第105話
侮蔑するつもりはないけれど、侮蔑になるのだろうかと迷いつつ、願望を口にした。
「触っていいなら毛はなぜたい」
すごく柔らかそうな毛をしている。獣人って人なんだし、きっと噛まれないはず。ブラッシングしたら楽しそうだ。
「触るなら場所は選べよぉ。痴女になるぞぉ」
「えーと、手なら大丈夫?」
「初対面の異性に触れられて許容できる範囲を考えたらいいよぉ」
知らないおじさんに手を握られたら嫌だ。手以上は、もっとムリ。そう考えると、触れてもいい関係性を作ってからじゃないとダメだ。
「見るだけにします。ちなみにシャンプーは頭髪と顔と身体で分だ方がいい?」
「こいつ以外は分けた方がいいだろうがぁ、こいつはどうだろうなぁ。話していいからぁ、答えろぉ」
リクシンが奴隷に発言許可を出す。ついでに鑑定するから、エイコの話し相手をするように命じた。
「奴隷なんて真冬でも全身水洗いできたらいい方なんですが、シャンプーの心配ですか」
「えっ、お風呂は大事だよ。お風呂のない生活なんて嫌だもん。専用にお風呂場作るからみんな清潔にしよう。あーでも、身体に欠損があるなら難しい?」
「そこは許可がいただけるなら奴隷同士で協力させれば可能です」
困ったようにため息をつき、毛のあるところはすべて頭髪用でいいと、教えてくれた。
「シャンプーは自作してるから、匂い違いがいっぱいあるよ。好きになってくれるのがあるといいけど」
「それも売れよぉ」
「ダンジョンであんまり素材が出ないから、売るほどはないよ。思いつきで種類増やすから、買った素材使っているくらいなのに」
収納アイテムの中で劣化させるくらいなら、素材を用意してやるから出せと凄まれる。渋々出せば、ブランドロゴを入れた容器を作れと言われた。
「ガラスでなくていいならカレンに頼むから、待って」
「わかったぁ。こっちで香りを選んで素材送りつけるからなぁ」
これ、拒否できないやつだ。
「あなたにしては雑な商談ですね」
「細かいことは保証人とやるからいいんだよぉ。買われた後はお前がやってやればいいさぁ」
「商売してくれるの?」
店番好きじゃないし、その時間に何か作った方が有意義だとエイコは思っている。自分で売れた方が売価は上がりそうだけど、値切られたら下がってしまう。
期待して見つめれば、困った顔をされてしまった。
「単価の高そうな薬もあるんだけど、取り扱い注意みたいで売りに出せていないのがある」
「取り扱い注意と思った理由はぁ?」
「冬前のダンジョンの間引きで一緒になった冒険者の反応」
とりあえず様子見に、部位欠損回復薬を部位別に並べてみる。
「薬作りをまめにしたらぁ、それだけで億にとどくなぁ」
「えーと、これでヤバそうなの初級編って感じなんだけど」
中級編が万能薬で、上級編は神薬一歩手前のヤツだ。
「出して大丈夫かしら?」
「彼氏のいないところで出しているのはぁ、狙ってかぁ?」
「知ると彼氏の胃がかわいそうなことになるらしいわ」
にこやかに告げれば、リクシンはにこやかに応じてくれた。
「わかったぁ、見せるなぁ。買い取ったあと、奴隷に情報秘匿命令出して判断してもらといいよぉ」
奴隷の彼が目を見開く。
「一応、欠損回復薬はラダバナでも売られるているって聞いているよ? あっ、ハイポーションもある」
「それ以上はぁ、黙ろうかぁ。金が足り無さそうなら買ってやるがぁ、それまでは秘匿しておけよぉ」
「そのような物の判断を、私に委ねるつもりですか?」
奴隷が奴隷商を、すがるような目で見つめる。
「奴隷は命令しておけばぁ、情報公開できないからなぁ。君にはぁ、一般常識のある奴隷が必要だよぉ」
ムダににこにことリクシンはエイコに商品すすめ、商品には一族すべて買取してくれる相手は他にいないと諭していた。
「そういえば、奴隷の欠損って、治していいの? 売る先もなく余っているし、人体実験扱いならいい?」
「治した方がぁ、使い道は多いよなぁ。しばらく人前に出さなければいいさぁ」
「それなら、大丈夫。あー、高所恐怖症だとまずいかな? 下が見えなければ平気だよね」
鑑定の片手間に話をしていたリクシンの手が止まる。
「何をやらせるつもりだぁ? 奴隷商の方で赤字を出してもぉ、大事にしたい獣人国の取引相手からのぉ、紹介者に危ない扱いはやめてくれよぉ?」
「今、安全確認しているから、使う頃には安全よ」
にこっと笑っておく。なんかすごまれた。
「現在進行形で何をやらかしているんだぁ?」
「乙女の秘密を暴いちゃイヤ」
にへらと笑うと、背後から冷たい声がした。
「詳しく聞かせてもらおうか」
そろっと背後を振り向くと、眉間に皺を作ったアルベルトがいた。
エイコがフリーズしている間にリクシンは立ち上がり、出迎えれなかったことを謝罪する。アルベルトは謝罪を受け入れ、リクシンが譲ったエイコの正面に座った。
これから始まるのは話し合いではなく、尋問だと予感する。わかってはいるが、驚きで思考が鈍化した頭ではうまいいいわけが思い浮かばなかった。
「どこからも苦情が出るようなことはしていないわ」
「悪いことでないなら、隠す必要はないな」
顔がいい人が怒ると大変怖い。顔面の圧が強いと、エイコは視線をそらしてうつむく。
エイコはエイコで、憂いた表情がよく似合い、ほだされる人が多い自覚はない。ただ、この場にはほだされてくれる人はいなくて、エイコの味方はいなかった。
「ちょっと空に畑を作ろうとしているだけです」
「空は許可が出るまで待てと言われていたはずだが?」
「占拠はしてないもん。苦情もでてない」
がんばって反論するが、アルベルトの表情は厳しいままだ。
吹雪の日に屋根裏部屋の窓から空にいろいろ上げたが、なんとか畑予定の空中広場の話だけで誤魔化す。将来的は飛空船のステーションにもなる予定だが、そこは沈黙したままでいられた。
地上観測用の浮遊体とか、通信端末のアンテナとかも浮遊させているけど、これ以上怒られたくなくて口を閉ざす。
尋問していたアルベルトは深く座り込み、背もたれに身体を預けていた。疲れを見せているのに、肘掛けに置いた手の先がイライラと後を立てていた。
トントンと指で肘掛けを叩いていたが、不意に音が止まる。
「首都へ行くか」
エイコは首を横にふる。マナミがいるところは嫌だ。
「わかった。国境の外でやるから」
「今更逃してはやれない」
アルベルトに、思いのほか真面目な顔で告げられて、エイコは困る。何を考えているかわからない瞳に見つめられ、居心地の悪さを感じた。
「国外に出たらダメなの?」
「国内に囲い込んでおきたいとは思われている」
絶対にダメではなさそうだけど、ご自由にどうぞという状況でもないようだ。
「希少性なら勇者がいるよ。囲い込みならそっちにして」
「君より勇者がまさっている点はなんだ?」
「戦闘力」
ものすごく残念な物を見る目をアルベルトから向けられた。そんな目を向けらる理由を理解しないエイコに、クリフが語りかける。
「エイコ、ゴーレムや自動人形による数の暴力で戦えば、個の武勇にまさるよ」
百や二百のゴーレムなら対処できる戦闘職は、勇者でなくてもいる。アルベルトもそのくらいなら負けはしない。
ただ、その数が千や万になれば、違った答えも出てくる。
「ゴーレムや自動人形、最大でどれだけ同時に使える?」
「自分で作った分だけだよ」
クリフの問いにエイコが答えれば、アルベルトについてきていたパトスがウソはないと保証する。
ゴーレムや自動人形は自律行動させれば、数の上限はない。魔導ゴーレムや魔導自動人形をまとめ役に使えば、より細やかな行動もできる。
使える状態の作成物がそのまま、同時に使える上限になっていた。
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