第114話
星四つの混合ダンジョンなんて、常日頃から身体を鍛えている戦闘職は簡単すぎた。不人気ダンジョンで、モンスターのポップが少しばかり早くても手こずることもない。
王都周辺はラダバナほどではないがダンジョンが多くある。しかし、ラダバナより多くの人の手があり、定期的にモンスターの間引きはされていた。
不人気ダンジョンとはいえ、倒してすぐ復活するような、モンスター吐き出し一歩手前なんて状況にはなっていない。
ラダバナでそんな状況に慣れてしまっている彼らの後を、エイコとメイが気楽に歩いてついて行っても、戦わなくてはいけないモンスターなんていなかった。
戦わなければメダルは手に入らないが、とりあえず初日は転移魔法陣を使えるようにする事を目的にする。
サラッとダンジョン攻略が終了した。どうも戦闘職からすると簡単すぎるらしい。職業差に思いをはせ、よく歩いた。
さて、メダル集めはどうしようか悩んでいたら、酒と交換でメダルをくれた。パトスはメイにガチャさせろと勧めてくる。
ここのダンジョン、レシピだけはまともらしい。そして、一番近い街である王都城下町の影響を受けているらしく、流行のレシピがでるらしいかった。
「見習いと半人前が作ったものは使えないから、素材と思え」
メイには流行りのドレスレシピを出してもらわないといけないので、生産職ガチャをメダルは半分と共に譲る。
残りの半分のメダルと共に混合ガチャの前にエイコは居座った。
エイコとメイの間にパトスがいる。たぶん、監視なんだろうけど、気にしない。詳細な鑑定が必要になった時だけ声をかけることにする。
ガチャを数回すれば、見習いと半人前の作った物は素材という意味が理解できる。腕が悪いほど素材の質がいい。
見習い職人が作った剣。切れない。なのに素材が高品質な魔銀。
半人前職人が作った胸当て。補正かけないと着用できない。でも、耐火性と打撃耐性が高い、高品質の革で作られている。
やっとでた一流職人の作った物はバターナイフで、素材は木。柔らかくて加工しやすい木のようだ。
普通に使えるけど、嬉しさは特にない。これなら、面白い高品質素材の方が喜べる。
エイコが微妙な気分になっていると、メイが叫んだ。
「一流職人が日に焼けて擦り切れた布でドレス作らないで。当たりはレシピだけじゃない!」
メイは当たりがあるらしいが、エイコが手に入れたレシピは喜べない。レシピが王都の影響を受けているというなら、王都はなかなか闇の深い場所だ。
媚薬や興奮剤のレシピが数種類に毒薬やら解毒薬に、毒検査の試薬がゴロゴロ出てくる。
単体では無毒で、複数混ざると毒になる物や、長期間投与することことで致死量にいたる毒とか、鑑定しても毒と判別されない系の物が多い。
パトスのような専門職や、相当鑑定能力の高い人でないとわからないと、レシピと一緒に使い方情報が手に入った。
朝、薬品Aを与え、昼に薬品Bを与えると毒になるものなんて、鑑定だけでは防げなさそう。チラリとパトスを見ると嫌そうな顔をされた。
「作るなよ」
「それは無理」
レシピ作りたい欲求は、いつまでも我慢できるものではない。どこかで作って発散するしかない衝動だ。
「毒物は蔓延させたくないから死蔵します。安全に破棄できるなら破棄してもいいですけど」
解毒と試薬は破棄しないし、試薬の確認の為に毒も使うけれど、流通させる気はまったくない。売りに出したら、疑心暗鬼に落ち入り病みそう。
そんな毒物よりももヤバそうなのが、精神に作用する薬。依存性があって、脳を破壊する。元の世界でいうならば麻薬。
作りたい欲求を満たしたら、即廃棄しておきたいが、燃やして吸引する事でも使用できるそうで、焼却処分は避けたい。
「ダンジョンモンスターに食わせて倒したら、よくない薬は消えてなくなるかしら?」
「やる時は戦闘職を用意しておく。くれぐれも自分で対処しようとするな。薬の影響で暴走されたら危険性だ」
パトスに諭され、コクコクとうなずく。問題はここのダンジョン、素材が出ない。でるのは加工品ばかりで、見習いが失敗している薬から素材を抽出しないといけないようだ。
持っているだけで危険そうなのは、一回作成できれば素材もない方がいい。そう考えれば、手間はかかるが素材が出ないのはいい事かもしれない。
楽しくないレシピをいくつも入手して、ガチャを終えた。メイの方も終えたようで、一緒にクリフの所へ夜ご飯を食べに行く。
食事は美味しく食べたいので、明日以降のダンジョンの攻略をどうするか話しているのを聞く。夜の間は誰も攻略に行かないようなので、アオイを放し飼いにする。
影の中ばかりにいてもらってもヒマだろうし、身体も動かしたいだろう。不人気ダンジョンなお陰で他の冒険者もいないし、ちょっとくらいアオイが暴れても大丈夫なはず。
王都入りしたら影の中にいてもらうことが増えそうなので、今のうちに遊んでおいてもらいたい。
パンと具沢山のスープを食べ終え、食後ののんびりした雰囲気の中、エイコは気になっていた事を問う。
「王都って、毒薬好きなの? 薬物中毒者も多い?」
「エイコ、落ち着こう。王都はそんな薬まみれじゃないよ」
夕食の片付けをしていたクリフになだめられるが、エイコの不安は消えない。
「エイコの出した錬金術レシピが薬物系ばかりだったんだ」
説明にならないエイコの代わりに、しっかりと鑑定していたパトスが口を開くと、アルベルトが舌打ちした。
「ラダバナよりは薬物が蔓延している。耐毒と解毒効果のある物は必ずしも身につけておけ」
どちらもない状態で食事をするなとまで言われる。アルベルトはそれにプラスして、耐媚薬特化のアイテムも身につけているそうだ。
「王都は権力と富が集中しているからな。その分、謀略が横行している」
暗殺も好きらしい。
「えっ⁉︎ そんな所へ行きたくない」
つい本音をこぼすとにらまれた。
さんざん陞爵の必要性を諭さられた後で、陞爵の為には王城に行くしかないとも説明されている。でも、そんな危険地帯だなんて話は聞いていない。午前中に似たような事は言われていた気もするが、薬物情報が増えた分嫌さ加減が上がった。
作法覚えなくてはいけないだけで辛いのに、王都は面倒すぎる。
優しくない話を聞いて、ささくれた心でダンジョンを一人出た。ちょっと後ろからクリフがついてきてくれているが、気分は上がらない。
風が冷たくて、空を重たい雲が覆っている。わずかに吐き出された息は白く、短時間だからと上着をとり出すか迷っている間に、背後から外套をかけられた。
クリフはこういうとこが手慣れている。
「ありがとう」
収納アイテムから通信端末を取り出し、通信状態を確認する。通信端末を渡している相手には、通信環境確認の為に日に何回かあとかいの一文字でいいので書き込みをお願いしていた。
だいたいみんな朝はおはようで、昼はこんにちは。夜はたぶん、こんばんはかおやすみになるだろう。
まだ寝ないだろうから、エイコはこんばんはと打ち込む。
最近のクリフは何をやっても見守っている感が強い。保護者ポジションを定位置にしつつある。
彼氏彼女としてのピークはたぶんエイコのプロポーズの時だ。
クリフとクリフの料理では、クリフの料理の方がトキメキが高いのが恋人としてはダメなのはわかってはいる。だからって恋心はコントロールなんてできない。
嫌いじゃないし、好意もある。甘えてだっているし、一緒に過ごす時間もあるけれど、別れたからってメイのように泣いて落ち込めるとは思えない。
そんなんだから、クリフはエイコにとって都合のいい保護者の位置に落ち着いてしまった。
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