第111話

 一四月中旬までには王都に向けて出発したいと、クリフからアルベルトの要望を伝えられた。

 雪によって移動に時間がかかることや、悪天候の場合は足止めもあるとのことで、冬場の移動は大変らしい。


「空から行けばよくない?」

「アオイと飛行訓練終わったのか?」

「アオイは短距離ならいいけど、長距離はまだ試してない」


 それに、アオイは一人乗りだし、がんばっても二人が限界だろう。


「アオイじゃなくて飛空船。吹雪でも問題なく上空を飛んでられる実験結果が出たから」


 雪道より絶体、空の方が楽。


「空?」

「雪の降らない快適な空の旅」


 小さい飛空船は風による揺れが大きいが、大きいのだとほぼ揺れない。細かい作業をしながらでも移動できるくらいに安定している。


 クリフはしばらく理解できない顔をして停止フリーズしていたが、動き出すとふらふらとどこかへ出かけて行った。おそらく、上司に会いに行ったのだろう。

 半日くらいして戻って来ると、飛空船の試乗を求められた。

 ついでにラウたちの一族も、一緒に空に上げてしまおう。寝る場所と食べる物があれば、あとは必要に応じて用意すれば生きてはいけるはず。

 ラウに何かあった時のために、通信端末の使い方を覚えてもらって、いずれコータを空に常駐させたらいいか。カレンが会えなくて嫌がりそうだけど、二人一緒に空に上げたらいいだろう。


 トミオたちには、空で農業が上手くいけば、販売してもらおう。ユウジには農業用のロゴも作ってもらわないといけないし、ショウは元世界では営業マンだったらしいから、ブランド化するための売り方も考えてもらおう。

 ダンジョンガチャの種やら苗で、空で作った農産物。珍しさだけは栽培が成功しただけで十分だ。問題は美味しいかどうかにかかっている。


 コータの豊穣の女神の加護が、どこまで効くだろうか。ラウの一族に農業に詳しい人がいればいいのだが、いなければいないで対応するしかない。

 農業がダメなら、付与アイテム部品の組み立てとか、生産物の販売用箱詰めをしてもらおう。


 自給自足してもらうのが理想たが、空の上なんて特殊環境下だし、すぐに上手くいくとは思えない。それなら、売上を増やして食糧を買わないと飢えさせてしまう。

 なるべく早くエイコの手を必要のない状態にしたいから、コータに初期投資費用となるお金を預けることにした。




 現在、質問は受け付けていません。今、やるべき事は奴隷たちへのお仕事説明と生活の仕方だ。

 他の人は空の上の安定感をまずは体感していて下さい。片足で何度も強く踏みしめたり、両足で飛び跳ねたくらいでは揺れすら発生しません。

 気のすむ様に確認してもらう。


「想定していたより大きいんだが」

「これ、農村くらいはあるぞ」

「畑を作るとはいっていたが」

「もう少し人を集めたら開拓男爵も目指せそうだ」


 クリフとパトスが何か言っているが、放置。アルベルトは安全確認が終わらないとこないそうで、パトスは鑑定を頑張っているぽい。


 奴隷たちの住むところは男子棟と女子棟の二つ。その他に作業棟とか倉庫も用意しているが、使い道を決めていない建物もいくつかある。

 コータとラウで相談しつつ、住みやすい様に使ってもらえばいい。


 あとは、赤字ににならない程度に収益があれぼ、長期実験データが取れる。


 ここというべきか、これというべきか、奴隷たちの暮らす場所は空の上で、移動もできる。

 空である事をのぞいて元の世界の物に当てはまれば、空母だ。


 飛空船が大量運用にされるようになったら、空港として使いたい規模でもある。

 なので、船上移動にも乗り物がほしい規模だが、そこまで魔力的に余裕がない。ここは今後の課題でもあるし、住人から一定魔力を供給してもらい、いずれは対処したい点だ。


 浮遊運行と環境維持と防衛に使う魔力はケチれないし、住人を増やしたら生存しているだけで排出される魔力やら大気中の魔力を集めるだけで理論状は運用できるらしい。

 だだ、まあ、そうなるためには住人が二ケタ足りてない。自然増加で住人を百倍にするためには、どれほどの時間がかかるかなんて計算もしたくないし、数年内に叶う事でもなかった。


 獣人が多産だったら可能性はあったかもしれないが、双子でも珍しいそうで、基本は一回の妊娠で一人産むらしい。


 奴隷たちに説明が終わると、不都合がないか各々確認してもらう。確認が終わるのを待っている間にクリフとパトスの相手をする。


「王都に行くのに使うのはここに来るまでに使った飛空船だから、ここは町から離して浮かせてるだけ」


 今ところは。


 今後の予定は未定だけど。


「この大きさなら地上からでも見えそうなんだが?」

「あー、下からは見えないように隠蔽魔術か、幻影魔術かなんか、そんな感じの使ってる」


 実験的にいろいろ試したから、これに使ったのが何か覚えていない。自分で作った物だから、鑑定すればわかるけど、わざわざ側面から下に回って鑑定するのは面倒だ。

 知りたいならパトスが鑑定すればいい。隠蔽魔術とか、幻術魔術が鑑定の阻害しなければだけど、職業鑑定士なら大丈夫なはず。


 安定運用を考えたら、畑より街にしたい。浮遊都市は楽しそうだが、住人をどうしよう。

 リクシンに頼めば奴隷は用意してくれそうだけど、奴隷都市を作りたいわけではない。


 気楽に街歩きできる治安のいい街。


 クリフ、パトスに相談すると、本業スパイの住人を用意してくれそう。治安は良くしてくれるかもしれないが、そんな住民ばかりは嫌だ。


 あと、声をかけられそうなのは冒険者だが、ダンジョンのない所にいてもらっても街の発展にはつながりそうにない。

 仕事もなく、時間を持て余した冒険者なんて犯罪者予備軍だ。

 仕事で雇っていてもらうのでなければ、休暇中か引退後のお金と心に余裕のある冒険者がいい。けれど、そんな冒険者に知り合いはいない。


 生活するのに問題がないか確認して、王都行きに使う飛空船へ向かう。いろいろ気になっていそうだが、アルベルトが乗るかもしれない船にクリフとパトスな意識を向けた。

 こっちはせいぜい大きな家が飛んでいるくらいだし、全室確認するらしい。なので、その間ドライブ気分で空を飛ばす。


 照明なんかの魔導具は備え付けているが、家具類はないので見て回るのも楽だろう。ただ、客室としての準備もないのでお貴族様を招くにはふさわしくなかった。

 必要な物やお世話する人は、そちらで準備して下さい。何にもなくても野営よりはマシなはず。


 パトスが念入りに鑑定しているようで時間がかかり、遅くなりそうだと調理場をクリフが利用する。調理器具の魔導具は設置してあるので、クリフは楽しそうだ。


 現状、大きな円を描くように軌道を設定した自動操縦だが、離着陸は手動になっている。

 飛行回数も多くないため、薄暗く視界が悪くなってくると着陸させるのに不安があった。


 鑑定がいつまでも終わらないパトスと、真新しい調理器具にご機嫌で料理したクリフのせいにして、夜間飛行試験に移行する。


 朝まで空の旅をお楽しみ下さい。


 家具類は錬金術で作れはするが、どうにも簡素な物になってしまう。なんの飾りもなく、重厚感や高級感がなかった。

 調理場のカウンターの向こうに広がる空間は、食堂予定。レイアウトの仕方によって数十人は同時に使える。


 そんな場所に、庶民的なお家のリビングにありそうなテーブルとイスを置く。違和感がひどいが、これで夕ご飯を食べるには困らないだろう。

 後は船長室に寝る場所を確保して、クリフとパトスに好きな場所で寝てもらうことにする。


 たぶん、きっと彼らも収納アイテムに寝具くらい入れてあるはずだ。

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