「アレはもうああいうモノと思うしかないんだ」


 エイコがクリフに視線を向ければ、にこっと笑ってくれる。


「どうする? どこかダンジョンでもよって帰る?」

「家具が出るダンジョンなら行きたいけど、雪降る前に帰った方がいいかな?」

「そういうダンジョンはあるけど、ラダバナの近くでは心当たりはないな」

「そんなダンジョンあるの?」

「王都の近くにあるよ。あんまり人気ないけど」


 興味があるなら、連れて行くと約束してしてくれた。王都行きが少し、楽しみになる。


 アルベルトに報告に向かうパトスと別れ、帰りがけに立ち寄ることにした。星二つの混合ダンジョンで、若い子が多く利用している。

 ガチャで出やすいのは道具類で、武器や防具、農具も出るそうだ。ただ、魔術が付与されている様な物はほぼ出ないそうで、必要な道具が集まると皆、別のダンジョンに向かうらしかった。


 八層しかない浅いダンジョンをのんびりと半日ほどで攻略し、ガチャをすれば単純な道具類のレシピや材料が出た。

 クリフは包丁やまな板も出たが、カトラリーや食器も出る。二〇枚ほどガチャって、食材が出なかったため、残りのメダルをくれた。


「職業補正でクリフなら食材出そうなのに出ないんだ」

「エイコも薬草出てないだろ? 植物系は出なくいのかもしれないね」


 そういうダンジョンもあるのかと、帰路に着いた。




 奴隷はコータに任せ、金策と人材の相談をリクシンにしながら移動日まで過ごす。途中、メイに何回かキレられたが、頼られるとノーを主張しにくい彼女は、着々と移動準備をしてくれる。

 そういうところは助かるけれど、ダメ男に引っかかるというか、ダメ男を生産する原因だとエイコは疑っていた。


 本人がそれでいいならいいけれど、ずるずるとダメになる男よりは、最初から調子だけはいいヒモを彼氏にすればいいと思う。今後、首都で店を立ち上げてもらって、エイコが男爵に陞爵した後なら、男を囲うくらいの収入は余裕であるはず。


「王都に行って、顔が良くて優しい、生活力のない男をメイに紹介できたら、怒らなくなるかな?」

「それはどうだろう? メイは真っ当な彼氏が欲しいはずだよ。今回の結果がアレだっただけで」

「そうかな?」


 メイの事を相談したクリフにちょっと困ったように語られ、エイコは首を傾げる。

 元の世界にいた時から、メイの彼氏は微妙。全てマナミに心変わりしているし、アレならまだ最初からマナミ目的だったと言われた方がマシなくらいの対応をされていたはず。


 彼氏をどうするかなんて、結局当事者しか決められないけど、メイには男運は無さそう。マナミが友人なあたり、女運も低そうだ。

 そういう意味ではカレンは人運は良さそう。奴隷落ちまでしているのに、早々に奴隷の身分を返上して、すでに真っ当な結婚を夢見ている。


 このまま順調にいけば、その夢は現実のものになるだろう。


「メイは、切磋琢磨できる同業の男がいいんじゃないかな。メイの負担を減らせる人を選んで、店で雇うことで囲い込みをすれば逃げられない」


 どうやら人選が問題なようで、囲い込みにはクリフも賛成なようだ。


「まともな恋愛できてない二人にごちゃごちゃ言われたくないわ」


 キッチンのそばのカウンターで語っていたら、背後でメイが仁王立ちしていた。


「首都の方がツテがあるから、要望出してもらったら探すよ?」

「わたしは疑似恋愛がしたいんじゃないの。普通の恋愛がしたいの!」


 叫ばれたので宥めにかかる。


「メイ、恋に恋したらロクなの選ばないよ。まずは、恋愛は置いといて取引相手として必要な人とか、雇いたい人について考えよう」

「それで、狙いすまして囲い込めって?」

「結婚ってそういう事でしょ」

「エイコの場合は、料理人として雇うってカタチの囲い方もあるんじゃない?」

「雇っただけだと、彼氏いないのってマウント取りにくるのがいるでしょ」


 マナミに限らず、モテ自慢というか、恋愛至上主義な人はいる。そういうの相手にするの面倒だし、囲い込みたい相手が異性なんだから、エイコは彼氏でいいと思っている。

 最近、お仕事彼氏感出してきているので、逃げられそうな予感もしているが、お仕事的に離れるのも無理そうな態度も多い。


 エイコは、彼氏も結婚もどうでもいいと思ってしまうこともあり、大恋愛なんて向いていない自覚もある。現状、良好な関係ならそれでよかった。


「会う気はないけど、遭遇するかも、よ? マナミと」


 王都にずっといるかどうかなんて知らない。でも、高額になったマナミを競り落とせる相手が、経済の中心地と無縁なはずはないし、マナミが惨めに悲惨な扱いをされている姿もエイコは想像できなかった。


 マナミなら、誰を蹴落としてでも、どれだけの男を破産させても、自由を手にしそう。悪運だけは強そうだし、破滅する男たちを嘲笑い、涙を流す女たちを嘲笑していそう。

 そんな想像をあえてメイに告げるつもりはないけれど、可哀想な女にだけはなっていない予感がしていた。


「なんかさ、こう、メイが彼氏作ったとたんに遭遇して、持っていきそうじゃない?」


 メイはすぐに反論なんてしないで、考えこむ。


「くぅー、囲い込みアリか」


 だよね。そうなるよね。メイの彼氏ってだけで狙われないはずがない。メイ単独で遭遇するならいいが、彼氏と一緒の時に遭遇したら、失恋確定だろう。


「エイコ。あんた今まで彼氏いなかったからの他人事だったんでしょうけど、マナミが誰よりも奪いたいのはエイコの彼氏よ」


 メイの言葉に、エイコがクリフに視線を向けると、にこっと笑う。


「僕、仕事人間だから」


 右手で左手のブレスレットにふれ、その次にネックレスを引き出してチャームに触れる。

 エイコが用意したマナミのスキル対策はちゃんと身につけてくれているようだ。


「エイコ。あんたもう別れたら? 彼女より仕事優先発言よ」

「無職の男よりはいいんじゃない? 主夫はアリだけど」


 家事のできる魔導人形が育ってきたので、生活に対するストレスはだいぶ減ってきてはいる。掃除や洗濯はいいが、料理はまだまだクリフレベルにならない。

 エイコが作るよりは美味しくできるので、生活に支障はでないけど、なんか味気なく感じる。


 クリフは彼氏というより、主夫としていて欲しい人だと改めて思ってしまった。




 一四月初旬、飛空船で王都に向かう。残念ながら王都メルゼルス市街地に着陸できる場所はなく、その手前で着陸させることになるそうだ。

 ならば、その先はゴーレム車でと望んだが、一刻二時間もかからないで城下町に着くからと獣車を使うと知らされた。

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