第106話
エイコは男たちの視線を集め、少しばかり考える。これが恋愛脳なら逆ハーやモテ期とでも思えるのだろうか。
クリフを含めてまったく視線に甘さはないが、それはそれとして、彼氏としては問題だ。
ゴーレムも自動人形もレシピがあれば、錬金術スキルで作れる。なので、作れるだけなら希少というほどではない。
クリフの鑑定だと、ゴーレムと魔導ゴーレムは同じみたいだし、鑑定師のパトスに調べられなければ差異はわからないままだろう。
ダンジョンに鑑定できる人がいたら、知られている可能性は高いが、追及してこないなら大差ない物だと思われていそうだ。
気にしていないなら、あえてエイコから語ることもない。
数の暴力で勇者に勝る可能性と、囲い込みのために首都へ行かされることに意識を向け、顔色の良くない奴隷を見る。けっこう表情豊かだし、顔のつくりが違ってもわかるようだ。
「閉じ込められのは嫌だ」
「エイコ、大丈夫だから落ち着いて。何を想像したかわからないけど、たぶん間違ってる。閉じ込めたら高確率で暴れて脱走すると、報告してあるから。大丈夫、閉じ込めることはない」
アルベルトの背後に下がっていたクリフが前に出てきて、しっかりとエイコと目を合わせて諭す。
疑う目を向けるエイコに、ため息混じりにアルベルトが説明してくれた。
「陞爵だ。地位によって、国の枠組みの中に組み込む」
「陞爵するには王都で、国王陛下より爵位を賜らなくてはなりません」
パトスにされた説明により、エイコは気づいてしまった。
「作法の勉強をしろってこと? 勉強好きじゃない」
「陞爵すれば年金が出る。仕事だと思って覚えろ」
淡々とアルベルトにメリットを告げられたが、仕事としての魅力を感じない。
「作法覚える時間で魔石加工した方がお金になるよ」
嘆くエイコに、今まで黙っていた、リクシンが「売れ」と割り込んでくる。
「売る前に加工用の魔石買わせて。バレたなら、加工魔石で飛空艇造りたい」
「反省なしか」
冷ややかなアルベルトの声に、エイコは身体をすくませた。ヤバイ、怒ってる。めっちゃ怒ってる。
エイコはそっと収納アイテムからお酒を取り出して渡す。
「なんだ、これは」
「故郷の作法?」
荒ぶる神さまにお神酒を捧げる感じでお供えしてみた。あんまりいい反応じゃない。
「神酒より供物の方がいいのかな?」
トミオとユウジが酒の肴として気にいっている干物でいいだろうか。ちょっとイカかタコかわからない生物だけど、乾燥させるとあたりめのようになった一品。
エイコとして一夜干しくらいの方が好きだが、せっかく作ったので確保はしている。
「今食べるなら炙るよ?」
七輪はカレンが焼いて作ったので、エイコはそれを魔導具化した物を出す。トミオとユウジは炭火で焼きたいそうで、飲みながら魔導具化してない七輪を好んで使っている。
「クリフ?」
「お酒とお酒のつまみです。たぶん、怒られたのを気にした結果の行動かと」
アルベルトに名を呼ばれ、自信なさそうに答えていた。
「世界が違えばぁ、常識が違うかぁ」
「いや、他の連中はエイコと常識が同じだと思われるのは迷惑らしい。場合によっては侮辱だそうで」
クリフの発言に、男たちから向けられる視線が変わる。冷たくはないけど、好意的でもない眼差しをしていた。よくはないけど、怒りは緩和されている。
怒っていないならいいとしよう。
「あっ、焼けましたけど、食べます?」
リクシンが従業員を呼んでお茶の準備をしてくれたが、紅茶とあたりめは微妙だった。
お茶休憩の間に、リクシンがアルベルトに奴隷の必要性を語る。
「異世界人よりはぁ、まだぁ、外国人の方が常識がありますよぉ。彼氏一人ではぁ、止められないことはぁ、証明されましたからぁ、そばに常識人を増やした方がよろしかとぉ」
「そうそう奴隷の立場になるような者には見えない。勇者の影響で奴隷落ちしたなら、落ち人に思うところがあるのではないか?」
二人の話を邪魔しないように、エイコは黙っている。けど、紅茶にはあたりめより焼き菓子の方がいい。切り分けられていないパウンドケーキを収納アイテムから出していたら、クリフが切り分けて飾り付けてくれた。
みんなに切り分けたので、家に帰ったら新しいのを焼いてくれるらしい。
美味しくおやつをいただき、一息ついたところで疑問だったことを口にする。
「勇者召喚した国って、どんな国? できれば、死ぬまでに勇者召喚の仕方抹消したいんだけど、難しい?」
帰れない故郷を思う度に、勇者召喚は迷惑極まりないと不快感が高まった。
「エイコ、そんな恨み深い方じゃないだろ? 何にかあったのか?」
戸惑いと心配半々に、クリフがエイコの目をのぞき込んでくる。
「時間が経つほど、失ったもの大きさを実感しただけ」
ホームシックになる度に、記憶は美化され、奪われた故郷に帰りたくなる。勇者召喚した国を滅ぼせば、元の世界に帰れるなら今からでも滅ぼしに行きたいくらいだ。
探せば、こちらの世界の方がいいところもあるけど、良いか悪いかではなく望郷の念に囚われている。
帰りたい。
そんな思いが、ふとした時に心を占めた。
「毎年戦争できるくらいには国力がある。それでも勇者がいなければ、四対六で獣人の国の方が有利だ」
勇者のいない時期にじりじりと国土を削られ、勇者のいる時期に国土を奪い返す。そんな状態を繰り返しているとアルベルトが教えてくれた。
もやはどうして戦争が始まったのかもわからなくなり、恨み辛みを積み重ねて終わらせることのできないほど拗れてしまっている。
「仮に、勇者召喚した国が滅んだら、獣人の国は戦争をやめる? その先にある人間の国と争う?」
エイコが奴隷に声をかければ、発言許可を得ている奴隷は答えてくれた。
「おそらく戦争になるでしょう。戦争をやめたい人もいますが、種族として憎んでいる人も多いです」
戦争していた国が滅んだら、勢いづいてより前のめりに戦争をしそうだと語ってくれる。
「戦火が拡大するのは嫌だから、国が潰れないように勇者召喚方法だけ狙わないといけないのか」
そんな都合のよい手立てがあるだろうか。
勇者召喚する国なんて滅べばいいのに、なれけばないで戦争に巻き込まれるなんて迷惑すぎだ。
勇者の誰か、国を乗っ取ってくれないかな。誰かに建国してもらえば、今いる勇者召喚について知っている支配者階層を全員潰せそう。
戦闘職の勇者に、統治能力がなさそうなのがつらい。勇者にあてがわれた女の中に、野心家で統治能力がある人がいればいいが、そう都合よくはいかないか。
勇者召喚した人たちが喜んでいる状況なっていると思うと、ムカツク。どうにか不幸になってもらえないものかエイコは頭を悩ませる。
どう考えたところで答えは出ない。答えがあるかどうかすらわからないし、勇者召喚した国について、エイコは知らなすぎた。
「隣国に手を出されるよりは空で遊んでいる方がマシか」
アルベルトはひどく悩んだ顔をする。
「リクシン、お前の直感はどうとらえている?」
「この奴隷を受け取ったとき売る相手はぁ、エイコしかいないと直感しましたぁ。買った方も買われた方も悪い事にはならないかとぉ」
「奴隷売買については許可する。エイコ、どう扱う?」
これで正式に買えるようになったが、アルベルトから向けらる視線は優しくない。
「空で畑の管理。場所を確保したまま開店させられていないから、店番もして欲しい」
ゴーレムや自動人形の管理も任せられるのだろうかと考え、少しばかり気になった。
「獣人の国のダンジョンに行ったら、獣人型の自動人形のレシピ出るかしら?」
「陞爵した後でないと、国外に出られないぞ」
「えっ?」
捕獲から軟禁だとアルベルトに告げらる。よその国に組みされる可能性を見過ごせないほど、エイコの有しているスキルとレシピは価値が高いそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます